アングル:米中第1段階通商合意、中国の輸入目標達成は困難か

アングル:米中第1段階通商合意、中国の輸入目標達成は困難か
1月14日、コモディティーのトレーダーやアナリストは、米国と中国の「第1段階」の通商合意について、中国が米国産コモディティーの購入目標をどのように達成するかを具体的に描き上げるのに苦心している。写真は15日、ホワイトハウスで署名式に臨むトランプ米大統領(右)と中国の劉鶴副首相(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)
[北京/シンガポール 14日 ロイター] - コモディティーのトレーダーやアナリストは、米国と中国の「第1段階」の通商合意について、中国が米国産コモディティーの購入目標をどのように達成するかを具体的に描き上げるのに苦心している。
15日に調印される通商合意について説明を受けた関係者によると、中国は2年間で米国産エネルギー関連製品を500億ドル購入するほか、農産物を2017年の購入実績から約320億ドル増やすと約束。また米国で製造された製品の購入も800億ドル拡大する。
これにより米国の対中貿易赤字の3000億ドルは縮小する。だが中国のコモディティーの流通について研究しているアナリストは、中国が他の輸入先との関係を悪化させたり、国内生産者に損失を負わせたり、輸入の基準と割り当てを大きく変更したりすることなく、これほどの量を輸入できるかについて懐疑的だ。
ナティクシスのアジア太平洋チーフエコノミスト、アリシア・ガルシア・ヘレーロ氏は「中国が輸入を大きく増やし、国内総生産(GDP)に対する経常黒字の比率を現在の1.5%から引き下げるか、それとも米国と競争している現在の輸入先から貿易を分散化するか」について「後者の可能性がずっと高い」との見方を示した。
<エネルギー>
中国の通商筋やアナリストの話では、中国が目標を達成するには輸入品に米国産原油や液化天然ガス(LNG)、石油化学素材などを含めなければならない。
それでも中国は新たな合意を巡って、他の輸入国に米国が置き換わる形でない限りは、目標達成が難航しそうだ。
SIAエナジーのアナリスト、Seng Yick Tee氏は500憶ドルの購入目標について「達成するにはあまりにも強引で、実現できる公算は小さい」と指摘。米国から中国へのエネルギー関連製品の輸出は2017年と18年に約80億ドルだったと付け加えた。「年間250億ドルを達成するには、全体の輸入量を3倍に増やす必要がある」と話した。
ウッド・マッケンジーのアジア太平洋地区副会長を務めるギャビン・トンプソン氏は、エネルギー関連製品の購入目標に驚いたという。実現するには米国産原油とLNGに対する関税を撤廃する必要があるためだ。
輸入量よりも輸入品の質が障壁となるかもしれない、
SIAエネジーのTee氏は「中国の精製業者の大半は中質原油を処理するように(施設を)設計しているが、米国産原油は大半が軽質原油だ」と語った。
<農産物>
中国を拠点とする穀物トレーダーは、米国産農産物の輸入を2年間で300億ドル余り増やす目標は「衝撃的だ」と語る。増加分が1年間の米国産農産物購入額を上回っているためだ。「320億ドルが増加分ではなく、全体の輸入額であれば、(比較的)納得できる」と話した。
INGの中華圏担当エコノミスト、アイリス・パング氏は、1カ国からの輸入額をこのようにドル建てで固定することは、供給に支障を来す恐れがある上、国際的な穀物相場を歪める危険性もあると指摘。「世界の他国で生産された農産物の価格が、特に中国が(1月に)輸入関税を引き下げた後には、一段と下落する可能性がある。このため報復関税が撤回された後でさえ、米国は他国に対して競争上、優位に立てないだろう」と述べた。
中国ではアフリカ豚コレラの感染拡大によって家畜飼料用大豆の需要が減少している上、国内農家を保護するため輸入が割り当てによって限定されるため、トレーダーは中国が米国から具体的にどの製品を購入するのかを疑問視している。
中国の穀物輸入業者は「中国は確かに大豆を例えば3000万から4000万トン程度は増やすだろう。小麦は多分、輸入割り当ての範囲内で購入量を増やせるだろう」と語った。
別の穀物トレーダーは「これほどの量が中国に到来すれば、(国内市場は)大惨事になる」と漏らした。

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