アングル:期限目前、米中貿易協議の主な対立点と見通し

U.S and China trade talks in Beijing
(L-R) U.S. Trade Representative Robert Lighthizer, Chinese Vice Premier and lead trade negotiator Liu He, and U.S. Treasury Secretary Steven Mnuchin pose for a photo before the opening session of trade negotiations at the Diaoyutai State Guesthouse in Beijing, Thursday, Feb. 14, 2019. Mark Schiefelbein/Pool via REUTERS - RC1DC6EF81D0
David Lawder
[15日 ロイター] - ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とムニューシン米財務長官が今週北京を訪れ、閣僚級の米中通商協議に臨んでいる。
知的財産保護や産業補助金、市場アクセスなど幅広い分野で3月1日の交渉期限までに合意できなければ、中国製品に新たな関税を課す方針だ。
以下に米中協議における、主な対立点や、協議の結果が与える影響などをまとめた。
●米中は何を争っているのか
米国の対中貿易赤字が何年も続き、米政府によると自分たちの知的財産や企業秘密を中国は強制移転や窃取という形で組織的に入手している。そこでトランプ政権は昨年、米企業がより公平な土俵で競争できるように中国が経済モデル構造を変更するよう要求した。具体的には米企業が中国の提携先に技術移転を強制されないようにすることや、米国の知的財産権の全面的な保護を迫っている。
●協議において重視されているのは
USTRの説明では、最も基本的なレベルで将来のハイテク産業における優位をどちらが占めるかだ。中国は2025年までに航空宇宙、ロボット、半導体、AI(人工知能)、新エネルギー車など戦略的な10分野の技術力を引き上げることを決意している。
米政府としては中国がそうした技術力強化を図ること自体は差支えないものの、米国のノウハウを不正に獲得して実現させるのは許容できない。また中国政府が国有企業を強力に支援している構図が過剰生産につながり、市場メカニズムに依拠する米企業の競争環境を悪化させているという。
●中国側の言い分は
中国当局は、数々の米国の行動を、全体として世界経済で優位に立つのが必然となっている中国を抑え込もうとする取り組みの一部とみなしている。中国が米国企業に技術移転を要求したり強制しているとの見方は否定し、あくまで米中企業間の商業的な取引だと主張。同時にトランプ大統領に対して、対米貿易黒字を直接的に減らすために大豆やエネルギーを含む米国製品の購入拡大を提案している。
また輸入車の関税引き下げといった市場開放や、いくつかのセクターで外資系企業に中国合弁の過半数株保有を認める規制緩和を実施した。
●米国のこれまでの対中措置は
トランプ大統領は既に2500億ドル(約27.6兆円)相当の中国製品に輸入関税を課している。機械製品や半導体など500億ドル相当には税率25%、多くの化学製品や建材、家具、一部家電などには税率10%を適用。
今のところ、携帯電話やコンピューター、衣料品、靴など大半の消費財は関税対象外だが、米中協議が3月1日の期限までにまとまらなければ、約2000億ドル相当の中国製品の税率が10%から25%に引き上げられる。トランプ大統領は13日、交渉期限を若干延長することはできるとの見解を示した。
●中国は報復策を講じたか
中国は報復策を講じている。大豆、牛肉、豚肉、シーフード、ウィスキー、エタノールなど500億ドル相当の米国製品に25%、液化天然ガス(LNG)、化学製品、冷凍野菜など600億ドル相当の米国製品には5─10%の関税を課した。
主にボーイング(BA.N)が製造する商用機はまだ関税対象となっていない。トランプ氏と習近平国家主席は昨年12月、協議中は新規関税導入を見送ることで合意した。これを受け、中国側は米国製自動車への関税適用も停止し、米国産大豆買い入れを再開している。
●協議の進展状況は
中国は、すべての補助金制度を世界貿易機関(WTO)規則に準拠させ、市場を歪めないようにすることを約束。だが関係筋によると、具体的な手段の詳細には言及していないという。この提案が米国の交渉担当者を満足させるかは不透明だが、中国が米国の懸念に対応しようとしている可能性は見て取れる。
1月末に行われた協議では、補助金や技術の強制移転の問題について、両国の立場には大きな開きが残ったままだったようだ。一方で、知的財産の権利を巡っては交渉が進展したことが示唆された。
米国からの要求で重要なのは、中国が約束する改革の進捗状況を定期的に点検する仕組みの導入だ。これが実現すれば、米国による関税引き上げリスクがずっと続くことになる。
また中国は、今後6年間で1兆ドルを超える、農業やエネルギー、工業製品を含む米国製品の輸入を提案している。
●米国製品の購入を基本とする中国案を受け入れるか
トランプ大統領は合意達成に楽観的で、13日には協議は「非常にうまく進んでいる」との考えを示した。
だがトランプ氏は、5日の一般教書演説で、中国が米国製品を大量に購入したとしても、合意には十分ではないと述べた。中国と通商合意を結ぶには、「不公平な通商慣行を終わらせ、米国の慢性的な貿易赤字を削減するとともに、米国民の雇用を守る実質的かつ構造的な改革を盛り込んだものでなければならない」と述べている。
トランプ大統領が知財関係の構造改革要求を軟化させることはないと、大統領の側近は指摘。米国は昨年春、米国製品の買い入れ増加という中国側の当初案を退け、関税措置に踏み切っている。
●今週の協議はどうなるか
両国ともに一定の進展があったと表明する可能性があり、3月1日の期限を延長して交渉を継続するとの発表があるかもしれない。昨年行われた、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直し協議でも同様の措置がたびたび取られた。
懸案の構造問題でまたも行き詰まりが見えればマイナスの材料と受け止められ、投資家は米国の追加関税導入に備えることになる。
もっとも貿易協議は土壇場まで予断を許さない傾向があり、最終的な結果は2月末まで判明しそうにない。何らかの合意ができても、トランプ氏と習氏の承認が必要だ。
交渉期限前に、両首脳が直接会談する予定はない。

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