焦点:米国の橋は本当に危険か、インフラ「劣化説」を検証

Jason Lange and Katanga Johnson
[ワシントン 31日 ロイター] - トランプ大統領は、30日に行った初の一般教書演説で、米国のインフラ劣化を問題視し、橋梁や道路に対する投資の増額を求めた。
今後10年間で官民合わせて少なくとも1兆5000億ドル(約164兆円)のインフラ投資を求めたトランプ大統領は、「わが国の偉大な建築遺産を取り戻すことができる。輝かしい新たな道路、橋梁、幹線道路、鉄道、水路を国土の至るところに建設する」と演説した。
トランプ大統領が掲げた計画の細部は曖昧であり、どのようなプロジェクトにどれだけの金額が投じられるかは明らかではない。だが他の政治家やロビイスト同様、トランプ大統領は再三にわたり、国民やビジネスにとって橋梁が危険だと指摘している。
全国岩石砂礫(されき)協会から全米飲料協会に至るまで、さまざまな業界団体がインフラ投資拡大を要求している。
だが、ロイターが全国の橋梁データを分析したところ、橋梁など道路インフラの安全性を巡る懸念は誇張されており、より深刻な別の問題に対する注意をそらしてしまいかねない。
●幹線道路にかかる橋梁の約9%が、昨年時点で構造的な問題を抱えていると考えられる。だが1日最低1万台の車両が通るような交通量の多い橋梁のうち、問題があるのはわずか4%。とはいっても、倒壊の危険が迫っているわけではなく、単に改修が必要だという程度だ。
●20万台以上の車両が通る、国内で最も交通量が多い約1200カ所の橋梁については、この数値は2%以下、つまり20カ所以下にまで減少する。
●構造的に問題があるとされる橋梁の比率は、1992年に22%、2009年に12%と、ここ数十年で低下している。
実際、2014年の学術的研究では、毎年約120カ所の橋梁が倒壊ないし部分的に倒壊しているという結果が出ているが、ほとんどが構造的劣化ではなく、洪水、火災、そして衝突によるものだ。
また、倒壊した橋梁の大半は通過車両数が1日755台未満であり、死傷者が出たものは全体の約4%にすぎない。
「私たち一般市民は安心すべきだ」と、2014年に橋梁欠陥に関する研究を執筆したニューメキシコ鉱業技術研究所の構造エンジニア、ウェズレー・クック氏は語る。
今回のロイターによる分析は、米国の道路インフラは依然として世界最高レベルだといういう、複数の独立した評価と一致している。
橋梁を含む道路ネットワークでは、米国は主要先進国のなかで世界第3位にランクされており、日本とフランスには後れを取るものの、ドイツ、英国、カナダ、イタリアを上回っている。これは、世界経済フォーラム(ダボス会議)がまとめた、企業幹部による最新の「世界競争力報告」からのランキングだ。
インフラ全般の質に関するランキングでも、米国は日本とフランスに微差で続いている。
専門家は、今後10年間で官民のインフラ投資を1─2兆ドル増やせば、拡大する経済のニーズを満たす、あるいはそれに近づくことになるという点に同意している。
だが、このままトランプ大統領などの政治家によってこの議論が歪められてしまえば、老朽化した水道管からの鉛被害や学校施設の整備など、切迫したインフラ投資ニーズ、あるいは地域経済効果の高いプロジェクトに投じるべき資金が奪われてしまうリスクが生じる。
「橋梁を改修するのも結構だが、その間に、メンテナンスを受けていない水道管が破裂して通勤経路が途絶してしまう」と語るのは、インフラ設計会社リフォーカス・パートナーズの創業者シャリーニ・バジハラ氏だ。
米国土木学会では、国内の大量輸送システムは他のインフラに比べ、質と予算措置の点で劣悪な状態にあると考えている。このロビー団体は2017年の報告書のなかで、米国のダムや堤防、上水道施設は橋梁よりもさらに悪い条件下に置かれていると評価している。
<きっかけは崩壊事故>
インフラ懸念が米国社会を揺るがせたのは、2007年、ミネアポリス市内のミシシッピ川を渡る州間高速35号線の橋梁がラッシュアワーに崩壊したことがきっかけだ。13人が犠牲となったこの事故を受けて、橋梁への投資拡大を求める声が高まり、その後の米国インフラに関する議論の基調となった。
だが連邦捜査官によれば、この崩壊の原因は老朽化ではなく設計上の欠陥だったという。
米国の橋梁問題の現実をよりよく反映しているのは、州間高速270号線がセントルイス郊外でフィーフィー・クリークを渡る地点だろう。
米運輸省の2017年版全国橋梁要覧をロイターが分析したところ、この橋を通過するのは1日約22万3000台で、米国で最も交通量の多い橋の1つである。この要覧は、国内の高速道路に架かる全長約約6メートル以上の橋梁61万5000カ所を網羅している。
ミズーリ州政府は、このフィーフィー・クリーク橋には構造的な問題があると考えており、改修費用として500万ドルを計上している。
橋梁の末端部分を支える構造の内部及び周囲に劣化が生じているのが問題だと、ミズーリ州の運輸局技官デニス・ヘックマン氏は指摘する。改修を必要とする橋梁では崩壊のリスクも高くなるが、必ずしも直に危険があるとは考えられていない。
ミズーリ州内には、2017年版要覧によれば、1日20万台以上の交通量があり、構造的問題を抱えているとされる橋梁が4カ所ある。「危険な段階にあれば通行止めになる」とヘックマン氏は言う。
実際には、州政府や地方自治体はたえず幹線道路や橋梁の改修を行っている。連邦政府による拠出を合わせると、2012年の橋梁改修支出は164億ドルに達していると、幹線道路への好況投資に関する米連邦道路管理局(FHWA)の最新報告書は示している。
米連邦議会予算局による2015年の報告書によれば、輸送・水道インフラ向け公共投資は、インフレ調整後の数値で見ると、米当局が金融危機後を受けた大不況対策を打つ中で、2009年と2010年にやや増大したが、その後4年間は減少している。
橋梁に関しては、ちょうどインフレ率に見合う程度に投資をやや増加させていけば、改修を必要とする橋梁の比率は2032年までに約3分の2に低下するだろう、とFHWAは昨年の報告書で述べている。
道路や橋梁の保守・拡充のためには、年間約370億ドルの予算を追加すれば十分だとFHWAは指摘している。
(翻訳:エァクレーレン)

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