焦点:米中首脳の「蜜月」、アジアに芽生える疑心暗鬼

焦点:米中首脳の「蜜月」、アジアに芽生える疑心暗鬼
 4月28日、トランプ米大統領(左)が中国の習近平国家主席(右)を「良い人だ」と温かく評価したことは、中国政府を安心させるだろう。 一方でアジアの同盟国からは、当惑を招くリスクもある。写真は4月7日米フロリダ州で撮影(2017年 ロイター/Carlos Barria )
[28日 ロイター] - トランプ米大統領が中国の習近平国家主席を「良い人だ」と温かく評価したことは、大統領がようやく良好な米中関係の重要さを認識したものだと、中国政府を安心させるだろう。
だが、一方でアジアの同盟国からは、それぞれが新しい秩序のどこに置かれるのかと、当惑を招くリスクもある。
米中首脳が築く新たな関係は、トランプ氏が昨年の大統領選挙中に、中国は不公平な貿易政策で米国の雇用を奪っていると非難していたころには、あり得ないと思われていた。
大統領選に勝利したトランプ氏は昨年12月、中国が自国の領土だと主張する台湾の蔡英文総統からの電話を受けて、外交儀礼をひっくり返した。
数カ月後の4月初旬、習主席とフロリダ州にある自身の別荘で会談したトランプ大統領は、その後180度意見を変えた様子で、習主席に対して核武装する北朝鮮を制御しようと努力していると称賛する一方で、再び電話会議を開こうとする台湾総統からの提案をはねつけた。
だが大きな疑問は、こうした急接近が続くかどうかだ。トランプ大統領は、昨年の選挙期間中にロシアのプーチン大統領に対する尊敬を口にしていたが、両者の関係はその後、冷却化した。
トランプ氏側からの接近を、中国政府高官らは疑いなく喜ぶだろう、と北京大学国際関係学院院長で政府の外交アドバイザーを務める賈慶国氏は指摘する。
「トランプ政権で唯一確かなことは、不確実性と予測不能性だと言われている。だが、これまでの発言や行動から判断する限り、中国関係についてはかなり安心できる。中国では、トランプ政権についてより好意的な印象を抱くようになっているし、両国が建設的に協力できるという期待も高い」と同氏は語る。
中国の周辺国にとっては、状況はもう少し複雑だ。
ある一面を見れば、世界の2大経済大国が健全な関係を築くことは、全ての国の利益にかなう。
「両国の対話がそこそこ建設的な始まりを見たことは、極めてポジティブなことだ」と、インドネシアのジョコ大統領の側近で投資調整庁のレンボン長官は、ロイターに語った。
とはいえ、長年の同盟国は、米政府がどこまで後ろ盾として動いてくれるか、いぶかる向きもあるだろう。
トランプ大統領が北朝鮮問題の対応で習氏の協力を得ることに集中し、「米中によるG2的な体制」が生まれれば、日本や韓国は影響力を失いかねない、と英王立統合防衛安全保障研究所のシャシャンク・ジョシ氏は指摘する。
「トランプ氏の中には、反発しあう(2つの)本能があり、同氏を同時に正反対の方向に押しやっている」と、ジョシ氏は語る。
「彼のナショナリズムは、中国と競争する方向に彼の背中を押す。しかし、彼の交渉者としての本能や、個人的な影響力への寛容さ、強いリーダーへの好意は、習氏の方向に彼を後押ししている。習氏が北朝鮮で結果を見せられるなら、なおさらだ」
ただ、不動産デベロッパーとしての交渉力を自慢してきたトランプ大統領は同時に、中国への姿勢は取引的なものだと明確にしている。国家安全保障面で大統領の最優先事項となっている北朝鮮問題で、中国の協力を得ることに集中するあまり、見返りに重要な貿易問題で中国政府への圧力を弱めることを公式の場で約束すらした。
とはいえ、トランプ大統領の側近には、北朝鮮の核とミサイル開発を制御するために、中国が十分な働きをするかを疑う向きもある。経済的なライバル同士の雪解けは、習主席が北朝鮮問題で成果を出せなければ、消え去ると分析する専門家もいる。
<南シナ海問題>
トランプ大統領のアジア戦略のヒントを得ようと、東南アジア諸国の指導者たちは大統領の発言を注意深く分析している、とシンガポールを拠点とするISEASユソフ・イシャク研究所のイアン・ストーリー氏は語る。
「ほとんどの指導者は、穏やかで協力的な米中関係を歓迎するだろう。だが、南シナ海の領有権紛争などの問題で、トランプ大統領が習主席にフリーハンドを与えるようなそぶりを少しでも見せれば、深刻な懸念を持つだろう」と同氏は指摘する。
対立が深まる南シナ海の領有権問題について、トランプ政権は現在のところ、曖昧な姿勢を示している。中国は、世界の貿易ルートとして欠かせないこの海域の大部分が自国の領海だと主張しており、ブルネイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムと台湾も、それぞれの領有権を主張して反発している。
米国は近年、南シナ海における緊張の高まりや、中国による人工島の建設加速を受け、同海域への米艦船派遣を増やしていた。だがトランプ政権下では、領有権が争われている島嶼(しょ)や岩礁の近くを航行して中国に対抗する「航行の自由」パトロールを、まだ行っていない。
米政権の高官は、中国が北朝鮮に対してどの程度圧力を強めるのかを見極めている段階において、南シナ海のようなセンシティブな問題で中国と敵対するのは避けたい、とロイターに語った。ただこのことは、アジア太平洋地域で拡大する中国の軍事的、経済的影響力に対抗する努力をやめることを意味しないとも同高官は付け加えた。
米太平洋軍のハリス司令官は26日、議会での証言で、南シナ海のパトロール航行を早期に再開する意向を示し、同海を軍事拠点化する中国に対する懸念を繰り返した。
「トランプ大統領と習主席の新たな友好関係を踏まえると、太平洋軍が、新たな『航行の自由』航行計画の承認を得るのはかなり難しくなったといえるかもしれない」と、ストーリー氏は語った。
<予測不能>
第2次世界大戦の謝罪問題を巡り、時に中国政府と反目する日本の政府高官は、急進展するトランプ大統領と習主席の友情が日米関係に及ぼし得る影響は軽微だと主張する。
「トランプ大統領が習主席への態度を和らげたことはパワーバランスの変化のように見えるかもしれない。だが日米の安全保障協力関係は極めて安定しており、現在の北朝鮮を巡る危機対応においてもそれは確認されている」と、同高官はロイターに語った。
一筋縄ではいかない台湾問題も、米中関係を乱しかねない要因として以前健在だ。
独裁的な中国が民主的な台湾を勝手に扱うことを許さないとする、台湾の友人が米政界には多く存在しており、米国には、台湾に自衛に必要な武器を供給する法的義務もある。
中国は、トランプ大統領が再び方針転換する可能性への警戒を崩していない、と北京大学国際関係学院の王棟准教授は話す。
「楽観的になるべき理由はあるものの、われわれはまだ現実的な立場をとっている。台湾から南シナ海に至るまで、まだまだ懸案はある」
トランプ大統領が韓国との自由貿易協定(FTA)を批判し、中国が反対する米新型迎撃ミサイルTHAAD(サード)の設置費用10億ドルを韓国に要求する発言をしたことについて、中国側は喜ぶかもしれないが、幻想を抱くべきではない、と北京を拠点とする西側外交官はロイターに語った。
「(トランプ氏は)極めて予測不能だ。来週や来月に何を言い出すか誰も分からない」と、この外交官は話す。「彼の気分はころころ変わる」
(Ben Blanchard、Philip Wen記者 翻訳:山口香子 編集:下郡美紀)

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