焦点:米大統領選前のコロナワクチン実用化、ゼロではない可能性

焦点:米大統領選前のコロナワクチン実用化、ゼロではない可能性
9月9日、米国で新型コロナウイルスのワクチンを11月3日の大統領選前に実用化できるかどうか、さまざまな角度から疑問が浮上しているA。写真は新型コロナウイルスワクチンのイメージ(2020年 ロイター/Dado Ruvic)
[ニューヨーク 9日 ロイター] - 米国で新型コロナウイルスのワクチンを11月3日の大統領選前に実用化できるかどうか、さまざまな角度から疑問が浮上している。ただ専門家は、それまでに安全性と効果があることを証明する十分な証拠を集められる可能性は、わずかながらもあると指摘する。
トランプ大統領は本選前にワクチン提供はできると繰り返し発言するとともに、米食品医薬品局(FDA)の中に存在する「闇の国家」が臨床試験を遅らせ、自身が再選を果たすのを阻んでいると主張している。
もちろんFDAは、意思決定はデータのみに基づいて行われると反論する形でトランプ氏の言い分を真っ向から否定した。8日には欧米の製薬9社がコロナワクチン開発は安全性を最優先して取り組み、有効性が十分に実証されてから当局に承認を申請するとの共同声明を発表。政治的な論争に惑わされず、人々の信頼に応える姿勢を打ち出した。
9日には英製薬大手アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発中のコロナワクチンについて、治験者に副作用が発生した問題で臨床試験を中断していると明らかにしたため、コロナワクチンの安全性に改めて関心が集まった。
<10月終盤の可能性も残る>
ただ他の企業からは最近になって、11月よりも前にワクチンが有効かどうかの答えを得られる可能性を示唆するコメントが出てきている。
ファウチ米国立アレルギー感染症研究所長はロイターに「11月より前に答えを出せるなら、それは本当に驚くべきワクチンになる」と語る。同氏によると、初期の試験結果が入手できる公算が大きいのは11月もしくは12月だが、10月終盤という目はまだ残っており「早々と十分な感染記録が集まれば、より早期に答えが出るという展開はあり得る」という。
ワクチンが承認の検討対象となるには、プラセボ(偽薬)に比べて少なくとも50%の有効性があると証明しなければならない。複数の政府高官の話では、そのためには被験者のうち最低150人の感染が記録され、感染者数はプラセボ群の方が2倍以上となることが必要だ。
また非常に有効なワクチンであれば、その結果はより短期間で分かってもおかしくない。米国で既に数千人規模の大規模臨床試験を実施し、現段階で開発競争の先頭を走る米製薬大手ファイザーと米バイオテクノロジー企業モデルナはいずれも、数十人の感染確認で効果が証明できるかもしれないとしている。
臨床試験のデータをあらかじめ決められた幾つかの段階で審査するのが、外部専門家でつくる効果安全性評価委員会(DSMB)だ。圧倒的に有効である、あるいは逆に全く見込みがないと判定された場合、その試験を途中でやめることを勧告できる。
ファイザーは、被験者32人が感染した段階でDSMBによる最初の審査を受ける予定。もっともロイターが取材した何人かの専門家は、限定的な人数では、本格的な規模の試験で判明するはずの重大な安全性の問題を見落としかねないと警鐘を鳴らした。
ファイザーはDSMBに対して、最初の審査の後、さらに4回の中間的な検証を求めている。広報担当者は「10月までに最初の分析結果を共有できるだけのデータが確保できるのではないか」と述べた。
モデルナは先月、被験者53人が感染した時点でDSMBの最初の審査を受けると投資家に説明した。
これに対してFDAの複数のワクチン諮問委員会メンバーになっているメイヨ・クリニックのグレゴリー・ポーランド博士は、53人の感染に基づく判断では「絶対数が不足している。安全性に関してほとんど知見が得られない」と懸念する。
圧倒的な有効さを理由に試験を打ち切るには、ワクチンの有効性が50%を超えることが必須となる公算が大きい。
ファイザーは、試験打ち切りのための具体的な基準を公表していない。同社のワクチン臨床研究開発部門シニアバイスプレジデント(訂正)のウィリアム・グラバー氏は「この基準が、有効性が非常に高いことの証明になるだろう」とだけ述べた。
<拙速のリスク>
ファイザー、ワクチン両社ともに7月28日にそれぞれ3万人規模の臨床試験を開始したが、2種類のワクチン接種の2回目の時期が1週間早いファイザーの方が、モデルナよりも先に結果を入手できる態勢にある。モデルナは、高リスクとされるマイノリティー住民の被験者をより多く確保するために試験をゆっくり進めたという面もある。
さらにファイザーの試験では、2回目の接種から1週間が経過した後、感染状況に関するデータの収集に入るが、モデルナはこの間隔を2週間に設定している。
元FDAのバイオテクノロジー局長で現在はパシフィック・リサーチ・インスティテュート上席研究員のヘンリー・ミラー博士は、少数の感染者数に基づく緊急使用許可では、何百万人もの健康な人への使用を想定したワクチンの安全性に対する十分な解答にならないと語り、幾つかの副作用は4カ月から半年後に発生してもおかしくないと強調した。
米バイオ医薬ベンチャー、ノババックスの研究開発責任者グレゴリー・グレン博士は、10月中のワクチン提供は可能性としてはあるとしながらも、国民はより長く待たされそうだとの見方を示した。同社もコロナワクチンを開発中だ。
グレン氏は「今は謙虚に振る舞うのが適切だと思う。FDAは(ワクチン開発)成功に厳格な基準を設けている。そのためにはかなり質の高いワクチンが申請されることになるだろう」と予想した。
(Michael Erman 記者、Julie Steenhuysen記者)
*内容を追加しました。

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