コラム:新エネルギーの星「バナジウム」、悩みは供給不足

コラム:新エネルギーの星「バナジウム」、供給不足が悩みの種
12月5日、一昨年のリチウム、昨年のコバルトに続き、今年は新エネルギーに関連する素材としてバナジウムが脚光を浴びた。写真は中国遼寧省丹東2009年7月、没収されたバナジウムを手にする国境警備担当者(2018年 ロイター/Jacky Chen)
Andy Home
[ロンドン 5日 ロイター] - 一昨年のリチウム、昨年のコバルトに続き、今年は新エネルギーに関連する素材としてバナジウムが脚光を浴びた。しかしバナジウムはかねて構造的な供給不足状態にあり、活用拡大の障害となりそうだ。
中国のバナジウム価格は今年3倍以上に高騰。数少ないバナジウム生産企業のひとつ、南アフリカのブッシュベルト・ミネラルズの株価は年初の4倍以上に跳ね上がった。
バナジウム・レドックス・フロー電池(VRFB)はエネルギー貯蔵の画期的な技術だ。しかし供給の少なさと、それゆえの価格の不安定さが、バナジウムの輝ける将来を見通す上で2大障害となっている。
<鉄鋼に利用>
バナジウムは鉄鋼を強化する性質があり、SPエンジェルのアナリストによると世界の使用量の90%強を鉄鋼業界が占めている。このため、世界の鉄鋼生産で支配的な地位を占める中国が、世界1のバナジウム消費国となっている。
中国はこのほど、耐震性強化のために建設用の鉄筋の強度基準を変更。これによって影響を受けるバナジウムの量は少ないが、SPエンジェルによると、積み重なれば年間1万トン前後の消費増につながる見通し。これは2016年の世界バナジウム生産量の12%前後に当たる。
<供給減少>
折しも中国は、環境政策のためにバナジウムの供給能力を減らそうとしている。
バナジウムは磁鉄鉱の精製過程で生産されるものが大半で、約73%は、鉄鋼を生産する際に生まれる鉄スラグの形をとる。
バナジウムを生産する製鉄所は、バナジウムを利用して鉄を製造する製鉄所とは異なり、伝統的に高コスト、低品質の磁鉄鉱を扱う業者が多い。
中国の製鉄会社は効率化や環境への配慮から、より高品質の磁鉄鉱を好み、こうした低品質磁鉄鉱への需要は減っている。この結果、バナジウムの原料である鉄スラグの生産も減る結果となっている。
SPエンジェルによると、中国がロシアから4種類の鉄スラグの輸入を禁止したことも、供給不足に拍車をかけた。
もうひとつのバナジウム原料である無煙炭の供給も、中国のスモッグ対策によって制限されている。
こうした中国の需要増と供給制約が、小規模なバナジウム市場を直撃し、価格が高騰した。
SPエンジェルによると、バナジウム市場は昨年既に8000トンの供給不足に陥っており、2020年まで需要が供給を上回る状態が続きそうだ。
無煙炭もしくは鉄スラグの精製技術が急発展しない限り、ブッシュベルトやカナダのラーゴ・リソーシズのようなバナジウム生産企業が供給不足を埋めるしかない。
<電池用需要>
バナジウムは発展途上国を中心に、今後のエネルギーインフラ構築の鍵を握り得る金属で、こうした状況は問題だ。
ブッシュベルトによると、昨年の世界需要に占めたエネルギー貯蔵用利用の割合はわずか2%前後だが、将来的な増加余地は非常に大きい。
ブッシュベルトはウェブサイトに「現在の推計では、2030年までにVRFBはバナジウム消費の20%となる見通しだが、今後10年間に(バナジウムが)エネルギー貯蔵市場の25%を占めるとすれば、5万トンまで上振れる余地がある」と記している。
5万トンとなれば、現在の世界生産量の約半分だ。
ブッシュベルトは「VRFB用バナジウムの供給を確保できるかどうかが、このシステムの成功の鍵を握っている」と指摘した。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

Opinions expressed are those of the author. They do not reflect the views of Reuters News, which, under the Trust Principles, is committed to integrity, independence, and freedom from bias.