焦点:新型ウイルスで世界景気は後退するか、10指標で緊急点検

焦点:新型ウイルスで世界景気は後退するか、10指標で緊急点検
2月25日、中国から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済を景気後退(リセッション)に突入させるのだろうか。ニューヨーク証券取引所で撮影(2020年 ロイター/Lucas Jackson)
[ロンドン 25日 ロイター] - 中国から始まった新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済を景気後退(リセッション)に突入させるのだろうか。
アジアと欧州で感染者が広がる中で、投資家が利用している多くのリセッションのシグナルは、まだその一部しか赤信号が点滅していない。つまり世界経済の足場が弱いからといって、必ずしもマイナス成長に陥ることはないかもしれない。
とはいえ断定するのは早すぎる。感染拡大はなお続いており、2月の重要な指標が出てくるのはこれからだ。さらに世界的なリセッションを予想するのは難しい。なぜならほとんどの国はデータの幅広さという面で米国並みにそろえることはできないからだ。世界経済のマイナス成長は、2008-09年以前を見ると、1990-91年の1回だけという非常にまれな現象ともいえる。
ただし人口増加率や、貧困国がもっと高い成長を必要としている点を考慮すれば、世界経済の成長率が2%を割れば、リセッションに分類できるのというのが一般的な見方だ。
国際通貨基金(IMF)は今年の世界経済が3.3%成長するとの見通しを維持しながらも、中国の成長率見通しを5.6%に引き下げるとともに、新型コロナウイルスの影響が以前の想定よりも長期化しかねないと懸念している。
中国の習近平国家主席は、今年の成長率目標である6%を達成すると明言した。だがリーガル・アンド・ゼネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)のポートフォリオマネジャー、ジャスティン・オヌエクウィシ氏は、新型ウイルスが経済活動を混乱させ続けるなら、中国の成長率が5%を下回る確率は90%だと指摘。「これは大事な節目になり、次に世界の成長率が2%より低くなるかどうかが問題になる」と付け加えた。
リセッションが訪れるかどうか判断する目安としてよく使われる10の指標を以下に示した。
(1)米国経済
世界最大の米経済がリセッションに陥れば、残りの地域も同じ状況となる公算は大きい。もっともコンファレンスボード(CB)がまとめた1月の米景気先行指数は過去最高水準を記録した。CBによると、約2%成長ペースという現在の景気拡大は少なくとも今年序盤いっぱい持続することを示唆している。
一方で同指数は、今や米国内総生産(GDP)の2割弱しかウエートがなくなった製造業関連の指標による影響が大きいという面がある。また1月の株高も指数を押し上げた。
(2)イールドカーブ
米国債の長短利回りの逆転(逆イールド)は、米経済悪化に関する信頼できる先行指標とみなされており、実際に過去50年間でほぼ全てのリセッションを予告してきた。
足元では新型コロナウイルス問題によって、3カ月物短期国債の利回りは10年債利回りを上回り、2-10年債利回りのスプレッドもわずか20ベーシスポイント(bp)弱まで縮小している。
LGIMのオヌエクウィシ氏は「米国債市場は、世界経済が2%未満の成長になる展開を織り込みつつある」と話した。
(3)中国モメンタム指数
李国強首相は経済動向を判断する上で、貨物輸送量、電力消費量、銀行融資残高という3つの統計を重視すると伝えられている。これをまとめたのがファゾム・コンサルティングの中国モメンタム指数だ。
同指数は08年、世界金融危機前に急落し、15-16年に中国経済の「ハードランディング」懸念が高まった局面では2を割り込んだ。
2019年12月は5.1と、米中貿易摩擦が激化した19年半ばの3年ぶりの低水準からは持ち直したが、新型ウイルスの影響で今年は恐らく指数の回復傾向が見えなくなるだろう。
(4)貿易面での警報
もしも経済成長が貿易拡大の恩恵に浴しているとすれば、バルチック海運指数(BDI)は警報を鳴らしている。2月は3年ぶりの低水準となったばかりか、BDIは以前の全てのリセッションで下落してきた。19年9月以降では80%下がって、現在約506ポイント。直近の底は、16年の約300ポイントだ。
(5)購買担当者の認識
製造業とサービス業のトレンドを見通す上では、購買担当者景気指数(PMI)が頼りにされてきた。だから2月の米サービス業PMIが13年10月以来の低さになったことはショックだった。
米GDPの3分の2を占めるサービス業の活動縮小が示されたことで、新型ウイルスのせいでリセッションが間近になったと実感させられた、とロンドン・アンド・キャピタル・グループは顧客に説明した。
JPモルガンが算出する世界全体の総合PMIからは、1月に依然として生産と新規受注が拡大していることがうかがえる。それでも2月の総合PMIは全く異なる様相を帯びる公算が大きい。
(6)物価と債券利回り
債券利回りと物価は通常、経済成長が力強い局面で上がり、逆の場合に下がる。このため最近、ユーロ圏と米国で市場が予想する5年先からの5年間の物価上昇率が急落したのは、懸念要素だ。また債券の世界的ベンチマーク、「ブルームバーグ/バークレイズ・マルチバース」の7-10年利回りが半年ぶりの低さとなり、16年に付けた底値に近づいている。
(7)銅価格
銅の価格は景気変動を反映してきた実績があり、金はリセッションの際に価値を持つとみなされるため、金と銅の価格比率は今後の経済成長を占う手掛かりになり得る。つまり景気が悪化すれば、銅は売られ、金が買われる。
現在の価格比率は09年のピークに迫っており、不安に誘われる。しかし今の経済において、銅の先行指標としての力は弱まっている。またジュリアス・ベアのアナリスト、カルステン・メンケ氏によると、市場がパニックに見舞われると心理的に金価格が上がり、銅価格は圧迫されるので、価格差が開いて間違ったシグナルを発するという。
(8)ディフェンシブ株の需要
株式には好況時に値動きが良くなる銘柄と、逆に不況時に堅調な銘柄がある。前者の景気循環株には自動車メーカーや小売りなどが含まれ、後者のディフェンシブ株としては公益や主要消費財などが挙げられる。
もっとも最近はハイテク株の存在によって、この区別が不明瞭になった。本来景気循環株とみなされてきたハイテク株だが、アップルやアマゾンは安全なディフェンシブ株のような値動きをする傾向が強まっている。
(9)金融環境
ゴールドマン・サックスが算出する金融環境指数(FCI)を見ると、経済成長にとって金融がどれだけ追い風かどうかが分かる。指数は、長期借り入れコストや為替レート、株価動向などで構成される。
FCIは1月以降金融環境が緩和方向にあると示しており、恐らく中国の緩和的な政策が効いている。ただ今週の猛烈な株安はまだ反映されていない。
(10)韓国の輸出
主要国の毎月の輸出統計の中で、最初に明らかになる韓国は注目度が高い。その韓国では1月の輸出が落ち込み、前年比では14カ月連続のマイナスと状況は悪い。
2月の輸出については、特に全体の2割を占める半導体がどうなるかに関心が集まっている。
(Sujata Rao記者、Ritvik Carvalho記者)

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