コラム:中国発の新型ウイルス、グローバル化にも「伝染」
Una Galani
[ムンバイ 31日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 世界経済に次々と障壁が築かれている。ここ数年は貿易戦争、ハイテク分野の保護主義、英国の欧州連合(EU)といった障壁が世界経済の統合を阻害する要因となってきた。
これに加え、中国で発生した新型コロナウイルスが猛威を振るっており、政府や企業の間で、国境を越えた商取引やサプライチェーンのメリットを考え直す動きが広がりそうだ。
新型ウイルスは、人の移動を制限すれば、感染の拡大を抑制できるかもしれない。新型ウイルスによる肺炎の死者は31日時点で213人。感染者は1万人近くに達している。世界保健機関(WHO)は国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言した。
中国人は今年1億6000万回以上の海外旅行をすると予想されており、中国人旅行者の入国を厳しく制限する動きが出るのも不思議ではない。
HSBC<0005.HK>やLG電子<066570.KS>などは中国への出張を制限。ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)は中国発着便の運航を停止した。
こうした予防措置を受けて「他者」に対する懸念や不信感が一段と高まっている。新型ウイルスに伴う大混乱は、米中貿易戦争と同様、経済的な相互依存や製造・販売の一極集中の落とし穴を浮き彫りにした。
一定の懸念が浮上するのは自然な成り行きといえる。中国市場を成長の原動力とするスターバックスは、中国国内の数千店で営業を停止。新型ウイルスが業績に悪影響を及ぼすと警告した。
TSロンバードのエコノミストによると、第5世代(5G)通信サービスに不可欠な部品で世界の市場シェア55%を誇る長飛光繊光纜<6869.HK>は、新型ウイルスが発生した湖北省武漢市を拠点にしている。部品が不足すれば、価格は上がるだろう。
新型ウイルスの発生前から浮上していた懸念も、杞憂だと切り捨てるわけにはいかなくなってきた。米国をはじめ、さまざまな国の議員は、半導体の生産地域が集中していることに懸念を表明している。医療機器など他の重要な製品についても、同じような傾向が強まっている。
警戒感と懸念はすでに深く根を下ろしている。リフィニティブの速報データによると、昨年の合併・買収(M&A)は3%の減少にとどまったが、国境を越えたM&Aは約25%減少した。
2018─19年の米国への移民の純流入は過去10年以上で最低を記録。欧州連合(EU)から英国に移住する人も純減している。
外国人を冷遇する風潮が強まれば、アジアの若者が国内で起業する例が増えるだろう。新型コロナウイルスはグローバル化にも伝染する。
●背景となるニュース
*新型コロナウイルスによる肺炎の死者が中国で213人に達した。WHOが国際的な公衆衛生上の緊急事態を宣言する中、世界でも感染が急速に拡大している。
*中国の衛生当局によると、30日時点で、発生地である湖北省での死者は204人に増加、中国国内の感染者数は9692人となった。国外では、少なくとも18カ国で約100人の感染が確認されているが、死者は出ていない。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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