コラム:米国の「株主第一主義」で後回しにされる労働者

コラム:米国の「株主第一主義」で後回しにされる労働者
 12月8日、米労働省が発表した11月雇用統計は、非農業部門就業者数が前月比22万8000人増と市場予想を上回る堅調な伸びを示したが、賃金の伸びはさえなかった。写真は5月、シカゴで賃上げデモを行う労働者(2017年 ロイター/Frank Polich)
Gina Chon and Christopher Beddor
[ワシントン 8日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米労働省が8日発表した11月雇用統計は、非農業部門就業者数が前月比22万8000人増と市場予想を上回る堅調な伸びを示したが、賃金の伸びはさえなかった。トランプ大統領は、共和党が進める税制改革で賃金は大幅に増えると主張している。しかし多くの企業は利益を自社株買いや配当に充てようとしており、米国の「株主第一主義」の風潮が賃金の伸びを抑え込んでいる格好だ。
11月の失業率は4.1%で米国はほぼ完全雇用の状態だが、賃金にはまだ上昇圧力がみられない。11月の時間当たり賃金は前年比2.5%増と、この2年以上にわたって同じペースが続いている。アナリストの間では米連邦準備理事会(FRB)が12日、13日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利上げを決めるのはほぼ確実との見方が大勢。ただ、米経済は賃金の伸びが緩やかな「ゴルディロックス(適温)」状態となって今後の金融引き締めは緩やかなペースで進む見通しで、市場は安心感を抱いている。
国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長は8日のCNBCテレビで、税制改革によって長期的に賃金の伸びが高まるとの見通しを示した。また大統領経済諮問委員会(CEA)は、法人税率の35%から20%への引き下げに設備投資の好調が重なって、家計の平均収入は10年後に少なくとも年4000ドル増えると試算している。
しかし米企業の経営幹部は、賃上げや雇用よりも株主への還元を重視している。ハネウェル、コカ・コーラ、アムジェンなどの大手企業はいずれも税制改革によって得られる恩恵を配当や自社株買い、債務返済などのてこ入れに充当する方針を示している。ヒルトンの幹部も7日、こうした流れに同調する経営方針を表明。5日公表のビジネスラウンドテーブルによる最高経営責任者(CEO)調査では、向こう半年間の雇用の見通しが小幅ながら低下した。
企業は、コスト削減やM&Aを通じて株主価値を高めるよう圧力を掛ける「物言う投資家」の怒りを買うことも恐れている。今年はプロクター&ギャンブル、ゼネラル・エレクトリック、ホール・フーズなどが物言う投資家の標的となった。アクティビストモニターによると、アクティビストの標的となった時価総額100億ドル以上の企業は今年上半期で前年比66%増えた。
トランプ氏も6日、減税による成長押し上げ効果がまだないにもかかわらず、米国の株価は自身の大統領選勝利以降に大幅に上昇したと述べ、株価上昇を自らの政策が成功した証と位置付けた。
市場が最優先のときに労働者は一番後回しにされるものだ。
●背景となるニュース
*米労働省が8日発表した11月雇用統計は、非農業部門就業者数が前月比22万8000人増加した。ロイターがまとめたエコノミスト予想は20万人増だった。失業率は前月から横ばいの4.1%だった。
時間当たり賃金は前月から0.2%、前年同月から2.5%増えた。労働参加率は横ばいの62.7%。業種別の雇用は「専門・企業向け」が4万6000人、「製造業」が3万1000人それぞれ増えた。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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