コラム:ワイヤーカードの疑惑、独監督当局の脆弱さも露呈
Christopher Thompson
[ロンドン 22日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ドイツの決済サービス企業、ワイヤーカードは以前から不正への関与が指摘されてきたが、独連邦金融サービス監督庁(BaFin)は最近までこうした声に耳を貸さず、むしろ空売り筋や不正を訴えたジャーナリストの調査に注力してきた。ワイヤーカードはBaFinが監督責任を負う銀行部門を傘下に持っており、今回の一件でドイツの金融監督体制への疑念が高まっている。
ワイヤーカードは22日、信託勘定から消えたと説明していた19億ユーロの現金は最初から存在していなかった可能性があると明らかにし、以前からの疑惑の大部分を認めた。
ワイヤーカードを巡っては1年半前から、内部関係者による告発や英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙などの報道が相次ぎ、同社は対応に苦慮してきた。
しかし、BaFinの当初の対応は、疑惑を指摘した側を標的にしていた。2019年2月にはワイヤーカード株の空売りを禁止し、その後、FT紙の記者と空売り筋を市場操作の容疑で刑事告発した。「市場の信認を守る」という当時の説明は、今となってはもの悲しくも、こっけいに見える。
BaFinの権限には金融機関の監督と幅広い市場の健全性維持が含まれるが、ワイヤーカード・グループの直接的な監督機関ではないのは事実だ。だが、ワイヤーカード傘下の銀行部門(保有預金17億ユーロ)に対しては監督責任を負っている。また、傘下銀行の役員会メンバーに対しても監督責任がある。
BaFinが金融不正の取り締まりで対応に遅れをとったのは、今回が初めてではない。ドイツ銀行は10年以上にわたりスキャンダルに悩まされてきた。この中にはロシアでの100億ドルの不正取引疑惑や、デンマークのダンスケ銀行との資金洗浄疑惑が含まれる。しかし、BaFinがドイツ銀に対して資金洗浄を防ぐための監督者を任命したのは2018年の終盤だった。
BaFinはワイヤーカードの空売り筋への対応について、同社に対する組織的な攻撃に関する、信頼できる情報があったと釈明。こうした嫌疑について、捜査の最終的な責任を負う検察官に報告したと説明した。
だが、すぐ鼻先で起こっていたと思われる、巨大な市場操作に対する関心が乏しかったことは否めない。
ドイツのショルツ財務相は22日、ワイヤーカード問題についての監督当局の対応に満足しているとの認識をにじませた。場違いな冗談を言ったのではないとすると、ドイツの金融規制のぜい弱さを広く印象付けるだけだろう。英国の欧州連合(EU)離脱で、金融機関の誘致を図るドイツ金融当局の取り組みにも水を差しそうだ。
●背景となるニュース
*ワイヤーカードは22日、2019年の信託勘定から19億ユーロ(21億ドル)が消えたと前週に発表した件について、この現金が初めから存在しなかった可能性があると明らかにした。
*2019年の決算報告も撤回し、経営危機に対処するため経費削減を検討中だとした。同社の時価総額は、1週間弱で4分の3以上減少した。
*発表に先立ちマルクス・ブラウン最高経営責任者(CEO)が辞任した。後任はドイツ取引所の元コンプライアンスオフィサーのジェームス・フライス氏。
*融資の確保に向けて、投資銀行のフーリハン・ローキーと契約を結んだ。ワイヤーカードは、ビザやマスターカードなどクレジットカード会社向けに決済サービスを提供している。格付け会社ムーディーズは、同社の格付けを投資不適格(ジャンク)級に引き下げた。
*ドイツのショルツ財務相は22日、ワイヤーカードの問題について、当局が厳しく対処し、職務を遂行していると考えていると述べた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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