目標は「離職率100%」。“辞める前提”を作りエンジニアの成長を本気で支える――「GOOD ACTION」アワード受賞・株式会社MapleSystems 望月祐介さん

働くあなたが思いを持って動き出し、イキイキと働ける場を作っていく。そんな可能性を秘めたアクションに光をあて、応援する「GOOD ACTION」アワード(※)。リクナビNEXTが主催するこのアワードの過去の受賞者にインタビューをしていく本企画。第3回目となる今回は、2018年度の受賞者である、株式会社MapleSystems代表取締役の望月祐介さんです。

「GOOD ACTION アワード」受賞者インタビュー記事一覧はこちら

※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION」アワードは、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。

▲株式会社MapleSystems 望月祐介さん

SES(System Engineering Service、エンジニア派遣業)を手掛ける、メイプルシステムズ。「離職率100%」という目標を掲げスキルを磨きたいエンジニアのステップアップを応援しています。

代表取締役の望月さんに、「GOOD ACTION」アワード受賞の背景とその後の変化についてお聞きしました。

「離職率100%」を打ち出したら、離職率が下がった

――2018年、採用力強化の一環として「離職率100%」という目標を掲げられました。一見「逆張り」のようですが、エンジニアの将来を本気で考えた取り組みであり、受賞のポイントにもなりました。改めて、この方針を打ち出した理由をお聞かせいただけますか?

望月 エンジニアは、常に新しい技術やトレンドを学び、変わり続ける必要がある仕事です。私自身も経験がありますが、エンジニアはいろいろな現場に入り、さまざまな人と関わることで急速に成長するもの。それなのに、企業が暗黙のうちに「うちで長く働いてほしい」と縛り付けている現状に、違和感を持っていました。

当社はSES事業として幅広い案件を抱えているので、各エンジニアが自分に合った現場に就くことができますし、それぞれの成長を最大限応援していますが、もし「他社のほうが成長できる」と感じたのであれば、そこに移るべきだと思っています。この考えを「離職率100%」という言葉で表現しました。

――「離職率100%」と明文化してしまうことに不安はありませんでしたか?例えば、優秀なエンジニアがどんどん辞めてしまうのではないか…など。

望月 そもそも、2~3年タームで勤務先を変えるエンジニアは少なくありません。成長できる環境を目指して転職を繰り返すのは、エンジニアとして当然だと思っています。ただ、中には「いろいろな環境でスキルアップしたいけれど、短期間で辞めるのはよくない」と転職をマイナスに捉えているエンジニアも少なからずいます。そういう人たちのために、「辞めてもいい」という雰囲気を醸成するのは大事なことだと思っています。

当社は以前から、何もかもオープン。全社員に案件単価を公開しているし、給与テーブルも全て提示しています。しかも、給与テーブルは同業他社に比べても高水準だと思います。そして、自分が成長できると思う案件を、自分で選ぶことが可能です。

やりたい仕事を思い切りやれる、そして必要な時が来たらこの会社を辞めて新しい環境に移ることもできる。これが結果的に居心地のよさにつながり、以前に比べ離職率は低下しています。

――離職率100%を打ち出すことで、逆に離職率が下がったということですね。

望月 決して狙ったわけではありませんが、結果的にそうなりましたね。

部屋の窓を開けても、もう一方の窓やドアを開けないと風は吹きこみません。それと同じように、「いつでも巣立っていい」と出口を用意すると、それに魅力を感じた人がどんどん入ってくるようになりました。すると、社歴の長いメンバーも刺激を受け、「もっと頑張ろう」と奮起するように。もちろん、同時に「自分も新しい環境でチャレンジしてみよう」と辞めていく人も増えましたが、「1人辞めたら3人入ってくる」という状態になりました。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

エンジニア自身が「成長できる案件」を選択できる

――「GOOD ACTION」アワード受賞から1年以上が経ち、当時から何か変化したことはありますか?

望月 大きく2つの変化がありました。受賞を機に受注案件が増えたこと、そして採用基準を変えたことです。

まず驚いたのは、当社に舞い込む仕事がぐんと増え、クライアントが拡大したこと。成長意欲の高いエンジニアが揃っているという印象を持ってくださり、当社に期待を寄せてくださっているようです。実際、当社のエンジニアは「自分が成長できる現場かどうか」を第一に考えて案件を選んでいるので、多少タフな現場であっても頑張り抜くことから、高い評価をいただけています。

ちなみに、以前は営業担当者を置いていましたが、ひっきりなしに案件が舞い込むので営業の必要がなくなりました。

――成長できる案件を、エンジニア自身に選ばせているということですか?

望月 はい。エンジニア本人の意向を第一に考え、案件を決めています。ただ、「こういう将来像を描いているならば、こんな経験を積むべき」というパターンがあるので、エンジニアの先輩としてアドバイスすることは多々あります。

私は個人的に今も、いちエンジニアとして案件を請け負っています。それは、今何がトレンドか、どんな技術を磨けばいいのかという、「エンジニアとしての勘所」を磨き続けるため。エンジニアとしてのスキルと経験、そして技術とトレンドに関する勘所をもとに、各エンジニアの目指す方向性に沿って「少し背伸びすればできる」案件を探し、勧めたりしています。

エンジニアが現場に入った後も、頻繁に開発案件についてヒアリングを行います。「現場から学ぶものがなくなり、そこにいる価値がなくなった」と判断すれば、そのエンジニアを引き揚げさせ別の案件に移すこともあります。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

エンジニアの数は88人。それ以上は目が行き届かないから増やさない

――採用基準はどのように変えたのですか?

望月 採用を完全に「仕組み化」しました。

私の場合、採用に「感情」が入るとうまくいかなくて…面接で前職の環境の悪さなどを訴えられると、つい当社で助けてあげたくなってしまう。そのため、本来採用しなければならない人との区別が付けづらくなっていました。

そのため、「IT業界経験2年以上」「4カ所以上の現場を経験」「開発エンジニアとしての経験」という3つの条件を置き、これらを満たした人のみ面接に進んでいただくことにしました。2年もあれば、エンジニアとして一通りの経験をしているはず。そして他社でいくつかの現場を経験していれば、当社がどれだけ社員に情報を公開しているか、給与レベルが高いか、そして「いかにエンジニアが成長できる環境があるか」が、わかっていただけるはずだからです。

――現在は社長の望月さんが、エンジニア一人ひとりの成長にコミットしている状態ですよね。今後、会社が拡大していったらどのように対応していく予定ですか?

望月 実は、エンジニアは88人以上抱えないことに決めました。理由は2つあって、1つは、今後も私がエンジニア一人ひとりの成長をサポートするために目が行き届く人数に収めたいから。もう1つは、2カ月ほど前にCHRO(最高人事責任者)が退職したのを機に、採用部門が要らない仕組みにしたかったからです。ありがたいことに、この88人の枠に入るために入社希望者が順番待ちをしてくれています。きっと半年もすれば、新しい成長ステージを目指して巣立っていくエンジニアが何人かいると予想されるので、そうお待たせしないかとは思っています。

「88人」に特に理由があるわけではなく、末広がりでいいなというだけ(笑)。社長のわたしとバックオフィス担当が1人、社内開発エンジニア1人、そしてエンジニア88人という少人数体制がうちに合っていると思っています。

バックオフィス1人というと驚かれるかもしれませんが、当社では「SES WORKS」というバックオフィス業務を効率化する自社開発システムを持っているので、「1人で回せないとこのシステムが使えない」ということになってしまう。現時点ではこのシステムを使って1人でも滞りなく、うまく回せています。

――一般的には、もっと会社を大きくしたい、もっと活躍してくれるメンバーを増やしたいと考える人が多いと思われます。

望月 幸いにして、「GOOD ACTION」アワード受賞を機に、当社と同じようなやり方でエンジニアを育てたいという会社がいくつか名乗り出てくださっています。そういう志を同じくする会社には、当社のやり方をすべて公開していきたいと思っています。当社を大きくしなくても、こうやってエンジニアの成長を応援する会社が少しずつ増えていってくれれば、それで十分だと思っています。

エンジニアがイキイキ働き、成長できる「生態系」を作りたい

――では、現在の御社の目標を教えてください。

望月 目指しているのは、情報のフラット化です。

新しいサービスを開発したいと考える企業が、それを担ってくれるエンジニアを探そうと思っても、売り手市場でもありなかなか探し切れないのが現状。そのために、「フリーランスエンジニアのデータベース」を作りたいと考えています。

エンジニアは、自分はどんな経験やスキルを持っているのか、どんな希望を持っているのかを登録することで自分が成長できる案件を探すことができますし、企業は今ほしいスキルを持ったエンジニアを探すことができます。

――このエンジニア人材データベースが、新たな事業柱になるということですか?

望月 いえ、このデータベースで儲けようとは思っていません。個人の登録料も、企業の閲覧料も、それによるマッチングフィーも取るつもりはありません。「当社のメリット」としては正直何もありませんが、今よりエンジニアが働きやすい環境が作れたらいいなと思っています。

今のIT業界は、「エンジニアが足りていない」と言われている割には、エンジニアが働きづらくなってしまっているのが現状。「足りていない」のは一部の優秀なエンジニアであって、将来エンジニアとしてステップアップしたいローキャリアや未経験者にはなかなかチャンスが与えられていないのです。その一因は、ローキャリアや未経験者を採用する際にも、仲介業者や採用媒体に支払われるコストが発生し、エンジニア本人に支払われる金額との間にギャップが生じてしまっているから。IT業界に希望を持ち、エンジニアを志す人を増やすためにも、情報をフラット化して採用に余計なコストがかからないようにすれば、未経験者でも早く一人前になれる道が開けるはずです。

当社の負担なんて、大したことありません。開発は皆で手分けして少しずつやればいいし、運用コストだってたかが知れている。それより、エンジニアが気持ちよく働けて成長できる「より良い生態系」を日本に作り出したいし、何よりこのサービスは自分だったら絶対に欲しいから無償でも作りたい!…こんな会社が、1社ぐらいあってもいいと思うんです。

ライター:伊藤理子 写真:刑部友康
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