福岡県みやま市の小学1年生が給食で窒息死した事故。私には同い年の娘がおり、人ごととは思えず心が痛む。心からの哀悼の意を表する。

 娘に事故の話をすると「もうウズラの卵は食べない…」「え? 違う。ウズラは悪くない」と思わず叫んだ。この事故の原因は食べ物を適切にそしゃくできずに塊のままで飲み込んでしまったことにある。それはウズラの卵に限ったことではないので、窒息した食べ物を排除していてはキリが無い。こんな軽率なことを言うのは娘だけかと思いきや、全国的に「学校給食ではウズラの卵の使用を控える」という風潮になっていることに驚く。

 摂食嚥下とは食べ物を認識してから、口に取り込み、そしゃくし、咽頭・食道を経て胃へ送り込む一連の機能を指し、その能力が落ちることを嚥下障害と呼ぶ。加齢や脳卒中などが原因で、嚥下障害になることがあり、われわれのようなリハビリ専門病院では嚥下訓練を行う。食べ物を口に入れた後に口を閉じてそしゃくすることで、口腔内圧が上がって食べ物を胃に送り込める。訓練しても通常の形態での摂食が困難な場合は、固形物を小さく刻んだり、液体にトロミをつけたりする工夫が必要だ。

 しかし、健全な小学生が摂食する食べ物を小さく刻むことは必要だろうか。まだ歯のない離乳食の時期ならともかく、小学生は(乳歯からの生え替わりがあるにせよ)自分の歯がある。しっかりかんで食べ物を小さくして飲み込むことを習得するべきだ。摂食時間を十分に確保しなければ、必要なそしゃくはできない。短時間でせきたてるように食べたり、牛乳などで流し込むように食べたりしてはいないだろうか。

 以前に給食牛乳のストロー廃止に異議を唱えたが、パックからのじか飲みは牛乳を一気に流し込む危険がある。ストローは口唇を閉じて口腔内を陰圧にする訓練にもなるので、ストロー廃止で口唇力を鍛える機会を奪われてしまうのも残念だ。

 成長期に嚥下機能をしっかりと鍛えることで、窒息事故を撲滅したい。学校でも家庭でも真剣に取り組みたい課題である。

 (佐賀リハビリテーション病院 副理事長 吉原麻里)