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マラソン五輪代表の最後の1人を選ぶMGCファイナルチャレンジとは?

2019 11/25 06:00鰐淵恭市
MGCを走る設楽悠太Ⓒゲッティイメージズ
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Ⓒゲッティイメージズ

ファイナルチャレンジは男女各3レース

東京五輪マラソン日本代表の最後のイスをかけた「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)ファイナルチャレンジ」が12月に始まる。男女とも代表2人は9月に行われたMGCで決まった。最後の1人はどうやって選ばれるのか。

まずはMGCの結果をおさらいする。

【男子】
①中村匠吾(富士通)2時間11分28秒
②服部勇馬(トヨタ自動車)2時間11分36秒
~ここまでが五輪代表内定~
③大迫傑(ナイキ)2時間11分41秒

【女子】
①前田穂南(天満屋)2時間25分15秒
②鈴木亜由子(日本郵政グループ)2時間29分2秒
~ここまでが五輪代表内定~
③小原怜(天満屋)2時間29分6秒

男子は中村と服部、女子は前田と鈴木が五輪代表に内定し、大迫は5秒差、小原は4秒差で涙をのんだ。わずか数秒だが、2位と3位では天と地ほどの差があるのである。そして、3人目を決めるのが12月から始まる「MGCファイナルチャレンジ」である。一発選考だったMGCと違いファイナルチャレンジは男女とも3レースある。

【男子】
・福岡国際マラソン (12月1日)
・東京マラソン   (3月1日)
・びわ湖毎日マラソン(3月8日)

【女子】
・さいたま国際マラソン(12月8日)
・大阪国際女子マラソン(1月26日)
・名古屋ウィメンズ(3月8日)

設定記録突破が最低条件

3人目の選考方法だが、男女とも設定記録が決められている。その設定記録を突破した選手の中で、最も速い記録の選手が選ばれる。3レースあるが、大会ごとの気候などの条件は考慮されない。もし、設定記録を突破する選手がいなかった場合は、MGCの3位の選手が選ばれる。設定記録は次のようになっている。

男子2時間5分49秒
女子2時間22分22秒

男子は大迫傑が持つ日本記録よりも1秒速い。女子は2時間19分12秒の日本記録より3分以上も遅い。このレベルの差が、ファイナルチャレンジの男女の戦い方に影響を及ぼしている。というのも、MGCで3位になった選手はファイナルチャレンジで走らなくても、代表に選ばれる可能性があるからだ。

突破困難な男子、女子は突破者複数か

日本記録より速く定められた男子は、設定記録を破るのは至難の業とみられている。そのため、MGC3位で日本記録保持者の大迫は、ファイナルチャレンジを走るべきではないという意見が多く聞かれる。筆者もその方がいいと思うのだが、どの選手も3枠目を狙って設定記録に挑んでくるのは間違いない。

もし、大迫がファイナルチャレンジを走らない選択をして、だれかが設定記録を破った場合、大迫は非常に悔いを残すことになるため、ファイナルチャレンジを走るべきだという意見もある。大迫は難しい選択を迫られているのである。

一方、女子の設定記録は十分にクリアできる記録であるため、MGC3位の小原は間違いなくファイナルチャレンジのどこかのレースに出場するだろう。特に小原は2016年のリオデジャネイロ五輪の選考会で、1秒差で代表の座に届かなかったという苦い経験をしている。悲願の五輪出場をかなえるため、ファイナルチャレンジに出場しないという選択はないと思われる。

駅伝の日程もレース選択に影響

どの選手が、ファイナルチャレンジのどのレースに出場するかに興味が集まるが、現在出場選手が発表されているのは、男子の福岡国際、女子のさいたま国際のみである。

福岡国際では、佐藤悠基(日清食品グループ)、藤本拓(トヨタ自動車)、福田穣(西鉄)の3人がMGC出場組だ。そのほかに、世界選手権代表の川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)も出場する。国内屈指の高速コースで設定記録に挑むことになる。

さいたま国際には、正直、設定記録に挑めるような選手は出場しない。日本の招待選手は2人で、自己ベストは2時間28分台と2時間30分台の選手である。さいたま国際にトップ選手が出場しない理由は大きく二つある。

一つには記録が出にくいコースだと言われていること。まだ、今年で5回目の大会ではあるが、今までの日本選手最高は2時間28分台と、記録は低調に終わっている。

もう一つは、駅伝の日程との絡みである。女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝(全日本実業団対抗女子駅伝)が11月24日に行われるため、そこに出場する選手がさいたま国際を走るのは事実上無理である。

このことは男子の福岡国際にも同じことが言える。男子はニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)が元日にあり、福岡国際に出ると駅伝に支障が出てしまう。チームを維持するためには、広告塔として駅伝で活躍することが義務づけられているため、どうしても福岡国際には出にくくなってしまう。

男子は東京、女子は名古屋に集中か?

そうなると、マラソンで五輪代表を狙う選手はどこに出場するのだろうか。男子は東京、女子は名古屋ウィメンズではないかと思われる。

男女とも共通して言えるのは、MGCや駅伝からできるだけ日程が離れて調整がしやすく、記録が出やすいコースの大会ということになる。男子では、最後の大会はびわ湖となるが、東京とは1週間しか差がない。

ただ、コースでは大きく差があり、2018年の大会で設楽悠太(ホンダ)が当時の日本記録をマークした東京が有利だ。湖畔を走るびわ湖は、どうしても風の影響を受けやすい。

さらに、世界のメジャーレースでもある東京は、ペースメーカーの質も高いし、海外のトップクラスも出場する。記録を狙うなら、東京に出場するだろう。事実、設楽は東京への出場意向を示している。

女子は名古屋ウィメンズが最後の大会で調整できる期間が一番長いが、1月26日にある大阪国際でも調整期間は十分にある。日本選手のコース最高記録が大阪国際は2時間21分18秒(野口みずき)、名古屋ウィメンズは2時間21分36秒(安藤友香)とほぼ互角。

だが、名古屋ウィメンズは大阪国際の結果を見た上で走れるので、戦略が立てやすい。名古屋ウィメンズは安定して好記録も生まれているし、実力者が集まるのは名古屋ウィメンズではないかと思われる。

代表の最後のイスをかけた戦いは面白い。マラソンから目が離せないシーズンがやってくる。