ドイツの攻撃方向を限定したメキシコの守備網
6月19、20日の試合を持ってワールドカップのグループが一巡。 その中で世界中に衝撃を与えたのはメキシコのドイツ撃破だ。その勝利の裏には緻密な戦術があった。
前大会の優勝国であり、今大会でも優勝候補の筆頭であるドイツ。このチームはボール保持でゲームをコントロールする。
この試合でもボール支配率は60%を記録。パス本数でもメキシコの351本に対して、ドイツは654本、シュートも26本と、ここまでのスタッツを見る限りいつものドイツと変わらない。
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しかし、データを掘り下げると気になる数字も出てくる。その1つがドイツのペナルティエリア付近でのプレー数だ。
右サイドが41回、中央が46回、左サイドが24回。あきらかに中央から右に偏っている。個人別データにもその傾向は表れており、攻撃の起点となるCBを見ると、右CBのボアテングがパス数83回を記録しているのに対して左CBのフンメルスはわずか37回。前方パスに至っては13回しかない。
この極端なスタッツを生み出した原因はメキシコの守備にある。
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4-2-3-1の布陣を取るメキシコだったが守備の形にある特徴があった。守備時には、1トップのエルナンデスがマンマークに近い形でフンメルスを監視。さらに中盤の低い位置でゲームを作るクロースにはトップ下のベラをつける、部分的なマンマーク戦術を使っていた。
フンメルス、クロースの動きが制限され、ボアテングがフリーになったことで攻撃の起点が右CBに偏ることになった。ボアテングは逆サイドを上がるSBへの正確なパスという武器があるのだが、右SHのラジュンがこれに対応。時には味方右SBの外側に戻る形でカバーした。メキシコの守備布陣が5バックに見えたのはこのためだ。
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その結果ドイツの攻撃はボアテングを起点に右SBのキミッヒや前方へという形が続く。後の動きを見ると、これはドイツ側の戦術というよりメキシコに上手く誘導されたと見るべきだ。
ドイツの攻撃の起点を限定させるのは第1段階。そしてこの時すでに、第2段階の準備もメキシコは行っている。フンメルスをマークするエルナンデス、クロースをマークするベラ、逆サイドを1人で担当するラジュンを除く、MF3人とDF4人の7人でボアテングの前方エリアに4-3のブロックを形成していたのだ。
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ドイツのSHの選手は相手のSBとCBの間のエリアに入りボールを受ける動きを得意としているのだが、メキシコは攻撃の起点を限定した上で、逆サイドを除いた範囲に4-3の壁を展開することでドイツの攻撃ルートをも制限。ドイツのSHが狙えるスペースが狭くなったことで、メキシコは自陣で容易にボールを奪うことができた。メキシコのタックル24回は全て自陣で行われていた。