倉本聰氏 「老いと死」に脚本家として向き合う…自らすでに書いた遺書「僕のは勤務評定」

[ 2020年3月24日 10:00 ]

テレビ朝日「やすらぎの刻~道」放送期間中に亡くなった八千草薫さんのために、倉本聰氏(右)は新たなシーンを書き加え配慮した(左は主演の石坂浩二)
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 【倉本聰直言 やすらげないッ! 中】人間の生きざまを丁寧に描き、支持を集めたテレビ朝日「やすらぎ」シリーズ。テーマの一つに「老いと死」がある。3年間に及ぶ放送中に、野際陽子さん、八千草薫さん、梅宮辰夫さんら多くのキャストが亡くなり、多数の名優をみとる作品ともなった。倉本氏自身も、すでに遺書を書いている。

 脚本家人生で、過去にも75~77年の日本テレビ「前略おふくろ様」の田中絹代さん、08年フジ「風のガーデン」の緒形拳さんら、結果的に遺作となった作品を多く手掛けた。

 「あんまり僕の作品で死ぬもんで“役者に引導を渡してるんですか”って聞かれたこともあった」と笑う。でもそれは、俳優の最晩年までを脚本家として見届けているからだ。「みんなそれぞれ、死ぬ時は見事ですよ」と敬意を表する。

 八千草さんには「やすらぎの刻~道」(19~20年放送)で新たなシーンを書き加えるなど、最期まで女優として出演できるよう配慮した。「親しすぎていろんなこと(病状や演技に懸ける思い)を知ってたからね」

 一方で全てを秘密裏に完結した高倉健さんの死は「知らなかった」。その最期を「誰にも知られず死ぬというのは、野生の動物の死に方。一番真っ当だと思う」と語り、必ずしも板の上で力尽きるのが役者の死にざまだとは言わない。

 役者たちの生と死を見つめた結果、自身の遺書はどんな内容になったのか。「僕のは勤務評定。生きている間に僕がどれくらいのことをしたかって書いておかないと。ドラマの知的財産権が僕の財産にくっついてくる」と冗談めかしつつ、理想の死を追求する。

 骨髄がんで苦しんだ義弟のことも、脳裏に浮かぶという。ホスピスでの終末医療で酒もタバコものみ、明るさを取り戻して亡くなった。「最も重視するのは、いかに最期まで自分が苦しみから解放されるかだ」と話す。

 一時は1日4箱吸った愛煙家だけに「今の終末医療はタバコは駄目かもしれないが、俺は吸う!」と宣言。「タバコを吸う患者は診察拒否なんて、やぼの最たるもの。医療が発達してるのに、なぜ肺の中をきれいにできないんだ」と毒づく。

 米国の禁酒法時代に密造酒で稼いだ希代のギャングの名を挙げ「禁煙アル・カポネみたいなドラマを作ってやろうか。テレビ局は“駄目だ”って言うだろうけどね」。まさに倉本流の「終活」だ。

 ◆倉本 聰(くらもと・そう)本名・山谷馨。1934年(昭9)12月31日生まれ、東京都出身の85歳。東大文学部卒。59年、ニッポン放送入社。ディレクターなどの仕事の傍ら、脚本家として活動を開始。ドラマの代表作はフジテレビの「北の国から」シリーズなど。映画は高倉健さん主演の「駅 STATION」など。がんで余命告知された医師が絶縁状態だった家族の元に戻る姿を描くフジ「風のガーデン」を機に尊厳死について考えるようになり、18年に日本尊厳死協会顧問に就任。00年紫綬褒章、10年旭日小綬章。

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2020年3月24日のニュース