「スカーレット」最終回 武志、26歳の誕生日を前に…ロス広がる「『幸せや』で涙が」「孤高の朝ドラ」

[ 2020年3月28日 08:15 ]

連続テレビ小説「スカーレット」最終回。琵琶湖を眺める喜美子(戸田恵梨香)と武志(伊藤健太郎)(C)NHK
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 女優の戸田恵梨香(31)がヒロインを務めたNHK連続テレビ小説「スカーレット」(月~土曜前8・00)は28日、最終回(第150話)を迎え、完結した。俳優の伊藤健太郎(22)が好演し、白血病と闘ってきた主人公・川原喜美子(戸田)の長男・武志は26歳の誕生日を前に旅立った。インターネット上には涙に暮れる視聴者が続出。「武志ロス」や放送終了を惜しむ「スカーレットロス」が広がった。近年の朝ドラ最終回はオープニングのタイトルバックをエンディングに持ってくることが多いが、「スカーレット」はいつも通り。変わらぬ日常を見続けた作品“らしい”フィナーレだった。

 朝ドラ通算101作目。タイトルの「スカーレット」とは「緋色」のこと。フジテレビ「夏子の酒」「妹よ」「みにくいアヒルの子」、日本テレビ「ホタルノヒカリ」などのヒット作を手掛けた脚本家の水橋文美江氏(56)が朝ドラに初挑戦したオリジナル作品。“焼き物の里”滋賀・信楽を舞台に、女性陶芸家の草分けとして歩み始める大阪生まれのヒロイン・川原喜美子の波乱万丈の生涯を描いた。

 最終回は、喜美子(戸田)は武志(伊藤)と信楽の仲間と琵琶湖に出掛け、清々しい思いに満たされる。武志は闘病しつつ作陶を続け、側で喜美子も陶芸に励む日々。喜美子は武志との時間を大切に過ごしながら、ふと武志に問い掛ける。喜美子に強く抱き締められる武志。2人は幸せを胸に刻む…という展開。

 直後の中條誠子アナウンサー(46)の語り。「武志は26歳の誕生日を前にして旅立ちました。武志は作品を残しました。武志の作品は生きています」…。武志の白血病は第131話(3月6日)で判明。1983年(昭58)、喜美子45歳、武志22歳の時だった。2年後。医師の大崎(稲垣吾郎)は武志が亡くなる3日前のこと、父の八郎(松下洸平)は武志の“遺言”を喜美子に伝えた。

 SNS上には「喜美ちゃんロス」「土曜の朝からスカーレットロスで嗚咽している」「なんて素敵な最終回!言葉になりません。ありがとう。そしてロス」「武志をギューするところで泣いた。ハチさんと縁側で話すところでも泣いた。最後の薪を焚べる喜美子の眼。戸田恵梨香は凄い」「武志のラストシーンが喜美子のギューでよかった。のちに大崎先生やハチさんが語る武志の様子が何とも武志らしくて、そこにグッときた」などの声が相次いだ。

 武志は“ナレ死”となったが「武志の死には深く触れず、お涙頂戴の演出は一切なし。先に旅立った人の思い出は、最期の日ではなく、何気ない日常にある。秀逸なドラマでした」「最終回もいつもと同じ日常を描いて、第1回と同じく穴窯のシーンで終わる。とても良いドラマだった。武志の『幸せや』で涙が出たよ」「いつも通りの生活の中での武志の『幸せや』で涙が目から飛び出し、武志の最期の日々を話す大崎先生と喜美子に涙し、夫婦の道が分かたれたあの日と同じ縁側で、愛息を亡くした父母が蜜柑を手に静かに語らう姿に泣いた。先に逝った人々を愛おしみながら日々は続く」などの書き込みが続出。最後まで一貫してブレない描写が感動を呼んだ。

 「喜美子は泣いていない。登場人物の誰もが泣いていない。生き切った武志。だから、みんな前を向いて生きている。最後に窯に薪を投げ入れる喜美子の姿にこちらの涙が止まらなかった…。こんな素晴らしい作品に出会えて本当によかった!」「どんな事があっても日常は続く。先生の話から、最期はかなり衰弱したのだと伝わる。武志がいなくなった後、それでも日常は続く。作品を作るのも穴窯を焚くのも喜美子の日常。何の特別感もない、そういう最終回。最高かよ」「喜美子とハチ、信作、照子、武志と一緒に生きてきた半年は、むせ返るほど濃い時間で胸がいっぱい。穴窯から取り出した車輪の刻まれた喜美ちゃんの作品がどんな色になっているか、開けるまで炎は消えない。わたしの中で生きている。緋色の灯りがずっと灯っていますように」「最終回、ただの人としての大崎さん、ただの人としての十代田さん、陶芸家としての武志、そして陶芸家・川原喜美子がいた。このどうしようもなくとっちらかった2020年の2~3月に、いつもと同じ1日を毎朝ありがとうございました」「孤高の朝ドラ。この上なく特別でありながら、この上なく『いつもの日々』を執拗に描き続けた名作。この素晴らしい作品に賛辞を」などと感謝と絶賛の声がやまなかった。

 「スカーレット」が参考にしたのは、信楽焼の女性陶芸家の草分けとなった女性陶芸家・神山(こうやま)清子氏(83)の人生。長男の賢一さんが29歳の時、白血病に倒れ、神山氏は骨髄バンクの立ち上げにも尽力した。

 脚本の水橋氏は2月29日、自身のインスタグラムを更新。残り1カ月の終盤、試練の展開を選んだ理由を明かした。

 「(喜美子が)陶芸家の道を歩きだしたことを表現するためには、どなたかの作品をお借りしなければなりません。あちこちから適当にというわけにもいきません。喜美子の作品はすべて陶芸家の神山清子先生からお借りすることになりました。喜美子の作品イコール神山清子先生の作品です。神山清子先生の最愛の息子さんは白血病と闘われたという経緯があります。お借りした作品ひとつひとつに、息子さんへの深い愛情とその時々の思い出、いとしい出来事が込められていることを知りました。それら大切な作品をお借りして喜美子の作品と謳っているからには、その思いに全く触れずにいることは同じ物作りの端くれとして敬意に欠けることではなかろうか。チーフ演出の中島(由貴)さん、(制作統括の)内田(ゆき)P(プロデューサー)と十分に熟考を重ね、できる限りの配慮を胸に、私は覚悟を決めました。第22週からは喜美子の人生の最終章『生きるということ』を描いていきます」

 近年多かった朝ドラ王道パターン「偉業を成し遂げる女性の一代記」とは異なり、終盤は朝ドラとしては異例とも言える闘病記を通じて家族愛と、愛すべき何気ない日常「いつもと変わらない1日は特別な1日」を丹念に紡ぎ上げた。同じく朝ドラ王道の「ある職業を目指すヒロイン」の点からも、異色の構成。喜美子が陶芸家になった後、その成功の華々しさなどは詳細には描かなかった。

 喜美子は第105話(2月5日)で7回目にして、ついに穴窯による窯焚きに初成功。しかし、その第105話のうちに「灰と土が反応してできる自然釉の作品は陶芸家・川原喜美子の代名詞となりました」の語りで劇中の時間を一気に7年進めた。

 今月1日放送のNHK FM「岡田惠和 今宵、ロックバーで~ドラマな人々の音楽談議~」(隔週日曜後6・00)にゲスト出演した水橋氏は「7年バーンと飛ばしたんですが、あそこは意図的です。喜美子にとっての成功は、陶芸家として有名になることじゃなく、穴窯で自然釉の作品を作ること。ゴールは(窯焚きに初成功して)作品ができた瞬間なんです。その後(の陶芸家として有名になっていく姿)を描くと、ゴールが見えなくなっちゃうと思ったので、飛んだんです。その台本を渡すと、(チーフプロデューサーの)内田さんもOKしてくれて。プロデューサーによっては『もうちょっと、ここをやりましょう』と言う人もいると思うんですが」と説明。

 岡田氏が「考え方によっては(喜美子が陶芸家として有名になっていく姿は)いくらでもやりようはありますよね。楽しいことが書けたりもしますし」と挟むと、水橋氏は「喜美子にとっての成功は、そこじゃないんで。陶芸家として売れっ子になるかどうかは関係なく(穴窯で)作品ができるかどうか。『完成しました、終わり』という話。そこは潔く」と狙いを明かした。

 同じ陶芸家ゆえに、お互い譲れぬ一線があり、結局は離婚に至った喜美子と八郎の苦悩など、水橋氏が派手さこそないものの、キャラクターの機微を生々しく描き出した「スカーレット」。また1つ、ここに“新しい朝ドラ”が生まれた。

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