超満員の大阪府立体育会館が凍りついた。大相撲春場所13日目(24日)、日馬富士(32=伊勢ヶ浜)に寄り倒された新横綱の稀勢の里(30=田子ノ浦)が土俵下に転落すると、うずくまったまましばらく動けない。立ち上がろうとしたが、右手で左胸の付近を押さえて激痛に表情をゆがめた。

 花道を引き揚げる際にも「アーッ!」と思わず大声を上げた。これまでケガをしても、決して人前で痛がるそぶりを見せなかった男の姿が、事態の深刻さを物語る。

 支度部屋に戻ると患部を冷やして三角巾で固定。救急車で大阪市内の病院に直行した。稀勢の里は報道陣の質問にはすべて無言。応急手当てをした医師によると患部は「左前胸部」の付近で「(肩が)外れたり(骨が)折れている感じではない。専門医に見てもらわないと詳しいことは分からない」。稀勢の里本人は、医師に「痛みがあって、動かすのが怖い」と話していたという。

 新横綱として注目を一身に浴びた今場所は初日から12連勝。優勝争いで単独トップを快走していた。この日は初めて経験する横綱同士の結びの一番で土がついたとはいえ、残り2日間で賜杯には一番近い位置にいた。仮に休場する事態となれば、優勝は絶望的。最悪の場合、ケガが長期化する恐れもある。

 日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は「普段は痛がらない。左肩か、胸か。この緊張感があるなかで、痛がるのは相当。これは長引くかな…。軽傷であってほしい」。ショッキングな光景に協会トップもなかなか言葉が見つからず、心配そうな表情を浮かべるばかり。場所終盤で新横綱を襲った、まさかのアクシデント。打出後の会場内は、何とも言えない重苦しい空気に包まれた。