【伊原春樹・新鬼の手帳】序盤は高橋礼、メルセデスの両先発が素晴らしかった。今のセ・リーグにここまでの下手投げはいないし、巨人打線は苦労すると思っていた。イメージはしていても、打席に立っての軌道は全然違ったと思う。巨人は対策として左打者7人を並べたが、高橋礼はシーズン中から左打者を気にしないし、あのシンカーに左打者は引っかかりやすい。もう少し右打者を入れても面白かったのではないだろうか。

 甲斐もいいリードをしていた。7回二死一、三塁のピンチで阿部を迎えた際も初球から内角高めをついたのが効いた。次は外角に落とし、3球目の内角でボテボテの三ゴロに仕留めたのは研究の成果だろう。

 一方でメルセデスは緩急をつけ、コントロールよく投げていた。直球は142~143キロ程度ながらナックルカーブがよかった。巨人で気になったのは6回の攻撃だ。一死二塁の好機に重信の遊直で二走の若林が飛び出して併殺。ショート付近のライナーなら走者は「バック」がセオリーで軽率なプレーだった。こういう緊迫感のある展開では1プレー1プレーが非常に重要であり、ミスが命取りになる。7回に2番手の大竹が浴びた松田宣の先制3ランの呼び水となったのも、若林に代わって途中出場で三塁守備に就いた山本の失策だった。

 同じ顔合わせだった19年前の日本シリーズではソフトバンクの前身であるダイエーが2連勝し、そこから巨人が4連勝した。2連敗して東京に戻る原監督やコーチ、選手にはモヤモヤした気持ちもあるだろうが、短期決戦では舞台が変わることで流れまで変わることも珍しくない。巨人は必要以上に落ち込む必要はないし、ソフトバンクは王会長を含め、当時を知るスタッフが選手の気を引き締める必要がある。