巨人・阿部慎之助二軍監督(40)は宮崎春季キャンプで首脳陣を打撃投手として総動員し、若手野手陣の底上げを図る。ヤングGたちは精根尽き果てるまでバットを振り込むことになるが、地獄の打撃練習を心待ちにしている向きもある。股関節を痛めて2018年に引退した杉内俊哉二軍投手コーチ(39)が出撃する可能性を示唆したことで、にわかに色めき立っているのだ。

 総動員指令が思わぬ効果を生みそうだ。選手たちに打撃マシンではなく「手投げでやってあげたい」とする阿部二軍監督は、二軍首脳陣に対してオフの間に登板準備を指示。引退して数年がたつ首脳陣の中には「息子と軟式ボールでキャッチボールしてますよ」と“自主トレ”を行うコーチもおり、キャンプに向けた肩慣らしを進めている。

 大きな故障なく指導者に転身した村田修野手総合コーチや木佐貫投手コーチらはいいが、杉内コーチの場合は状況が異なる。15年に股関節を手術し、懸命なリハビリで復活を目指したが、一軍登板はかなわず18年に現役引退。今では手術で埋め込んだ人工股関節が歩行などを支えており「僕はこれを20年間入れ続けますから。取れない。これ(人工股関節)がダメになったら、また入れ替えるんです」という。

 常識的に考えれば投球は不可能だろう。杉内コーチも「肩が完全に死んでますから。僕は投げられないですよ。他のコーチはいけるんじゃないですか。あれ(打撃投手)は意外と遠いですからねえ」と笑い飛ばすが、一方で「もうちょっと距離が近ければいいですけどね。投げられるんだったら投げます」と含みを持たせる。

 くしくも阿部二軍監督はフリー打撃を米国流に改革するプランを温めており「(打撃投手が)近い距離からボンボン投げて(打者が)それに合わせることを徹底させようかな」と話している。日本では打撃投手がマウンド付近から打者のタイミングに合わせて打ちやすい球を投げるが、米国では打者側が打撃投手に合わせる。より短時間で実戦的な練習にすることが目的だ。投げる距離が短くなれば、杉内コーチの投球姿が復活する可能性もゼロではなくなる。

 阿部二軍監督を筆頭とする豪華首脳陣が打撃投手を務めるだけでも若手の刺激になるが、不可能と思われた杉内コーチの雄姿もよみがえることになればなおさらだろう。かつてのような華麗なフォームからキレキレの投球…とはいかなくても、プロ通算142勝左腕との“対決”はかけがえのない時間となる。杉内コーチは「若手の刺激に? そんなことないでしょう」と謙遜するが、ヤングGの間では「あの杉内さんですからね。マウンドに立ったらもっとオーラがすごいんでしょうね」「杉内さん相手にって…ぜいたく過ぎでしょ」ともっぱら。黄金左腕の“復活”が実現すれば、二軍キャンプはさらに活気あふれるものになりそうだ。