【赤ペン!!・赤坂英一】プロ野球はいま、オープン戦たけなわ、というよりも、新型コロナウイルス感染拡大による無観客試合たけなわだ。取材するわれわれにも検温、アルコール消毒、マスク着用が義務づけられた。この無観客試合に「違和感がありますね」とこぼしたのはヤクルトの開幕投手候補・小川である。

「ぼくたちはお客さんに見ていただけることがモチベーションになりますし、その中でこそいいプレーができると思う。そのお客さんがいないと緊張感を維持するのも難しい。残念ですけど、しっかり開幕に合わせて調整していくしかないですね」

 1日のロッテ戦でオープン戦初登板した楽天・涌井も「ファンの声援や鳴り物があってこそのプロ野球。早くお客さんに戻ってほしい」と殊勝にコメントしていた。

 しかし、それでも、私としてはこう思いたい。東日本大震災で開幕延期となった2011年よりはマシではないか、と。9年前は巨人・渡辺球団会長(当時)が開幕強行論をぶち上げ、プロ野球全体が一般社会から悪役視された。その後、開幕延期が決まり、無観客で行われた練習試合では、チームも報道陣も思わぬ危険にさらされたものだ。

 いまも忘れられないのは11年3月16日、神宮でのヤクルト―巨人戦である。プレーボール直前、千葉で震度5を記録した地震が発生し、両チームともにワッとベンチから逃げ出した。われわれもスタンド下の記者席からグラウンドへ一目散。

 揺れが収まった後に試合が始まってからも、何度か余震があり、そのたびにチームも報道陣も騒然となって「こんなときに野球を続けていいのかよ!」という悲痛な声まで上がったほど。

 あの大震災の年に比べれば、今年のプロ野球は極めて適切に対処できていると思う。何より、9年前には世論の袋だたきに遭った巨人が、他球団に先駆け、いち早く無観客試合化を決定したことが最大の違い。現にセ球団首脳からは「大震災の経験が生きているね」という声も聞かれた。

 12球団代表者会議に出席した阪神・谷本球団副社長によれば、セ球団はすでに開幕延期も視野に入れている。その場合はどのような日程を組むべきか、球団同士で意見交換もしているという。本当に延期となったら残念ではある。が、プロ野球もそれだけ、この未曽有の国難に懸命に対処しようとしているのだ

 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。毎週金曜朝8時、TBSラジオ「森本毅郎スタンバイ!」出演中。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」(講談社)などノンフィクション増補改訂版が電子書籍で発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」(PHP文庫)など。最新刊は構成を務めた達川光男氏の著書「広島力」(講談社)。日本文藝家協会会員。