【赤坂英一 赤ペン!!】日本シリーズ第1戦で、ソフトバンクと巨人が唯一互角に見えたのが工藤、原両監督の〝リクエスト合戦〟だった。

 最初はソフトバンクの2点リードで迎えた3回一死二塁、ソフトバンク・千賀が巨人・吉川尚の右手に死球をぶつけたと判定されると、すかさず工藤監督がリクエスト。リプレー検証が行われ、グリップに当たったファウルへと判定が覆った。

 結局、吉川尚は投ゴロ、松原も左飛に倒れて巨人は無得点。吉川尚が死球で塁に出たら一死一、二塁とチャンスが広がっていたところだけに、工藤監督が巨人に傾きかけた流れを引き戻した形だ。

 一方、原監督も負けていない。7回には、二死一塁からソフトバンク・甲斐が二盗するや、この判定をリクエストで引っ繰り返し、一転してチェンジだ。巨人としては、これで何とか流れを呼び寄せたいところだった。

 このように、最近はリプレー検証が流れに影響を与えることが多い。2017年のソフトバンク―DeNA第2戦では、本塁上のクロスプレーで今宮がいったんアウトと判定されたが、約7分間の検証と協議でセーフに変更。結果、このホームインが勝負を決める勝ち越し点となっている。

 一方、リクエスト制度導入前で取り返しのつかない〝損〟をした選手もいる。12年のシリーズ第5戦で退場を宣告された日本ハム・多田野だ。

 巨人3点リードの4回無死一塁、送りバントの構えをしていた加藤に対し、多田野の投球がすっぽ抜けて顔付近にいく。これをのけぞってよけた加藤は仰向けに倒れ、両手で頭を抱えて痛がる素振りを見せた。

 全国中継されていたテレビのビデオ映像を見れば、死球でないことは明らか。それにもかかわらず球審は頭部死球と判定し、多田野に危険球退場を宣告したのだ。

 試合終了後、多田野は「だます方もだます方。だまされる方もだまされる方」とクールにコメント。当時のビデオ判定は本塁打限定で、リクエスト制度の導入は6年後の18年からだ。今年、吉川尚への死球判定が覆されたシーンを見て、ふと多田野と加藤を思い出したファンもいるだろう。

 なお、加藤は引退後「過去に2度頭部死球を受けていたので、あの瞬間は頭の中が真っ白になった」と告白。多田野が引退した14年に花を贈り、このしがらみは一件落着となっている。


 ☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。