日光さる軍団が新型コロナ禍で「閉園の危機」に陥っている。栃木県日光市にある同園では約70匹のさるが暮らしており、さまざまな芸を披露している。だが、約2か月間の休演で収入はほぼゼロ。損失額はすでに「5000万円」を超えているという。おさると人間のお笑いコンビ「ゆりありく」のゆりあ(41)が本紙の取材に応じ、その窮状を訴え「おさるのためのクラウドファンディング」への参加を呼びかけた。

 日光さる軍団にとって、コロナ禍は思わぬ“ダブルパンチ”だったという。

 ゆりあは「緊急事態宣言後から全休演していて、約2か月になります。劇場の収入がなくなるのも大きいのですが、さる軍団にとっては、春の桜シーズンは、一年の中でも大事な時期。全国の桜まつりなどで芸を披露させていただける。それがまったくなくなってしまいました」と明かす。4月、5月での損失はおよそ5000万円に上っているという。

 同園には約70匹の「おさる」たちがいるが、実はそのほとんどが何らかの理由で保護されてきた。すべてのおさるが芸を披露して、お金を稼いでいると思われがちだがそうではない。芸を披露するのは約30匹ほど。その収入で残りのおさると芸人たちが生活している。同園の理念には「おさると人間の共生」がそのまま根底にある。

「70頭のさるは1日3回の食事をします。また、人間と同じく、病気をすることもある。もちろん、保険はきかないので、医療費も高額に及ぶケースがある。現状は正直、もうキツイです。芸人たちもギリギリでやっています。村崎(太郎)師匠が必死に動いてくださって、頑張っています」とゆりあは訴えた。

 同園の広報担当者によれば「週に1回、おさるのための食料を買っています。エサ代だけで1か月で約100万円に上ります。その他の運営費を合わせると、おさるが1か月生活するだけでも300万円の出費となります」と、70匹が生活するだけでも、巨額の固定費がかかる計算だ。

 栃木県は14日に緊急事態宣言が解除されたが、即、劇場に活気が戻るわけではない。

 ゆりあは「夏休みになって、活気が戻ってきてくれればいいなと。私たちもそれを期待しているのですが…。通常なら、夏休みは特別な企画を考えて披露していますが、現状は満足な稽古もできていない状況です」と顔を曇らせた。

 不安はそれだけでない。

「いまは見た目での大きな変化は表れていませんが、おさるさんたちは環境の変化が大きなストレスになります。2か月間、芸を披露していないわけですからね」と、おさるに与える影響も悩みの種だ。だが、そんな中でもファンの声援が大きな力になっているという。

「ネットを通じて、これまでさる軍団を見たことのない方からも応援の声が届いています。芸人たちも一致団結して、新しい発信の方法を考えています。逆境に負けずに何とか芸を守っていきたいです」とゆりあ。

 一方、ゆりあも芸人として自分を見つめ直す時期だとか。前相方の初代りくは昨年4月に死んだ。現在の相方、くぅ(2代目りく)とは、同年5月に新たにコンビ結成し、まだ1年しかたっていない。

「私も芸人人生で初めての経験。2代目の相方とより深く向き合う時間になっています。初代のりくの時には、りくが大病して、看病の時間がコンビの絆を深めました。今回はこのコロナが、くぅとの絆を深める機会。劇場が再開した時には進化した芸をお見せできると思います」

 クラウドファンディングで集まった資金は、おさるの食費、管理費、医療費に充て、目標金額達成後は環境改善に充てるとしている。

「もちろん、芸の継承は頑張っていきたいですが、まずはおさるたちの命を守っていくことが一番大事。命を捨てるわけにはいかないですから」とゆりあ。

 前身の「日光猿軍団」は2013年末に一度、閉園。15年3月に村崎氏が「日光さる軍団」として復活させた経緯がある。再び訪れたおさるたちのピンチをはね返せるか。