全国に発令されていた緊急事態宣言が解除されたものの、北九州をはじめ一部でクラスターが発生。新型コロナウイルス感染拡大の第2波が心配されている。感染を確かめるPCR検査の迅速な実施体制は現在こそ整いつつあるが、当初は各地の保健所がパンク状態となり、日本医師会が環境整備に向けた検査拡大を訴えたほど。PCR検査を受けたくても受けられない患者が多かったなか、一部で話題となったのが特定の個人に関して優先的に検査を行う“闇PCR”の存在。果たしてそのような実態は本当にあったのか――。

 PCR検査を受けたくても受けられない――。コロナ禍のピーク時には「38度近い高熱が4日以上続いたのに検査を受けられない、という患者が私の知る限りで複数いました。結局のところ、対応する保健所の人手が圧倒的に足りていなかったんです」と、地方在勤の医療従事者は明かす。

 一方で、テレビ朝日・富川悠太アナウンサー(43)や元大阪府知事の橋下徹氏(50)ら著名人が検査の実施報告をすると、そのたびにネットを中心に「権力者だから受けられたのではないか」「有名人だから優先的に受けられたのでは」との疑惑の声が噴出した。

 では、実際にそのような著名人の特権待遇はあるのか…。芸能関係者は「有名な芸能人が通っているような高額クリニックなら検査の実施は楽勝だよ。そのために高い金を払っているんだから」と暴露。なかには「診断書には適当に『肺炎』って書けばいい」と豪語する医師もいるという。

 これだけでも驚きだが、本紙はこんな“闇ルート”もキャッチした。都内で風俗店などを展開する会社経営者は「知り合いの医者から、ウチのスタッフ全員分のPCR検査キットを流してもらったよ。その結果みんな陰性だったからやったかいはあったね」と証言。知人の医療関係者からの横流しで検査を受けたことを明かした。

 このような個人で検査を行う“闇PCR”について、ある医師は「ほかにも同様のケースはありえますし、増えていく可能性も考えられます」と語る。「販売会社が発売中止になった簡易検査キットや海外から輸入したキットなどを、普段から懇意にしている医者を経由して一般人と売買するんです。グレーではありますけど、販売会社からしたら在庫ははけたほうがいい。検査キットそのものもある程度の審査基準をクリアしたものが大半なので、買う方もまがい物をつかまされるわけではないですから買うんだと思います」

 ただし「素人が行った検査結果は気休めでしかない」と前出の医師は信頼性には疑問を投げかけた。「マニュアルはあるでしょうが、検査は症状の有無などで採取する部位が変わるもの。無症状の患者の場合は鼻咽頭の粘液などから採取するため、鼻の穴から奥のほうまで棒を突っ込んでこすり取る。誤って強くこすってしまえば出血なども起こってしまいますから、リスクがあるからやめたほうがいい」

 少量の血液を採取すればその場で本人が結果を判定できる抗体検査に対し、PCR検査は手順が複雑だ。個人で採取したサンプルの多くは販売会社などに送付した後に検査されることになるというが、適切に採取が行われていない場合は結果の信ぴょう性に欠ける。そもそも闇で流れるようなキットだけに、しかるべき機関でサンプル検査が行われているかどうかも怪しい。

「今後は検査体制も落ち着いて、受けるべき人が受けられるようになってくるはずです。やみくもに検査をするよりはそれを待ったほうがいいでしょう」(前出の医師)。やはり個人でのPCR検査はおすすめできない。

【楽天が「PCR検査」導入見送った背景】PCR検査を巡る騒動はスポーツ界にも波及したが「特権待遇」とはならなかったケースもある。「国民全員にPCR検査を――」。これに猛進していたのが、楽天の代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏だった。

 新型コロナウイルス感染拡大の予防策、経済対策を強く訴えるだけでなく、楽天が出資しているジェネシスヘルスケア社(以下、ジ社)が開発した「PCR検査キット」の法人向け販売を推進。ジ社の経営体制の変更などを理由に、4月20日の発売からわずか10日で一時的に見合わせることになったが、そのスピード感が注目された。

 自身がオーナーを務める楽天イーグルスにも、厳重な予防策を敷いていた。球団職員の自宅待機はもちろん、長期間にわたり選手の練習場の使用禁止を徹底させた。そんなオーナーの強い意志に球団サイドも呼応したのか、PCR検査キットを球団としても導入できるか検討したという。

 これには選手側の関心も高かったが、結局は見送りに。当時から結果の正確性などが物議を醸していたことも理由の一つだったが、実は最も懸念されたのは「周囲の声」だった。

 楽天本社の関係者によれば「ウチで販売しているわけだから、イーグルスもいち早く導入できたかもしれませんが、大勢の人がPCR検査を受けられない状況で、それをやるわけにはいかないだろうと」。世間からの反響だけでなく、地元・仙台市の医療従事者との兼ね合いも見送られた理由にあったという。

☆PCR検査の実情=厚生労働省が発表している「新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について」によれば、1日現在、PCR検査実施人数は29万2569人(前日比2133人増)で、そのうち陽性者数は1万6884人(前日比37人増)。4月前半のピーク時には一日当たりの陽性者数が700人を超えていたが、5月後半からは100人を割り、現在まで低水準で推移している。東京都が発表している「都内の最新感染動向」でも、1日現在、新たな陽性者数は13人(前日比8人増)と状況は落ち着いている。また都内では23区すべてが独自にPCR検査センターを設置し、他の自治体でも検査体制拡充の動きが広がっている。

☆施設の能力調査へ=新型コロナウイルスの感染を調べるPCR検査を高い精度で実施できているかどうか、厚生労働省が全国の地方衛生研究所や医療機関など実施施設の能力を調査する方針を決めた。施設間で判定する能力に差があり、放置しておくと、誤判定が増えて感染の広がりを正確に把握できなくなる恐れがある。

 検査の精度を国や専門機関が評価する仕組みは米国や韓国で整っているが、日本では制度が十分に構築されておらず、国が主導する調査は今回が初となる。

 施設によって使う試薬や機器、スタッフの技能は異なり、判定の精度にばらつきがある恐れがある。実際に容器が汚染したり、他の検体が混ざったりしたことが原因とみられる誤判定も国内で報告されている。このため日本臨床検査医学会は提言で、各施設の精度を調べて差を是正する必要性を訴えていた。