日本サッカー協会の田嶋幸三会長(62)が新型コロナウイルスに感染したことが判明し、各方面に動揺が広がっている。国内の著名人から感染が確認された事例は初めてで、その衝撃は大きい。まして田嶋会長は国内外の要職を務めており、立場上多くのサッカー、スポーツ関係者と接触している。米国で“接触”したなでしこジャパンには全員検査の声も上がる中で、スポーツ界の「パンデミック」となる可能性はあるのか。専門家の見解は――。

 田嶋会長は協会を通じコメントを発表。感染発覚の経緯などについて説明した。「少し寒気を感じ、15日に体温を計ると微熱がありました。16日に文京区の保健所に相談し、海外渡航歴、また会議同席者の発症を伝えたところ診察を受けることになりました。結果が出たのは本日17日午後です。発症日は14日ということでした」

 田嶋会長は2月28日から国際会議のため欧州を訪問。3日にオランダで開催された欧州サッカー連盟(UEFA)総会に出席し、後に感染が発覚したセルビア協会のスラビサ・コケーザ会長(42)やスイス協会のドミニク・ブラン会長(70)と同席したという。田嶋会長は「現在の体調は、多少熱があり、検査したところ肺炎の症状もあるそうですが、元気です」と容体は安定しているが、懸念されるのはサッカーをはじめとしたスポーツ界への感染拡大だ。

 田嶋会長は日頃、日本代表の森保一監督(51)やなでしこジャパンの高倉麻子監督(51)と密にコミュニケーションを取っており、その他の協会、Jリーグ関係者など接触の可能性は枚挙にいとまがない。ただ、国立感染症研究所感染症疫学センターは感染リスクの高い「濃厚接触者」を、患者が発病した日以降に接触し、特定の条件を満たした人と定義している。協会側は田嶋会長と森保監督、高倉監督との接触について「(発病した)14日以降にお会いしていることはありません」とした。

 また、夫人でスポーツドクターの土肥美智子氏(54)が多くの競技団体が強化の拠点とする国立スポーツ科学センター(JISS)に勤務。サッカー以外のアスリートへの影響も懸念されていることに、協会側は「ご家族で変調を訴えているという報告はありません」とは回答した。

 ただ、濃厚接触者を患者の発病後とする定義については専門家の間でも意見が分かれており、14日より前に接触した関係者への感染も懸念される。田嶋会長は5日(日本時間6日)に米国で開催されたシービリーブスカップでスペインと対戦したなでしこジャパンを視察。ほとんどは別行動だったが、チームと同じホテルに宿泊した。Jクラブ幹部は「なでしこの選手たちも不安に思っているだろうから、みんな検査を受けさせるべき」と指摘した。

 身近なサッカー界への影響が心配されている中で、実際に田嶋会長からの感染リスクはあるのか。J1鹿島のチームドクターを務める関純・西大宮病院院長は「大丈夫と思われるが、新型コロナウイルスはまだ分かっていない部分もある。100%安全とは言い切れない。今後の経過を見ていく必要はある。どんな状況で接触したかによってもリスクは変わってくる。どれだけの濃厚接触があったのかによっても状況は変わってくる」と見解を示した。決して楽観はできないのだ。

 さらに、イングランドの名門チェルシーでチームドクターを務めた女医のエヴァ・カルネイロ氏は英紙「デーリー・メール」で、サッカー選手が新型コロナウイルスに感染しやすいと語っている。これについて関ドクターは「運動能力の高いプロサッカー選手が一般の人に比べて感染しやすいということはないが、ロッカールームなど同じ空間に多くの人がいる時間が長くなることで、リスクが高まる可能性はあるかもしれない」と話す。

 国際サッカー連盟(FIFA)理事や日本オリンピック委員会(JOC)副会長などの要職も務める田嶋会長の感染がスポーツ界に与える衝撃は、超ド級と言えそうだ。

【JOC副会長として要人と接触する立場】Jリーグは理事会後の記者会見(17日)を東京・文京区のJFAハウスで開く予定だったが、田嶋会長のウイルス感染を受けて会見を取りやめ、報道陣にも早急に退出を求めた。

 その後、ウェブを利用した記者会見の中でJリーグの村井満チェアマン(60)は、田嶋会長が米国から帰国した8日以降は直接会う機会がなかったといい、Jリーグ関係者との濃厚接触について「現段階では、ないと思われる」と述べた。

 また、JOC副会長も務める田嶋会長は10日に東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(82)らとラグビーW杯日本大会組織委員会に同席。陽性反応の波紋は大きく、JOCは各団体に予防徹底を通知した。スポーツ庁の鈴木大地長官(53)も「どのような接触があったのか、しっかり調べて対処してもらいたい」と話した。