バドミントン男子の世界ランキング1位・桃田賢斗(25=NTT東日本)ら日本人3人が遠征先のマレーシア・クアラルンプールで交通事故に巻き込まれたことを受け、日本バドミントン協会強化スタッフの朴柱奉ヘッドコーチ(55)、中西洋介コーチ(40)が20日、都内で会見を開いた。

 事故後、公式の場で初めて事故の詳細が関係者から明かされた。桃田らを乗せたワゴン車が前方のトラックに追突した事故発生直後の13日午前5時01分、事故車に乗っていた平山優コーチ(日本ユニシス)からLINE電話で「事故が起きました」との一報を受けた中西コーチは、その様子を「軽い事故ではなく、深刻さがすぐに伝わる声のトーンでした」と振り返る。その後、ホテルに宿泊していた朴ヘッド、中西コーチはインドネシア遠征に向かう予定の選手団とともに大型バスで事故現場へ駆けつけた。

 道路脇に座り込んだ桃田は顔面から出血。「見た瞬間、涙が出ました。血も出ていて、タオルもなかった」という朴ヘッドは自身のジャージー(上着)を桃田にかけたという。中西コーチは「大丈夫か?」と問いかけたが会話にはならなかった。

「本人は放心状態。話ができる状態ではなかった。寄り添うような雰囲気でした」

 座席4列目から2列目に飛ばされて重傷を負った平山コーチ、脳振とうで記憶がない森本哲史トレーナーは重症度が高いため1台目の救急車で搬送。桃田は2台目の救急車で午前6時45分ごろ現地の病院に運ばれた。

 事故直後、桃田は朴ヘッドに「僕は大丈夫ですか?」と動揺していたが、時間とともに落ち着きを取り戻したという。救急車で移動前、桃田は事故車に自身のスマホを置き忘れたことを思い出し、朴ヘッドに伝える余裕もあった。病院で裂傷個所を縫う手術をした後は精神状態も安定。「夜はリラックスし、次の日からはテレビも見ていたし、LINEも打っていた」(朴ヘッド)

 15日に帰国した桃田は改めて日本で精密検査を受け、結果は異常なし。朴コーチには「すみません。ありがとうございました。次からもう1回頑張ります」とLINEを打ち、所属先のNTT東日本の関係者には「しっかりケガを治します」と連絡を入れたという。20日には無事に抜糸し、朴ヘッドは「順調にリカバリーできている」と説明した。

 目の前で運転手が死亡しているため「精神的ショックは少なくない。同じシチュエーションでフラッシュバックしたり」(中西コーチ)とメンタル面の懸念は残るが、朴コーチは「本人は絶対に(バドミントンを)やりたいと思っているでしょう」と言い、早ければ2月3日からの合宿に参加。3月11日開幕の全英オープン(バーミンガム)で実戦復帰を目指す。朴ヘッドは「順調に治れば試合は問題ないと思う」と話した。

 なお、東京五輪選考レースは4月まで続くが、桃田は現時点で出場当確のポイントを稼いでいて独走中。世界バドミントン連盟の規定では出場義務のある大会も残されているが、不可抗力の事故だけに何らかの処置が取られるとみられる。