25日に開幕した東京五輪プレ大会の柔道世界選手権(東京・日本武道館)は、いきなり波乱の展開となった。男子60キロ級では3連覇を狙った高藤直寿(26=パーク24)が準々決勝で、昨年3位の永山竜樹(23=了徳寺大職)は準決勝で敗れて金メダルを逃した。さらに女子48キロ級では昨年2位の渡名喜風南(24=パーク24)が18歳の女王ダリア・ビロディド(ウクライナ)に決勝で再び苦杯をなめさせられた。男女アベック優勝も期待されたニッポン柔道の軽量級に何が起こったのか。東京五輪への見通しは…。

 下馬評では男子60キロ級は高藤と永山が完全に“2強”で、誰もが決勝での2人の対戦を心待ちにしていた。ところが、高藤は準々決勝でシャラフジン・ルトフィラエフ(ウズベキスタン)に内股で転がされて一本負け。永山は準決勝で、優勝した伏兵ルフミ・チフビミアニ(ジョージア)に延長戦で肩車を返されて敗れた。

 日本人頂上対決はまさかの3位決定戦で行われ、永山が母校・東海大の先輩、高藤を破って銅メダルを獲得。永山は「正直、気持ちが切り替えられなかったが、応援の声が聞こえて踏ん張れた」と浮かない表情で振り返った。5位に終わった高藤は「(準々決勝は)集中し切れてなかった。一番駄目。なんだかんだ、勝てると思っていた」とがっくりだった。

 このライバル対決の結果はともかく、深刻なのは世界の“2強”だった2人が決勝まで進めなかったという事実だ。永山を指導する了徳寺大の山田利彦監督(49)は「今はユーチューブなどで映像がすぐに見られる。徹底して研究されている上に、外国勢は五輪前年はまたグッと(調子を)上げてくる」と分析した。対策はあるのか。「もう一つ、進化していくしかない。相手の想定の上を行く準備をして普段の力が100だったら120出せるかどうか」と語り、楽観はしていない。

 柔道出身の総合格闘家で“バカサバイバー”こと青木真也(36)は「高藤と永山はコンディションが悪すぎた」とみる。その理由についても「競わせすぎだよね。今回に限ったことではなく、柔道界が抱える問題。代表選考ももっと考えないといけない。強化合宿は代表コーチにいいところを見せようとしてオーバーワークになる。選手の自主性に任せるべき」と指摘した。

 確かに高藤は3月に腰を痛めて4月の選抜体重別を欠場。永山も7月に左肩を負傷し、グランプリ・ザグレブ大会に出場できなかった。今回の世界選手権に万全の状態で臨めたかは疑問が残る。しかも「(代表選考では)五分五分だ。この2人の勝負は分からない」(井上康生・男子日本代表監督)と2人の代表争いはまだまだ続くだけに、青木の言うように“共倒れ”の危険性もはらんでいる。

 また、女子の渡名喜は決勝で昨年に続く顔合わせとなったビロディドに払い腰で技ありを奪われて雪辱ならず。「前回は内容もなく負けてしまったので、昨年よりはいい内容だった」と2年連続の銀メダルを自己評価したが、目を引いたのは18歳の若さで連覇を果たしたビロディドのほうだ。

 172センチの長身は圧倒的に有利で、148センチの渡名喜は今後も攻略に苦労するのは明白。実際、柔道関係者には「48キロ級であの身長ではどうにもならない。あの子(ビロディド)に勝てる人材はいないのでは…」との声もあり、“絶対女王化”する恐れまで出てきた。

 男子60キロ級は五輪3連覇の野村忠宏氏(44)、女子48キロ級は五輪2連覇の谷亮子氏(43)が長く活躍したニッポン柔道の「お家芸」とも言える階級。今回の世界選手権の結果をどう受け止めるか。東京五輪まで、もう1年を切っている。