優勝候補の〝本命〟のリタイアに角界内で波紋が広がっている。大相撲11月場所3日目(10日、東京・両国国技館)、大関朝乃山(26=高砂)が右肩の負傷を理由に途中休場。両横綱が2場所連続で初日から休場する異常事態の中、またしても看板力士が不在となった。場所前の「稽古不足」が不安視されていた大関には、周囲から厳しい目が向けられている。

 朝乃山は初日(8日)の取組中に右肩を負傷。日本相撲協会に「右肩三角筋挫傷で約4週間の治療を要する見込み」との診断書を提出して3日目から休場した。朝乃山の休場は2016年春場所の初土俵以来初めて。再出場は現実的ではなく、来年の初場所(1月10日初日、国技館)は初のカド番で臨むことになる。

 師匠の高砂親方(64=元大関朝潮)は「初日にケガをした。痛くて相撲が取れない。残念だけど、しようがない。再出場? 痛いうちは無理」と説明した。12月に65歳の定年を迎える師匠にとって、今場所は最後の本場所。朝乃山も優勝で花を添えるつもりだったが「そんなものは巡り合わせ。関係ねえ。しっかり治すことだ。これで終わりじゃねえんだから」と治療の優先を強調した。

 今場所は先場所に続いて白鵬(35=宮城野)と鶴竜(35=陸奥)の両横綱が初日から不在の異常事態。朝乃山は優勝候補の本命にも挙がっていた。看板力士の新たな離脱は暗い影を落とす一方で、今回の休場は〝必然〟と見る向きもある。相撲協会は新型コロナウイルスの感染予防策として3月の春場所後から力士の出稽古を禁止している。その代替措置として、10月に6日間の日程で国技館内の相撲教習所で合同稽古を実施した。

 白鵬ら上位陣が顔をそろえる中で、朝乃山は3大関で唯一の不参加。部屋の幕下力士を相手に調整を続けた。朝乃山は「世間から見たら合同稽古に参加しろって言われると思う。1人だけ何やってんだと思われる。それに惑わされずに。自分は部屋でやると決めた。できることをしっかり考えてやってきたつもり」と話していた。

 しかし、もともと朝乃山は出稽古で調子を上げていくタイプ。巡業中や場所前の出稽古で関取衆と胸を合わせ、昨年夏場所の初優勝や大関昇進をつかみ取った。親方衆の一人は「関取衆と稽古せずに勝てるほど甘くない」と指摘した上で、今回の休場の原因についても「稽古不足だ」と言い切った。ケガとの因果関係は別にして、果たして本当に準備万端で今場所に臨めたと言えるのか。調整法も含めて、今後に課題を残した格好だ。