あの「経産省若手レポート」は炎上覚悟だった 人生100年時代に「全員賛成」の政策はない

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経産省の次官・若手プロジェクトによる「不安な個人、立ちすくむ国家」は、公の資料としては異例の100万ダウンロードを記録した(写真:梅谷 秀司)
「今後は、人生100年、二毛作三毛作が当たり前」――。今年5月、経済産業省の若手チームが現代社会の課題についてまとめたスライド資料を発表し、ネット上で賛否両論の大論争を巻き起こした。
不安な個人、立ちすくむ国家 ~モデル無き時代をどう前向きに生き抜くか~」と題されたこの65枚の資料は、経産省トップの事務次官と、20代、30代の若手有志30人で構成された「次官・若手プロジェクト」によるもの。社会の変化を把握し、中長期的な政策の軸となる考え方、価値観の転換を問いかけることを目指したものだが、若手らしく個人の目線から見た日本社会の閉塞感、違和感がストレートに表現されている。
5月29日の夜、資料作成の中核となった経産省若手チームの足立茉衣氏、今村啓太氏、そして『ライフ・シフト~100年時代の人生戦略』チーム(東洋経済新報社)が、仕事をしながらMBAを目指す青山学院大学大学院の社会人学生らとディスカッションを行った。コーディネーターは、経産省新規事業調整官で青山学院大学の非常勤講師も務める石井芳明氏。

 

コーディネーター・石井芳明氏(以下、石井):このプロジェクトは、「こんなこと言ったらまずいんじゃないか」という部分も含めて、若手が問題意識を思い切って“言い放った”もの。産業構造審議会という格式高い会で突然発表されたのですが、当日まで管理職も内容を知らされず、次官と若手メンバーだけで資料作成が行われました。実際、どんな思いでプロジェクトに加わり、どうやって作ったのですか。

「次官・若手プロジェクト」に懸けた思い

『ライフ・シフト』は15万部のベストセラーとなっている(書影をクリックするとアマゾンのページにジャンプします)

経産省・足立茉衣氏(以下、足立):私は、役所でずっと仕事をする中で、どうしてもそのときの目の前の自分の業務しか見えなくなって、狭い世界に生きてしまうことが気になっていたんです。通常2~3年で異動するのですが、所属部署が変わっても、何か一貫する軸を持ちたい、つねに広い視野でいたい。そこで本来業務と並行的に、中長期的な課題について考えるこのプロジェクトに参加しました。

いま世界は、転換点に来ているんじゃないかと思います。ブレグジット、ドナルド・トランプ大統領、ポピュリズムなど、世界は大きく動いていて、技術的にもITの進化によってマッチングが効率的に行われ、これまで中央集権的に行われてきたものが壊れていくかもしれない。国家のあり方は変化していくのではないか? このままの政策でいいのか? そこが議論の出発点でした。

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