中国とロシアは、なぜ「トランプ支持」なのか 日本と米国の関係は非常にデリケートになる

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 米大統領選の終盤、トランプ氏は子供らを伴って選挙活動を展開した(写真:ロイター/アフロ)
米大統領選の開票が日本時間の11月9日午前8時から始まった。激戦州のフロリダ州などを共和党のドナルド・トランプ候補が制するなど、民主党のヒラリー・クリントン候補優勢とみられた事前予想を覆す、波乱の展開となった。ここに至った背景には何があるのか。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が週刊東洋経済11月7日発売号『日米関係の大不安』に寄稿した分析記事を一部転載する。

 

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米大統領選挙でのゲームのルールは非常に簡単だ。既存の秩序が維持されたほうがいいと思う人はクリントン候補を支持。秩序が変わったほうがいいと思う人はトランプ候補支持だ。特に、「自分たちは社会に虐げられている」と考えている製造業従事者や米国中・南部で白人がトランプ候補を支持した。

世界各国で見ると日本やEU、韓国はクリントン候補が大統領になればいいと思っている。一方、ロシアや中国、北朝鮮はトランプ候補になればと思っている。

「トランプ嫌い」では本質は見えてこない

私が日本国内での米大統領選の見方でとても気になるのは、二重の意味での大きな偏見があることだ。一つは、米国のエスタブリッシュメントの見解が入ってくること。そして、「トランプは嫌だ」という短絡的な思いから、トランプ候補がカリカチュア化(人物の性格や特徴を際立たせるため、グロテスクに誇張したり歪曲を施したりすること)されすぎていることだ。それゆえに、なぜトランプ候補が共和党候補として支持を集めたのかが見えてこない。

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トランプ候補の唱える孤立主義は、米国の底流にあるもので、それが彼によって顕在化したことを過小評価してはいけない。米国が孤立主義から脱却したのは第2次世界大戦後のことだ。自分の国に害が及ばないかぎり、ほかの国に何があっても関係ない。そんな孤立主義の考え方は、やはり今の米国人にとって魅力のある思想なのだろう。

一方のクリントン候補は弁護士出身であり、それゆえに「折り合い」をつけたがる。実際に選挙戦では、TPP(環太平洋経済連携協定)批判などトランプ候補寄りの主張もした。どちらにしても孤立主義的な傾向が米国で強まっている。

このような見方は、日本でも英語やフランス語、ドイツ語空間だけに触れているとわからないかもしれない。私のようにロシア語空間に触れている人間ならすぐわかる。あるいは、中国語やアラビア語空間の人でもわかるだろう。これらの語学空間の人は、トランプ候補をカリカチュア化しない。その分、彼らのほうが冷静に米大統領選を分析していると思う。

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