キッコーマンは2024年3月に1:5の株式分割を実施しました。株価を5分の1へ減じると同時に株数を5倍にする手続きです。
権利付き最終日の株価は1万25円でした。投資には少なくとも約100万円が必要でしたが、分割により約20万円で投資できるようになりました。
株主優待も変更されています。ただし必要な最低株数は1単元(100株)で維持されました。100株のみ保有する人は、これまで通り1000円相当の自社グループ製品を受け取れます。同じ優待を5分の1の投資額で受け取れるため、優待利回りは5倍になったといえます。
【キッコーマンの株主優待(100株)】
株主優待の内容(自社グループ商品) | |
変更前 | 継続保有期間 1年以上:1000円相当 継続保有期間 3年以上:2000円相当 |
変更後 | 継続保有期間 半年以上:1000円相当 |
※変更前:2024年3月末まで、変更後:2025年3月末以降
優待利回りの上昇を受けキッコーマンへの投資を検討する人が増えているかもしれません。投資単位が小さくなったことから新NISAも活用しやすくなりました。
非課税期間が無期限の新NISAでは長期投資を前提とする人が多いでしょう。キッコーマンは長く保有を続けられる銘柄なのでしょうか。同社の概要と株価および業績の推移を紹介します。
実はグローバル企業 売り上げは海外7割
キッコーマンは食品製造業の大手です。しょうゆ、みりんといった調味料のほか、「デルモンテ」ブランドでトマト加工食品も手掛けています。また豆乳飲料やワインなども製造しています。
【事業部門別の情報(国内、2023年3月期)】
主な商品、サービス | 売上高 | |
しょうゆ | しょうゆ | 432億円 |
食品 | しょうゆ関連調味料(つゆ・たれ)、 トマト加工品、業務用食材 | 494億円 |
飲料 | 豆乳飲料、野菜果実飲料 | 425億円 |
酒類 | みりん、ワイン | 101億円 |
その他 | 医薬品、化成品、不動産賃貸 | 219億円 |
日本の伝統的な調味料を生産するキッコーマンですが、売り上げの75%は海外から得ています(2023年3月期)。世界でしょうゆが好調なほか、日本食を中心とした東洋食品の卸売も中核事業となっています。
【事業部門別の情報(海外、2023年3月期)】
主な商品、サービス | 売上高 | |
しょうゆ | しょうゆ | 1207億円 |
デルモンテ | トマト加工品 | 81億円 |
その他食料品 | 健康食品 | 149億円 |
食料品卸売 | 東洋食品などの仕入れ・販売 | 3435億円 |
キッコーマンの株主優待制度は以下の通りです。毎年3月末の株主を対象に、自社グループ商品や株主オリジナル商品を進呈します。
【キッコーマンの株主優待(基準日:2025年3月末)】
100株以上 | 1000円相当の自社グループ商品 |
500株以上 | 2000円相当の自社グループ商品 |
5000株以上 | 下記から選択 |
※いずれも半年以上の継続保有期間が必須
キッコーマンの株主優待は、いずれも継続保有期間が半年以上あることが条件です。2025年3月末の権利を得るためには、2024年9月末と2025年3月末に連続して株主である必要があります。
株式市場は好評価 同業他社ではバリュエーション高め
株主優待が魅力的でも、株価が下落すれば差し引きでマイナスとなる可能性があります。キッコーマン株式の値動きも確認しておきましょう。
キッコーマンは2022年、ロシア・ウクライナ情勢から売られる展開がありました。しょうゆの主原料である大豆や小麦が高騰したことから業績の悪化が懸念されたと考えられます。
2023年4月以降は株価の上昇が続いています。2024年3月には従来の上場来高値(2028円、2021年12月)を突破しました。株価上昇率は2024年4月までの5年間で80%に達しています。
キッコーマンを同規模の食品製造業と比べると、PERやPBRが高いことがわかります。割高と見ることもできますが、投資家の期待が高いと考えることもできるでしょう。
【主な食品製造業の時価総額とPER・PBR】
時価総額 | PER (会社予想) | PBR (実績) | |
味の素 | 2兆9643億円 | 29.68倍 | 3.66倍 |
キッコーマン | 1兆8875億円 | 36.72倍 | 4.08倍 |
日清食品HD | 1兆2578億円 | 23.17倍 | 2.58倍 |
ヤクルト本社 | 1兆0213億円 | 17.89倍 | 1.65倍 |
東洋水産 | 1兆0204億円 | 21.86倍 | 2.17倍 |
※2024年4月9日終値
ただしキッコーマンだけが特に買われているわけではありません。直近5年間の株価上昇率は上記5銘柄で3番目です。
赤字知らずの安定企業 リスクは穀物価格
最後に経営成績をチェックします。
キッコーマンの業績は安定的です。3月期決算に移行した2002年3月期以降、最終赤字になったことはありません。減益も少なく、純利益が前期比で減少したのは同期間で2期のみです。2012年3月期以降は成長が加速し、利益率も大きく向上しました。
安定した業績は財務にも貢献しています。積み上がった利益剰余金により資産の7割は株主資本で構成されています。3割に満たない負債のうち有利子負債の割合はさらに小さく、健全性は高いといえそうです。
【キッコーマンの財務(2023年3月期)】
総資産 | 5664億円 |
負債 | 1494億円 |
営業債務及びその他の債務 | 613億円 |
リース負債 | 335億円 |
借入金 | 175億円 |
資本 | 4170億円 |
株主資本 | 4105億円 |
キッコーマンの足元の業績は以下の通りです。今期(2024年3月期)も増収増益を見込んでおり、最終増益なら11期連続で最高益を更新することになります。
【キッコーマンの業績】
売上高 | 純利益 | |
2022年3月期 | 5164億円 | 389億円 |
2023年3月期 | 6189億円 | 437億円 |
2024年3月期(予想) | 6677億円 | 506億円 |
※2024年3月期(予想)は同第3四半期時点における同社の予想
これまでの実績からキッコーマンは優良銘柄といえそうです。長期保有が基本となる新NISAでも、投資の候補に挙がりやすいでしょう。
ただし商品市況には注意したいところです。大豆や小麦といった穀物価格が上昇すると収益悪化の思惑が働きやすく、キッコーマン株式には値下がり圧力となる可能性があります。先述の通り、穀物が高騰した2022年は売られる場面もありました。
キッコーマンに限らず株式は損失の可能性がある商品です。投資の判断は慎重に行いましょう。