【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】
肝臓はとても重要な臓器で、栄養素の代謝や解毒作用、胆汁の生成・分泌、エネルギーの貯蔵などを担っています。そこにできる腫瘍が肝臓がんです。プロレスラーの橋本友彦さん(47)は、肝臓がんの再発で治療に専念するためリングを離れることを発表。話題となっています。
報道によると、橋本さんは昨年2月、体調の悪さから受診したところ肝臓に異常が見つかり、精密検査の結果、ステージ2の肝臓がんと判明。ラジオ波焼灼術で治療を受けたそうです。その後の検査でがんが消えたことを確認したものの、今年5月の定期検査結果に伴う精密検査で難しい部位での再発を確認。抗がん剤など西洋医学での治療が難しいため、東洋医学などの治療を受けるといいます。
前述した通り肝臓は重要な臓器で、胆汁を分泌する胆管や消化管から集められた血液を肝臓に送る門脈があります。がんが胆管や門脈の近くにあると、手術などの治療が難しい。肝臓の上にある横隔膜に近いケースなども治療に難渋することがあります。肝臓がんができる部位のほか、多発したり、肝機能が悪かったりする場合も治療が難しい。
橋本さんがどのケースなのか分かりませんが、主治医に治療の難しさを伝えられると、頼りにしたセカンドオピニオンの医師にも同じことを告げられたため、東洋医学に望みをつないだということです。
しかし、アテゾリズマブとベバシズマブを併用する治療法は、切除不能な肝臓がんの第1選択です。これが使えないとなると、転移が多く、肝機能がよくなかったのかもしれません。
また、放射線治療のひとつである粒子線治療は手術が難しい、あるいは不適応の肝臓がんへの治療が認められています。保険適用です。これも多発していたりすると、残念ながら使えません。
肝臓がんの原因は、ほとんどが肝炎ウイルスの感染で、実に8〜9割。特にB型とC型の肝炎ウイルスです。脂肪の蓄積やアルコールの影響もありますが、全体として多くはありません。
これらの感染を放置して肝炎が進行すると、肝臓の細胞が線維化する肝硬変を発症。肝硬変からさらに肝臓がんになるのが典型です。肝臓がんで肝硬変を併発する割合は8〜9割に上ります。
B型やC型の肝炎のうちに治療すれば、ウイルスを駆除でき、肝硬変や肝臓がんへの進行を食い止めることが可能です。B型肝炎については、1948〜88年の集団予防接種などによる注射器の使いまわしで感染した人が最大40万人に上ると推計され、それが認められると、給付金の対象になります。
肝機能がよくなければ、肝炎ウイルスの感染をチェックし、治療することが大切でしょう。
(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)