岸田“サミット解散”はあるのか? 大平、宮沢元首相に続く「宏池会のジンクス」とは。政権支持率は急上昇、「異次元の少子化対策を大義名分に」との声も

G7広島サミットの成功により再び上昇した内閣支持率。となれば、聞こえてくるのは早期解散論。自民党の萩生田光一政調会長はラジオ番組で衆院解散・総選挙について「今、ただちに政治空白を作って国民のみなさんに信を問うことではないと思っている」と発言するも、一方で「首相の専権事項なので、首相がやるといったらやらざるを得ない」と含みを残した。現在の政局から岸田文雄首相はどう判断するのか?

秘書会総会に岸田首相が参加した意味


G7各国首脳が広島の原爆資料館を訪れ、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日というサプライズもあったG7広島サミット。報道各社の世論調査では岸田内閣の支持率が大きく上昇し、永田町では解散風がこれまでになく強くなっている。

一方、自民党は、公明党と衆院選での候補者擁立を巡って揉めているほか、統一地方選で議席を大きく伸ばした日本維新の会の勢いも気にしており、国会会期末に向けて「解散権」を握る岸田首相の判断が注目されている。

G7広島サミット閉幕の翌日5月22日夜。赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京で開かれた衆議院自民党秘書会総会に出席した岸田首相は労いを込めてこう挨拶した。

「サミットが私の地元、広島で行われ、東京、広島の秘書や事務所スタッフに支えてもらった。私も国会議員になって今年で30年になる。いろんな仕事をし、その間、10回の選挙を何とか勝ち抜くことが出来た。これもすべて東京や地元の秘書に支えてもらったおかげであったと認識している」


G7広島サミットで集まった各国首脳。ゼレンスキー大統領も来日した(岸田首相facebookより)


「解散」という言葉が出てくることはなかったが、秘書会総会に自民党総裁である首相が参加すること自体が珍しく、秘書たちの間では「衆議院解散も視野に入れて発破をかけに来たのではないか」と噂された。

21日まで3日間開かれたG7広島サミットでは、ゼレンスキー大統領の来日というサプライズがあったほか、アメリカのバイデン大統領も原爆資料館に約40分間滞在。
芳名帳に英語で「世界から核兵器を最終的かつ永久になくせる日に向けてともに進もう。信念を貫こう」と記入して、岸田首相の呼びかけた「核兵器のない世界」に賛同するなど、サミットはおおむね成功を収めた。


世論調査を受けて強まる解散風


一方で、「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」に核抑止力を肯定する文言が入ったことや、日本が参加していない核兵器禁止条約については触れられもしなかったことについては、被爆者団体から「怒りを覚える」などと批判が出ている。

だが少なくとも、世間一般のG7広島サミットへの受け止めは好意的なようだ。
毎日新聞が20、21日に実施した世論調査では岸田内閣の支持率が45%となり、前回の36%から9ポイント上昇。不支持率は46%で、前回から10ポイント下落した。同時期に読売新聞が行った世論調査でも内閣支持率は56%となり、9ポイント上昇。不支持率は33%で4ポイント下落した。
数字に差はあれど、どちらも支持率は大幅に上昇したと言える。


(岸田首相facebookより)


世論調査の結果を受けて、永田町では解散風が一層強くなっている。
もともと、「サミットの効果で内閣支持率が上がり、その勢いで解散するのではないか」という見方はサミット前から広がっていたが、予想以上の大幅な上昇に自民党内では「今解散せずに、いつ解散するんだ」といった声が各所から上がっている。

全国紙政治部記者は「4月の統一地方選での維新の躍進や、自民が衆参5補選で接戦となったことなどを受けて、一時期はサミット後の解散に慎重な意見も多かったが、サミットを経て流れが一気に変わった。自民党幹部からも『解散』という言葉が数多く聞かれるようになった」と話す。


立憲民主党はどう動く?


こうしたなか、注目されているのは、立憲民主党が内閣不信任決議案を提出するかどうかだ。この決議案は内閣の退陣を求めるものであるため、その提出は解散を誘発させると言われてきた。

22日に自民党衆院議員の政治資金パーティーで挨拶した宮沢洋一税調会長は「そう簡単には解散はない」と前置きをしながら、「内閣不信任決議案が出たら、岸田文雄首相の性格からすると受けて立つ可能性もかなり高い」と発言。会場の衆院議員に対し「いろいろ心配りをされる時期に入ったのかなと思う」と付け加えた。
宮沢氏は岸田首相の従兄にあたり、気心が知れているだけに、この発言はニュースでも大きく取り上げられた。

野党第一党の立憲は報道各社の世論調査で自民に政党支持率を大きく引き離されているだけでなく、勢いづいている維新に支持率を逆転されるなど、瀬戸際に立たされている。
立憲内からは「いま総選挙をやったら、立憲は確実に議席を減らす」という危機感が漏れているが、一方で「内閣不信任決議案を出さなかったら、今の自分たちが劣勢に立たされていると認めるようなものだ。追い詰められているからといって弱腰な対応はできない」(立憲中堅議員)との声も出ている。


立憲民主党の判断は?(泉ケンタ事務所facebookより)


泉健太代表は22日、報道陣に「我々は今の政治では駄目というのが基本的なスタンスだ。不信任決議案を出せば解散の可能性もあるが、それで何か躊躇するとかしないとかはない」と強気の姿勢を示した。

また、内閣不信任決議案が提出されなかったとしても、解散される可能性は十分にある。
6月には「異次元の少子化対策」として子ども予算倍増の大枠を示すこととしており、その内容を「解散の大義」として総選挙に打って出るという見方もあるからだ。
いずれにしても、解散総選挙をするか否かは岸田首相の判断にかかっている。


大平、宮沢元首相はサミット開催年に解散総選挙


サミットを経て上り調子の自民だが、公明とは衆院選に向けての候補者擁立で対立が深まっている。
23日には東京28区で独自候補を擁立しようとしている公明の石井啓一幹事長に対し、自民の茂木敏充幹事長が「すでに候補者を決めており、地元の理解が得られない」などと、受け入れられない考えを伝えた。

公明周辺は「公明は選挙を経るごとに創価学会の組織票が減っており、また、統一地方選で大阪市議会の単独過半数を獲得した維新が、これまで公明と衆院選で候補者をすみ分けてきた協力関係をリセットすると宣言した。逆境に立たされているなか、衆院小選挙区の『10増10減』で増えた東京の選挙区を何としてでも獲得したい」と話す。

また、統一地方選後に勢いを増している維新への警戒感もなくなったわけではないが、自民党関係者からは「維新に勢いが出ているとはいえ、関西圏以外では、まだ小選挙区で勝ち上がれるほどの地力はない。立憲と維新の野党同士で候補者をぶつけ合って潰し合っている側面もあり、解散をためらう理由にはならない」という見方も出ている。


岸田首相は果たしてどう判断するか?(岸田首相facebookより)


岸田首相はサミット開催前の17日、自身が会長を務める派閥・宏池会の会合で「宏池会から誕生した5人の総理のうち、大平正芳総理、宮沢喜一総理、そして私に共通することがある。7年に一度しか巡って来ない日本でのG7サミットの議長を務めるということだ」と胸を張った。

実は大平氏と宮沢氏にはもう1つ共通点がある。それは、サミットを開いた年に解散総選挙をしているということだ。
岸田首相もサミットを主導した宏池会3人目の総理として、先人と同じ道を踏襲するのか。

6月21日の国会会期末に向けて、永田町では様々な思惑や発言が飛び交っている。

取材・文/宮原健太
集英社オンライン編集部ニュース班


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