「SHOGUN 将軍」で世界を魅了した浅野忠信、揺るがぬ確信で“アク”を生み出す【てれびのスキマ】

■中3で俳優デビュー

「Maybe you do’nt know me…」から始まる浅野忠信の「SHOGUN 将軍」(2024年Disney+)でのゴールデングローブ賞・助演男優賞受賞のスピーチは、海外の映画・ドラマファンをも魅了した。名前が呼ばれて頭が真っ白になり用意していたスピーチが飛んだ。壇上に立つと自分を見る視線が「お前誰?」と言っている気がした。だから自然と冒頭の言葉が出たのだ。ついに世界に認められた。その喜びを爆発させた。

浅野が俳優として生きていくことを決めたのは18歳の頃だった。中学3年生のときに、芸能の仕事をしていた父の勧めで「3年B組金八先生(第3シリーズ)」(1988年TBS系)のオーディションに参加し俳優デビューを果たした。元SMAPの森且行、20th Centuryの長野博、萩原聖人らが“同級生”。ただこのときは、「もう一つの中学に行く感覚」だったという(「Numero TOKYO」2017年10月5日)。

■オーディションで感じた「自分は絶対にああはなりたくない」

原作が好きで出演した「バタアシ金魚」(1990年)では、長い待ち時間に「こんな面倒な仕事、もう絶対やらない」と思ったが、父は次々とオーディションを勧めてくる。やがて父と大ゲンカ。そのとき、祖母が「あんたが音楽好きなのはわかってる。音楽は俳優やりながらできるでしょ」と言ってくれたことで決意が固まった。

ただ、浅野には譲れない信念があった。オーディション会場で、他の参加者たちが急に芝居がかった口調になるのが恥ずかしくてたまらなかった。「自分は絶対にああはなりたくない」と、“自然に喋る”“なにもしない”演技スタイルを築いていったのだ。

■「今の自分には必要」嫌いだった演技を受け入れ修業の日々

それは当時の日本映画界の中で鮮烈なインパクトを与えた。是枝裕和監督の「幻の光」(1995年)や岩井俊二監督の「PiCNiC」(1996年)、青山真治監督の「Helpless」(1996年)などに出演し、1990年代後半の日本映画を象徴する存在となり、その演技スタイルは多くのフォロワーを生んだ。

しかし、2000年代半ば以降、浅野が出演していたようなミニシアター系の映画が作られにくくなり激減していき、「そのままだと自分は必要とされなくなるような気がした」(「文春オンライン」2025年3月28日)。そんな中、山田洋次監督の「母べえ」(2008年)が転機となる。山田は「もっと活舌よく、発声をしっかり」と求めた。かつては嫌っていた演技だが、「今の自分には必要」と受け入れた。そこから「修業」が始まる。

■これまでとは真逆の“不自然体”の演技に

仕事選びにおいて彼はなんと「脚本がつまらないものは率先してやるように」していた(「スイッチインタビュー」2025年4月25日NHK Eテレ)。「だから(僕のところに)来たんですよね。面白くしてほしいってことですよね」と。自分も「修業の身」だから「とことんやって、はみ出さないことには進まない」。だから、「ムチャな役ほど」率先して受けていた。

40代になると、それまであまり出ていなかったテレビドラマにも出演するようになった。「刑事ゆがみ」(2017年フジテレビ系)の主人公・弓神適当は、その名の通り、適当で歪んだ性格。大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(2019年NHK総合ほか)で演じた川島正次郎は作中唯一ともいえる悪役。朝ドラ「おかえりモネ」(2021年NHK総合ほか)では、妻を亡くし酒に溺れる男を演じた。いずれも、1990年代の浅野とは真逆の“不自然体”の演技で、アクの強い人物を演じた。

■「俺という観客はこれを観たがっている」という確信

時代ごとに演技のアプローチを変え、そうした末に「SHOGUN 将軍」があったのだ。これまで培ってきたメソッドを全部使ったという。

「ほかの俳優さんたちはその役を通じて共感を得なきゃいけないところがあるかもしれないですけど、(「SHOGUN」の)藪重でも、『いだてん』の川島さんでも顰蹙(ひんしゅく)を買わなきゃいけない。だから現場でもやっちゃいけないことをとことんやっていい役割だと思っていて、みんながやらないことを率先してやれるんですよ。それはやっぱめちゃくちゃ面白い」(同)

現場では、白い目を向けられることも多いという。うざったい俳優だということも自覚している。けれど、その場の空気に呑まれないようにしている。なぜなら、彼は「自分という観客に向かって演技をしている」(「THE RIVER」2024年4月23日)からだ。現場では「なんでお前だけ一人はみ出すんだ!」と思われても、「俺という観客はこれを観たがっている」。その確信が浅野忠信というアクを生み出しているのだ。

文=てれびのスキマ
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」

※『月刊ザテレビジョン』2025年7月号

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