習慣化コンサルタントの古川武士氏は、先延ばし、スマホ・ネット、ムダ遣い、ダラダラ生活、夜更かし、食べ過ぎ、飲み過ぎ、イライラ、クヨクヨ、完璧主義――を、代表的な10の悪習慣として紹介しています。

 どうしてもやめられない悪習慣をやめるためにも、まずは習慣の特徴やメカニズム、また悪習慣の効用について、確認していきましょう。以下の3点に、まとめてみました。

●どうして悪習慣はやめられないのか

【1・人間は習慣化されやすく、習慣にはメリットが多い】

 大前提として、人間は習慣化されやすく、そして習慣には多くのメリットがあるといえます。例えば毎日が違うことだらけで、日常における些細な行動まで全て意識的に選択しなくてはいけないと仮定してみてください。尋常ではないストレスにさらされ、すぐに疲れ果ててしまうでしょう。

 背景には、現代の習慣研究の基礎認識として、心理学者のウェンディ・ウッド氏は習慣の研究から、「人間の日常的行動のうち、40%から45%が習慣によるもの」という結論が採用されていること。また、心理学者でプラグマティズムの創始者であるウィリアム・ジェームズが「人間は生物学的にも習慣が作られやすくできている」と述べていることなどが挙げられます。

【2・良習慣より悪習慣の方が、手軽で習慣化されやすい】

 本来、習慣という行為自体に、良し悪しはありません。そして、満足感や充実感のような“楽しいという感覚”は、一般的に悪習慣といわれる行為よりも良習慣といわれる行為からの方がより多く得られ、実験によってはその差は約3倍にもなるといわれています。

 しかし、多くの人が良習慣より悪習慣に多くの時間を費やしてしまいます。その理由は、悪習慣は手軽であったり受動的であったりするため習慣化されやすく、反対に良習慣は手間がかかったり能動的であったりするため習慣化されにくいという特徴があるためと、考えられています。

 そのため、良習慣に至る行動を「最も抵抗の少ない(面倒くさくない)道」とすることで良い行動を習慣化し、反対に悪習慣につながる行動を「最も抵抗の多い(面倒くさい)道」とすれば悪習慣をやめられたり、やめやすくなったりすることが予想されます。

【3・良習慣以上のメリットを、悪習慣から得ている】

 他方、ストレスを受けたことによる苦痛を低減しようとする認知的・行動的努力を、「ストレス・コーピング」といいます。ストレス・コーピングの観点に立てば、たとえ悪習慣であったとしても、より心身に害をなすストレスの低減に役立っている可能性があります。

 そのため、意識・無意識にかかわらず、無理にやめるとトータルではさらによくないことがおこる可能性を回避するために、あえて悪習慣を続けている場合があります。また、ただ悪習慣をやめることだけに対処をしても失敗したり、かえって悪習慣を強化したりする危険性もあります。

 ストレス・コーピングのための悪習慣の場合、まずはストレスの原因を取り除く根本的なアプローチが必要になります。

●オススメ!「20秒ルール」で悪習慣を断つ!

 以上の3点からは、悪習慣をやめるためには、まずは自分の生活を見直し、さらには悪習慣の性質を見極めて対策することが大切だということがわかってきます。やみくもにやめようとしても辞められるものではありませんし、また、やめようとすることによって体や心や生活に害を及ぼしてしまって本末転倒となってしまいます。

 例えば、冒頭で紹介した10大ストレスを古川氏は、1)行動習慣(先延ばし、スマホ・ネット、ムダ遣い、ダラダラ生活)、2)身体習慣(夜更かし、食べ過ぎ、飲み過ぎ)、3)思考習慣(イライラ、クヨクヨ、完璧主義)――のように3分類し、各々の悪習慣に応じたやめるための方法を提案しています。さらに正しい方法を用いた場合の悪習慣をやめるために必要な期間の目安を、1)行動習慣・1カ月、2)身体習慣・3カ月、3)思考習慣・6カ月――としています。

 つまり、一口に悪習慣といっても原因も形態も様々で、万能の対処法はないとはいえます。ただし、心理的メリットを得るための選択肢を増やす「スイッチング(代替)」、悪習慣を書き出したりデータ化したりして“見える化”する「レコーディング(記録)」等、汎用的な対策法も提案しています。

 さらに1点、誰でもすぐに試すことができ、多くの悪習慣に効果的な最短の対策法として、「20秒ルール」があります。

 「20秒ルール」は、ポジティブ心理学の第一人者のひとり、ハーバード大学でポジティブ心理学講座の講師も担当していたショーン・エイカー氏が提唱する、習慣化のメソッドです。実践方法は簡単で、1)習慣化したいことを20秒以内に実行できるように環境を調整し、2)逆にやめたい習慣は20秒以上かかるように環境を調整する――だけです。

●悪習慣を良習慣に。習慣パワーの活用

 法学者・哲学者のカール・ヒルティは主著『幸福論』に、「われわれはつねに、消極的に何かの習慣を“やめ”ようとするより、むしろある習慣を“つけよう”としなければならない。なぜなら内面生活においても、攻撃に出る方が、たんに防御にまわるよりもずっと容易だからである」と記しています。

 そして、習慣化のコツの第一に「“着手する”ということである」としていますが、まさに「20秒ルール」の本位と合致しています。

 習慣には大いなる力(パワー)があります。悪習慣を断ち切り良習慣の先にあるそれぞれの幸福の実現のためにこそ、習慣のパワーを最大限に活用してみてください。

<参考文献>
『新しい自分に生まれ変わる「やめる」習慣』(古川武士著、日本実業出版社)
『習慣の力』(チャールズ・デュヒッグ著、渡会圭子訳、講談社)
「ストレス・コーピング」[心理学]『イミダス 2018』(松田英子著、集英社)
『幸福優位7つの法則』(ショーン・エイカー著、高橋由紀子訳、徳間書店)
『超習慣術』(メンタリストDaiGo著、ゴマブックス)
『ヒルティ幸福論 1』(カール・ヒルティ著、氷上英廣訳、白水社)