「サッカーコラム」見えてみた森保ジャパンが目指すもの

「サッカーコラム」見えてみた森保ジャパンが目指すもの

 様式美。日本人が他国の人々より大事にするとされるものだ。このことは、茶道や華道、武道などで結果に至るまでの作法や所作といった過程により重きを置くことによく表れている。同じ結果に行き着くのなら「型」なんか、どうでもいいだろう。そう考える、合理主義者にはこの感覚は理解されないだろう。

 このような日本人の傾向は、サッカーにも通底するものがある。昨年開催されたワールドカップ(W杯)ロシア大会までの日本代表に顕著に見られた。最終ラインから出されたボールを中盤が大切に運び、ペナルティーエリアの密集地帯に持ち込んでゴールを決める。狭い地域でどこまでもパスをつなごうという姿勢は、世界的に見ても特異だった。それゆえ、得点が生まれた過程はどれもとても美しい。

 ただ、そのサッカーを全ての相手に対して貫くのは簡単ではない。実力が日本と同等以上で得点を奪おうと攻めに出てくる相手には、素早く攻め込めばペナルティーエリア内にパスを通すコースがある可能性が高くなる。対して、実力が日本より劣るチームは失点を防ぐためにエリア内に人を多く配してスペースを消してくる。にもかかわらず、過程を大切にしてエリア内のシュートにこだわってしまうと、当然ながらシュートチャンスは限られることになる。これが過去に日本が格下に苦戦してきた原因だ。

 優先するべきは、過程よりも結果。サッカーで大事な物はそれだと筆者は思っている。特に、日本代表に関しては。だから、ゴールを得るために必要なことはペナルティーエリアに入っていくことではない。エリアの外からでもコースがあれば積極的にシュートを打てばいい。要はシュートの使い分けだ。

 その点において、森保ジャパンに招集された若い選手たちの意識はロシア大会までの選手たちとはそれとは良い意味で明らかに違う。エリア内という“窮屈な”地域にこだわらず、得点のイメージを描けるエリアが格段に広いのだ。

 9月10日、ミャンマーの旧首都ヤンゴンで2022年W杯カタール大会のアジア2次予選が行われた。日本にとっては同予選の初戦となる。国際サッカー連盟(FIFA)のランキングにおいてミャンマーは135位。同33位の日本からすれば明らかな格下だ。だからといって、手放しで楽観できる保証はなかった。

 なぜなら、W杯予選の初戦で日本はこれまでも苦しんだ歴史があるからだ。過去4回はすべてホームの埼玉スタジアムで実施された。このうち無難に勝利を収めたといえるのは、10年南アフリカ大会の岡田ジャパンのみ。この時は4―1でタイに完勝した。06年ドイツ大会のジーコ・ジャパンのオマーン戦、14年ブラジル大会のザック・ジャパンの北朝鮮戦はともに1―0の辛勝。しかも、決勝点が生まれたのは2試合ともにアディショナルタイムに入ってからだ。そして、ハリルホジッチ監督が率いた前回のロシア大会では、アラブ首長国連邦(UAE)に1―2で敗れている。

 苦戦した試合に共通しているのは、得点を奪うことに関する「割り切り方」。過去のチームは、自分たちのスタイルにこだわるあまり、臨機応変さに欠けていた。

 この点で、森保ジャパンは対照的だ。特に左から中島翔哉、南野拓実、堂安律と並んだ2列目のサッカー・メンタリティは、旧来の日本人からかけ離れていて、外国人選手に近いといえる。パスを受けられる味方が近くにいてもコースが空いていれば、第1選択肢は自らシュートを打つこと。若い年齢で欧州に渡りポジションを得るためには、個人としての結果が必要。環境が彼らのような新しいタイプの選手を生んだのだろう。

 「ここまで個で通用する代表チームはなかった」

 2度のW杯を指揮し、試合があった10日に日本サッカー殿堂入りした岡田武史氏は、日本サッカー協会(JFA)が開いた掲額式典で現在の日本代表に対してこう語っていた。

 取材後、自宅でミャンマー戦を観戦した。初戦で最も重要となる先制点を呼び込んだのはまさに、その個人の力だった。前半16分、冨安健洋の縦パスを中島がペナルティーエリア左角で受ける。中島は右足アウトサイドで一歩中に持ち出すと、そのまま右足を振り抜いた。いわゆる「デルピエロ・ゾーン」から放たれたインサイドで回転の掛けられたシュート。GKの頭上を巻くようにファーポスト際に突き刺さった。中島の一発は、試合前に抱かれた苦戦の予感を、簡単に拭い去ったといっていいだろう。

 試合を決定づける前半26分の2点目も、シュート意識の高い21歳・堂安の積極性が生かされた。左に流れて打ったシュートはGKの正面を突くも、こぼれ球は再び堂安の所へ。今度はシュートではなくクロスを選択。南野にピンポイントで合わせ、2点目のヘディングを完璧にお膳立てした。

 シュート30本を放ちながらも、奪った得点は2点だけ。2―0という試合結果に対する感想は人それぞれにあるだろう。それでも一つだけ言えることは、この試合が何を最大の目的に置いたかだ。そう、勝ち点3を得ることだ。誰もケガをせずそれを成し得たのだから良しとしよう。

 長い道のりとなるW杯予選が、また始まった。このチームには、点が必要なときに力ずくでもゴールをこじ開けようとする選手がそろっている。これまでにない期待感を持って、森保ジャパンの戦いぶりを見ていきたい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。


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