派手な殴り合いの末にもぎ取った勝利。3―2という結果だけを見れば、誰もがそう思うはずだ。ところが、現実は全く違った。勝ったチームは殴られっぱなしで、何とか繰り出したパンチが幸運にも相手の急所を打ち抜いただけそんな試合だった。もちろん、勝利を引き寄せる武器は備えていた。打たれ強さとパンチの強烈さだ。

 10月4日に行われたJ1第20節、横浜M対神戸の試合は、こんな内容だった。両チームは今季、すでに2度対戦している。結果はともに3―3。攻撃的なチーム同士なので、殴り合いの展開になることはある程度、予想できていた。

 実際はどうなったのか? 横浜Mが26本ものシュートを放つ一方的な展開になった。それでも、結果は3本しかシュートを放てなかった神戸が3―2で勝ってしまった。だから、サッカーは面白い。

 前節までの44得点中、半数の22得点がサイド攻撃から。横浜Mはデータでも分かる通り両サイドからのクロスを最も多用するチームだ。

 試合を早々と動かした開始3分のゴールもそのクロスからだった。カウンターからエリキが右のオープンスペースへスルーパス。走り込んだ右ウイングバックの小池龍太が、ゴール前を確認しながらダイレクトでボールを送り込んだ。待ち受けていたのは負傷が癒えたエジガルジュニオ。教科書通りの美しい右足ボレーで先制点をたたき出した。

 あっという間の失点だった。原因は、エリキからパスが出た瞬間、神戸のCBフェルマーレンがクロスを阻止するためにサイドへと引き出されこと。これで、ゴール前の人数が少なくなった。カバーしたのはCBダンクレーと右サイドバック西大伍だったが、通常よりもスペースがあった。そこをエジガルジュニオに利用された。

 だが、この失点が守備の修正のきっかけになったようだ。その後はサイドからクロスを上げられることにはある程度目をつぶり、ゴール前の“制空権”をともに長身のフェルマーレンとダンクレーで握る方針に切り替えたように見える。横浜Mの3トップには長身選手がいない。つまり、スペースさえ与えなければヘディングで競り負けることはないからだ。

 攻め込まれた。それでも集中力は切れなかった。それは、良いタイミングで得点を挙げられたからだろう。前半8分にはDFラインの裏を取ったドウグラスが、GK梶川裕嗣との1対1を制して同点。ゴールラインと平行に移動しながらパスの瞬間に縦に抜け出て、オフサイドトラップを破ってみせた。これぞ点取り屋の駆け引きの見本といえるものだった。

 一方で幸運もあった。前半11分にはイニエスタがPKを決めて逆転した。きっかけとなったのは郷家友太が倒されたように見えたプレーだったが、横浜Mの扇原貴宏の足は掛かっていなかった。しかし、ビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)の採用が見送られた今シーズンはそれを確かめる術がない。レフェリーの判断が尊重されるしかなかった。

 リード奪っているチームが、一方的に受けに回る。この日のような試合を見た記憶はほとんどない。それほど、横浜Mの攻撃は迫力があった。神戸守備陣がゴール前を固めたことで、サイドには大きなスペースが生まれた。横浜Mにとって、ほとんどクロスの練習をしているようなものだった。右の小池、左のティーラトンの両ウイングバックに加え、3トップの両翼、マルコスジュニオールとエリキ、さらには3バックの中央に入った扇原までもが攻め上がり、クロスの雨を降らせる。特に前半終了間際は、神戸が失点しないのが不思議なほどのワンサイドゲームだった。

 後半に入り、神戸はバランスを取り戻した。前半はアンカーとしてDFラインの前にサンペール1人しかいなかった。その横にできたスペースをマルコスジュニオールとエリキに自由に使われた。後半は、そのスペースを埋めるために、サンペールに代え安井拓也が入り、山口蛍も1列下がったことで「2ボランチ」となったのだ。

 守り一辺倒。体力的にも精神的にも疲弊した神戸に大きな勇気を与えたのが、古橋亨梧だった。今やJリーグ屈指の点取り屋に成長した男が後半11分に得点を挙げたのだ。イニエスタがスライディングで回収したボールが前線のドウグラスへ。そのパスを左で受けた古橋はドリブルで持ち込むとペナルティーエリア直前で中央にカットインしDF3人をかわして右足シュートを放った。

 「3点目の勝ちにつながるゴールとなったのはうれしい」と振り返った強烈な一発はキャリアハイの11点目となり、得点王争いでも2位に浮上した。

 やっていた本人たちが一番しびれたのではないだろうか。終了直前に横浜Mの小池に1点は返された。それでも神戸はリードを保ったまま終了のホイッスルを聞いた。あれだけ圧倒されながらも、勝利を収められることは選手生活のなかでもそう多くはないだろう。ただ、苦境を乗り越えれば選手は自信を得られる。圧倒されても勝つ術はある―と。

 三浦淳宏監督に変わってから、神戸は無傷の3連勝。「特別な試合」を積み重ねることで、チームはさらに成長していくのだろう。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。