素晴らしい決勝戦だった。この戦いを、一緒に汗を流した登録メンバー外の仲間や保護者、学校関係者にも生で見てもらいたかっただろう。ただ、無観客になったことで逆に、普段は歓声にかき消されていた高校生たちの息遣いが伝わってきた。目に見えるプレーだけでなく声が聞こえることで、彼らがこの一戦にどれほど懸けてきたかをうかがい知ることができた。その意味で1月11日に行われた第99回全国高校サッカー選手権決勝は、印象深いものだった。

 「強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ」

 これは西ドイツ(当時)代表で活躍した「皇帝」フランツ・ベッケンバウアーの名言だ。1974年に地元開催となったワールドカップ(W杯)で西ドイツは決勝に進んだものの、前評判は圧倒的にオランダ優勢の声が高かった。ヨハン・クライフ率いる「オレンジ軍団」は、準決勝で前回王者のブラジルを完膚なきまでにたたきのめすなど、圧倒的な内容を見せていたからだ。しかし、結果は2―1と西ドイツの逆転勝ち。以来、現在のドイツに至るまでオランダにとっての天敵となった。

 青森山田と山梨学院が11大会ぶりに相対した全国高校サッカー選手権決勝の構図は、これに似通っていた。

 3大会連続の決勝進出を成し遂げた青森山田は、今大会も4試合で15得点2失点と攻守に渡って高校生離れした強さを示す、いわば「横綱」的存在。昨年の同選手権決勝で静岡学園に2―3の逆転負けを喫して以降、公式戦39勝と尋常ではない強さを発揮していた。

 一方、3年ぶりの出場となる山梨学院は6得点3失点。1回戦から準決勝までの5試合でPK戦勝ちが2試合あり、その他の3試合もすべて1―0と最少得点差で勝ち上がってきた。堅守は光るが、決して得点力の高いチームとはいえなかった。

 「10回戦って1、2回勝てればいい相手。その1回が今日来るようにどう戦っていくか準備して臨みました」

 2―2からのPK戦決着とはいえ、優勝は優勝。山梨学院の長谷川大監督の言葉通り、個々のスキルでは青森山田の選手が一枚上だった。それを跳ね返して勝利に結びつけたのは、練られた策がぴたりとはまったからだろう。敵チームにおけるビルドアップの起点となるDF藤原優大にFW久保壮輝をマンマークさせた。攻める選手を一人捨てるという大胆な奇策は、大舞台で簡単に選択できるものではない。

 実力が上の相手を慌てさせるには先にゴールを奪うことが必要だ。それが見事にはまったのは、前半12分だった。準決勝の先制点もそうだったのだが、山梨学院は守備から攻撃への切り替えの際に前へ出るスピードがある。

 その推進力を生かし青森山田の守備的MFである「アンカー」のサイドにできるスペースをうまく使った。野田武瑠からパスを受けて右サイドを駆け上がった谷口航太がゴール中央へクロスを入れる。駆け上がった広沢灯喜は相手最終ラインの手前でボールを右に持ち出すと、DF2人の間を通す低く抑えられたミドルシュート。ボールは、ゴール右隅に飛び込んだ。

 1―0のリードの時間をできるだけ保ち、攻めに出て来た相手にいかにカウンターを仕掛けるか。キャプテンで絶対的な信頼を集めるGK熊倉匠を中心に、集中力を高く保ち粘り強く守備をする山梨学院。ただ、青森山田の攻撃力はそれ以上のものがあった。

 後半に入ると12分に、内田陽介の必殺のロングスローがさく裂。混戦から松木玖生のシュートのこぼれ球を藤原が押し込んで1―1の同点。さらに18分には右サイドを突破した藤森颯太のグラウンダーのセンタリングを、DFの背後からスライディングで右足を出した安斎颯馬が見事に合わせて勝ち越し点を奪った。

 逆転を許した山梨学院は、それでも気持ちを切らさなかった。さらに失点を重ねていれば勝負は決まっていただろう。押し込まれても最少得点差で背中を追っていれば、力の差があっても一度や二度はチャンスが巡ってくる。サッカーとはそういうスポーツだ。

 後半33分、中盤でFKを得た山梨学院の早いリスタートが相手の隙を突いた。ボールを受けた笹沼航紀は、DFの間に割って入る山口丈善にスルーパスを送る。GKとDFに挟まれながらも山口が残したボールを、野田が浮き球の左足シュートで起死回生の同点ゴールを奪った。

 通常40分ハーフの試合は、準決勝から45分へと変わった。さらに10分ハーフの延長。高校生にとっては体力的にきつい状態でのPK戦決着となった。

 「PK戦は運」。解説者でも平気でそういう人がいるが、そうは思わない。PK戦も、やはり想定して準備しているチームが強いのだ。W杯で4度あったPK戦にすべて勝利しているドイツが良い例だ。

 それを考えれば、より良い準備ができていたのは山梨学院だった。今大会でも既に2回のPK戦を経験している。一方、青森山田は強過ぎるからこその弱点があった。この1年で公式戦39連勝ということは、プレッシャーの掛かる状況でPKを蹴ったことのある選手が、ほとんどいないということを意味していた。

 11年ぶりとなる選手権決勝の再戦で、勝利したのはまたしても山梨学院だった。2―2に追いついき、PK戦で4―2の勝利。このレベルになると選手全員がPKを決める技量を持っている。ただ、この日の流れは山梨学院側にあった。そして「タイトルは優れたGKとともにある」のサッカーの格言が証明された一戦だった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。