新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るい、3月からの第4波で全国でも突出した新規感染者数が出た大阪府。6月20日に緊急事態宣言は解除され「まん延防止等重点措置」に移行し、現在は100人前後と小康状態だ。府の専門家会議座長を務める朝野和典・大阪健康安全基盤研究所理事長は、感染者数の増減が酒類の出荷量の推移と似ていることを指摘する。飲酒自体が流行の直接の原因ではないが、十分な対策をしないとしぶきを伴う会話が増え、感染拡大につながる。朝野氏は、ビール消費量が多くなる今夏に「第5波」が到来すると警鐘を鳴らす。(共同通信=三村泰揮)

 ▽感染者数と酒の出荷指数

 朝野氏は、昨春に起きた第1波と今春の第4波での大阪の感染状況を比べた。感染拡大が最も加速した時期を検証できる7日間平均の前週比で見たところ、規模は異なるものの昨春と今春ではピークが同じ4月初めだった。この結果を基に「感染したのは約2週間前だから、いずれも送別会など3月の宴会シーズンに広まったのだろう」と指摘する。

 朝野氏が注目するのは、経済産業省が公表している「鉱工業指数」だ。酒類の出荷指数を見ると例年、年末の12月にピークを迎え、もう二つある山が4月と7月ごろだ。これらが忘年会シーズン、入社や転勤、花見シーズン、そしてビールの消費量が多くなる盛夏シーズンに対応していることはすぐ分かる。季節や行動様式と酒の出荷量とは密接なかかわりがあるのだ。

 酒類の出荷指数は、2015年を基準の「100」としている。コロナ禍に入り、緊急事態宣言を受けた飲食店の営業制限などで出荷が抑えられたことから、2020年は波形が全体的に下がったことが確認されるが、波形のパターンはおおむね維持されている。

 新型コロナの感染者が確認されはじめた20年1月以降、感染者数の波は四つあった。酒類の出荷のピークと同じかやや遅れて感染者数の波が来ていることが伺える。大阪府は20日の宣言解除後も酒類提供に抑制をかけるまん延防止措置となるが、その効果が不十分な場合、梅雨明けの7月には一気に酒類の消費量が上がる可能性がある。朝野氏はこのタイミングに着目し、第5波に強い警鐘を鳴らす。

 ▽トラウマになった第4波の医療崩壊

 大阪での新規感染者数は波を経るごとに倍以上に増加している。第1波のピークは92人(昨年4月9日)、2波は255人(8月7日)、3波は654人(今年1月8日)、4波は1260人(4月28日、5月1日)。第1波〜3波までは酒の出荷指数との相似もあるが、朝野氏は第4波については「英国由来のアルファ株の広がりがさらに感染者増を加速させた」と指摘する。

 大阪は海外と通じる関西国際空港があり、在日外国人の人口も多い。しかし、アルファ株が全国に先駆けて大阪で爆発的に広がった理由は判明していない。さらに感染力が強いとされるデルタ株もどこがホットスポットになるか見通せず、全国的な警戒が必要だという。

 第4波で大阪府の重症者数は最多で449人に膨れあがった。確保病床数(224床)を大きく上回り、入院できずに自宅待機になる患者が続出。まさに「医療崩壊」だった。医療現場から府庁には惨状を伝える声が相次ぎ、府幹部は「みなの中にトラウマとして刻み込まれた」と振り返る。

 今後、拡大が懸念されるデルタ株がどの程度重症化しやすいかは分かっていないが、来る第5波でも、爆発的な感染拡大により対応が後手に回ったあの悪夢がよぎる。

 ▽大阪が生かせなかった短期指標

 第3波に対応した2回目の緊急事態宣言(1月14日〜)では、大阪は感染者数が減少に転じたなどとして、当初の期限だった3月7日よりも前倒しして2月末での宣言解除を要請した。吉村洋文知事は対策本部会議で、長引く時短営業で飲食店が被る打撃を強調し、「宣言はだらだら続けるものじゃない」と主張していた。宣言解除時の新規感染者数は1日50〜100人で、重症者数も90人台で推移していた。

 だが解除から1カ月もたたない3月下旬には、感染カーブは再び急上昇を始め、4月中旬には連日1000人を超える事態に陥った。3月下旬まで宣言が引き延ばされ、感染者数を押さえ込んだ東京や関東圏のリバウンドをはるかに上回った。

 朝野氏は2回目の宣言解除時の対応について、専門家会議の責任者として「変異株の感染力を過小評価していた」と反省する。しかし、実は専門家会議では解除前から感染再拡大を危ぶむ意見が多く、解除後のリバウンドに備えた対応もしていた。感染再拡大を示す“見張り番”となる短期的な指標を独自に導入したこともその一つだ。

 朝野氏が2月の段階で提案していた内容で、冬の第3波の分析を踏まえ、全世代で感染が拡大する前にまず動きが活発な若い世代での感染が広まっていたことに着目。指標は、20〜30代の感染者が一定水準を超えて増え続ければ警告を発する仕組みになっていた。

 だが警告を発しても、「サーキットブレーカー」のように強制措置を発動させる仕組みはなく、どう対処するかが決められていなかった。指標は3月20日には警告レベルに達した。大阪市では宣言解除後も、飲食店に引き続き時短営業要請をしていたものの、警告を受けて対策が即座に追加されることはなく、吉村知事も「宣言解除後に増えるのは当然」という注意喚起にとどめた。

 4月5日にようやくまん延防止措置が取られたが、タイミングが遅すぎた。指標による警告後の2週間で、感染状況は急激に悪化していた。

 朝野氏は「指標が有効だったことは事実で、他の自治体も活用できるものだ。警告が出た後の対応を構築できていなかった苦い経験を、今後の感染拡大抑止につなげていきたい」と話す。

 ▽まん延防止の独自運用は

 大阪府は第4波が襲う最中から重症病床増加に着手してきた。吉村知事も病院を行脚して増床を頼んで回り、最終的には350床を確保した。府はさらに500床までの拡大を目指す。

 重症化の抑制に顕著な効果があると大きな期待がかかるのがワクチンだ。第4波での重症者は、6〜7割が60歳代以上だった。高齢者への接種が完了すれば、病床数増と併せて医療崩壊を防ぐ強力な武器となる。一方で、感染拡大の先駆けとなる若年層への接種はめどが立っておらず、新規感染者数の抑制にどの程度つなげられるかは未知数。集団免疫の形成にもほど遠く、飲酒場面でのリスクが高いことに変わりはない。これからも適切な感染対策を行った安全な会食が必要だ。

 大阪府はアクリル板の設置や換気など感染対策を講じた飲食店に対する第三者による感染防止認証ゴールドステッカーを導入する。これに加え、朝野氏は、飲食店へ酒類の提供自粛を要請できるまん延防止措置を自治体が独自の権限で適用できるなど、警告に即応できる体制づくりが急務だと訴える。

 「夏休みの旅行や帰省など、人の集まる時期に流行の引き金が引かれることはほぼ確実。感染者数が増えた後の対策ではなく、この夏は空振りでもいいから、指標を生かし先制攻撃的に対策を立てて望むべきだ」と強調する。

 昨年から断続的に続く時短営業や外出自粛要請への慣れで、人出の抑制は難しくなっているが、「どうすれば拡大初期の若者の感染を防げるか。事態の深刻さを広く伝える方法など、若者自身に対策を話し合ってもらい、行政が取り込んでいくことも必要ではないか」と指摘した。