ホテルや旅館関係者の間で最近、不思議な合言葉がささやかれているという。

 「カロリーゼロのコーラを用意するよう求める客には注意が必要」

 会議場やホールを利用する企業や団体が、予約時に飲み物の用意を依頼する際、特定の銘柄のカロリーゼロコーラや缶コーヒーを「会長用に」と言うと、ホテルの担当者に緊張が走るというのだ。場合によっては、会議場の利用を断ることもあるという。

 理由を探ると「VISION」「WILL」という企業と、そのトップの存在に行き着く。VISIONは23日、広島県警の家宅捜索を受けた。ホテルの会議場を巡って、水面下で何が起きているのか。(共同通信=國枝奈々、斉藤友彦)

 ▽「利殖商法」

 VISIONは東京都新宿区を本店とし、販売預託商法を展開している。販売預託商法とは「企業が顧客に商品を販売する際『第三者にレンタルする』『運用して利益を出す』とうたい、その商品を企業に預けさせ、配当や後の買い取りを約束して定期的に配当金を渡す」という仕組み。過去には「利殖商法」の一種とも言われた。

 最終的に消費者の手元に商品は残らず、最初に支払った代金に利息が付いて戻ってくるので、まるで定期預金のようなイメージを抱きがちだが、はっきり言えば悪質商法だ。

 2011年に破綻した安愚楽牧場(被害額約4300億円)や17年破綻のジャパンライフ(同約1800億円)が展開したのも販売預託商法。大規模な消費者被害が続いたため、この商法を原則禁止とする法律(改正預託法)が今年6月に国会で成立した。

 VISIONは販売預託商法の中で「最後に残った大物」と呼ばれている。扱う商品は、安愚楽牧場が牛、ジャパンライフが磁気ネックレスなどだったのに対し、VISIONはUSBメモリーだ。

 ▽根本的な欠陥

 VISIONはこのメモリーを「ライセンスパック」と呼び、中に「IP電話機能やカラオケ、ゲームができるアプリが入っている」と説明。これを約60万円で購入すれば、メモリーを会社が預かり、海外でレンタルして利益を出し、月2万円の「レンタル料」を36回(計72万円)支払う。つまり、差額の12万円がもうかる―と宣伝し、会員を集めた。消費者庁によると、19年10月〜21年2月の1年5カ月だけで、少なくとも674億円も売り上げた。

 しかし、この仕組みには販売預託商法特有の根本的な欠陥がある。企業が会員に高い配当金(レンタル料)を支払い続けるためには、レンタル事業の利益がそれを上回らねば会社が続かない。ただ、そんな事業が実在するなら会員個人から金を集めず、金融機関から低利で融資を受ける方がずっと得だ。それなのに、わざわざ個人に高配当を約束して出資を募り続けるのは、金融機関がまともに取り合わない事業だからと考えられる。

 実際、消費者庁が経営状況を調査したところ、VISIONの前身で、同様の販売預託商法を展開していたWILLは15年10月〜19年6月、ライセンスパックを会員に販売した分が総売上高の約99%を占めた。海外でのレンタル事業は、配当を出せるほどの利益を全くと言っていいほど出していない。事業の存在すら疑わしいレベルだ。

 ▽やめられなくなる

 ではどうやって配当を支払い続けているのか。答えは簡単で、新たに勧誘した会員が支払った60万円を、そのまま古い会員への配当に充てる「自転車操業」を繰り返しているだけ、と消費者庁はみている。
 新規の入金を配当に回し続ける―。この通りであれば、会員への配当が膨らみ続けるため破綻は必至のはずだが、なぜ存続しているのか。それは新たな入金が途絶えないから。会員になってライセンスパックを購入する人がいるからだ。

 「販売預託商法には『魔力』がある」。この商法に携わった関係者がそう証言する。

 「誰でも最初はそれほど信用せず、知人の紹介などで勧誘されて仕方なく一口だけ加入してみる。すると2万円の配当が毎月きちんと入るため、信用し始める。契約を更新し、次は十口に増やすと毎月の配当は20万円。さらに更新して百口に増やすと、毎月200万円もの入金になる。一度味を占めるとやめられなくなる」

 会員を募り、出資を引き出す有力な手段がセミナーだ。有名ホテルや老舗旅館の会議場やホールで開く。立派な会場は信用されやすい。招待されるのは主に高齢者。講演するのは「会長」と呼ばれる実質的トップの大倉満氏で、商品や事業がいかに素晴らしいかを力説する。

 昨年9月に岡山市のホテルで開催されたセミナーでは、約100人の高齢者を前に「アプリストアを開設し、アプリ収入で年商5兆円を予測」「世界中のテレビ局と契約し、各局の番組が見られる電話やアプリを開発した」などと演説した。根拠は示さず、大風呂敷を広げただけのような内容だが、参加者が信用して契約してくれればそれでいいと考えているのだろう。

 ▽警告、何度も

 消費者庁はVISIONやWILLの危険性を、これまで何度も消費者に向けて警告してきた。

 2018年12月にはWILLに特定商取引法違反で15カ月の取引停止命令、大倉氏ら6人に15カ月の業務禁止命令を出した。翌19年7月にはWILLに最長となる2年の、関連会社7社に18カ月の、業務停止命令を出した。

 同11月には「WILLからVISIONに名前を変えて続けている可能性がある」としてVISIONに注意するよう呼び掛け、今年3月、VISIONなど2社に業務停止命令、大倉氏と幹部の赤崎達臣氏に2年の業務禁止命令を出した。

 それでも大倉氏らVISION側は、業務停止期間中も別会社を名乗るなどして勧誘活動を続けた。18年の行政処分に対しては不服審査請求もして抵抗した。(請求は退けられている)

 VISION側は、処分を無視して勧誘を続けるしかないとも言える。前述したように、販売預託商法には常に新規の金が必要で、入金が止まれば配当が滞り、遠からず破綻する。セミナーを開き、勧誘することがVISIONの生命線だ。

 厚生労働省はこうした状況を踏まえ、5月、全国の計約1万6千のホテルや旅館が加盟する全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会と全日本ホテル旅館協同組合に「事務連絡」を出した。

 ホテルや旅館に対し、VISIONへの注意喚起を促すもので、誤解を恐れずに要約すれば「会場を使わせるな」という内容だ。

 事務連絡では、VISIONの特徴を詳細に記載している。行政機関からにらまれるたびに別の会社名を名乗り、会場を予約する際も別会社や別のセミナーを装うことがあるため、既に判明した数十種類の名称を列挙した。もし新たな会社名を名乗ったとしても、宿泊者名簿で気付けるように、大倉氏や赤崎氏ら幹部の氏名も挙げている。冒頭のコーラや缶コーヒーも、大倉氏が好んで注文する飲料として記載されているようだ。

 ▽「仮想通貨」も

 VISIONは新しい動きを模索している。

 セミナーの会場としてホテルや旅館ではなく、公的な会議場を使用する例も見つかった。4月下旬には、山形市が所有するコンベンションホール「山形国際交流プラザ」内の会議室で「業務委託者勉強会」と題した集会を開いている。予約名は「AIカンパニー」。会場を運営する側は、彼らがVISIONとは気付かなかったという。

 VISIONはまた、会員への配当(レンタル料)の支払いを、現金から仮想通貨(暗号資産)「ヴィカシー」に切り替えると会員らに呼び掛け始めている。

 消費者庁によると、VISION関係者が最近、「ピクセル&プレス」という別会社を名乗って勧誘しており、ピクセル社と会員が結んだ契約書には、これまで現金振り込みだった配当を「日本円、仮想通貨(暗号資産)で受け取ることができます」と明記されている。

 山形市の集会でも、VISION関係者は「世界の情勢に合わせ、ヴィカシーコインという仮想通貨でレンタル料(配当)を支払う」と出席者に説明。出席者のスマートフォンに、ヴィカシーの取引に必要というパスワードを設定させ、口座番号を入手させていた。

 ただ、ヴィカシーは国内の交換業者では取り扱いがなく、VISIONも交換業の登録をしていないとみられる。今後も継続的に換金できるかどうかは不透明だ。

 家宅捜索を受けたVISIONが今後、どうなっていくのかは現時点では分からない。共同通信はこれまでに取材を申し入れているが、6月23日正午時点で応じていない。消費者庁は、破綻すれば巨額の消費者被害になる恐れがあるとみている。