新型コロナウイルスの流行を受け、遠隔医療の取り組みが急ピッチで進んでいる。感染のリスクを下げることができるほか、医師不足に悩む地域には専門医による高度な医療を受けることが可能となる。最先端手術ロボットや5G技術、人工知能(AI)を駆使した「ミライの病院」がやって来る日は近い。(共同通信=沢野林太郎)

 ▽手術ロボ

 コックピットに座り2本のコントローラーを握ると、アームに取り付けた手術器具が自分の指のように動きだした。国産初の手術支援ロボット「hinotori(ヒノトリ)」は、医療メーカー「メディカロイド」(神戸市)が神戸大と連携し、6年の歳月をかけて開発した。

 コントローラーと足元にある七つのペダルを動かすと、数メートル離れた実際の手術台で4本のアームが同時に動きだす。医師はゴーグルをのぞき込んで3D画像を見ながら執刀する。ロボット開発には、川崎重工が長年培ってきた自動車製造の産業用ロボット技術が生かされている。執刀医は通常の手術よりもメスや内視鏡をさまざまな方向に自由に動かせる。アームの可動域が広く、震えも制御され緻密な動きも可能だ。これまで前立腺がん手術をロボットで成功させた。

 5G技術を使えば、高精細の手術映像が遠く離れた場所でもリアルタイムで見ることができる。コックピットとロボットを高速回線で結べば、執刀医が現場に行かなくても手術ができる可能性がある。経験の浅い医師が手術をする場合、熟練の医師が遠隔で指導したり、難しい箇所は代わりに手術したりできるようになる。

 ロボット開発に携わった神戸大の藤沢正人学長は「一瞬でも通信が遅れたり途絶えたりすると、患者の命にかかわることが起き得る。乗り越えるべき課題は多いが、将来はあらゆる手術が遠隔でできる時代が来るかもしれない」と話している。

 ▽コロナ支援

 「69歳女性。呼吸困難で高濃度酸素を吸入。なんとか維持している状態です」。4月13日午前9時半、コロナ感染患者が入院している神戸市の病院から電話が入った。電話に出たのは米国にいる集中治療専門医だ。専門医は、患者の詳しい容体と治療方針を聞き取った上で「治療薬2種類のうち片方はリスクが生じることがあります。人工心肺装置ECMO(エクモ)の使用を視野に入れてください」と助言した。

 医療ベンチャー企業のT―ICU(神戸市)はコロナ治療の知識を持った専門医や集中治療専門医が24時間365日、医療機関を支援するサービスを始めた。国内外の医師約30人、看護師約20人が協力する。電話やインターネットでカルテやエックス線画像を共有し、テレビ会議システムでやりとりする。

 医師の感染リスクを減らすためICUにカメラを設置し、脈拍や呼吸のデータを外部から確認できるシステムも開発した。自宅療養の患者には血液中の酸素濃度を測る「パルスオキシメーター」を配布し、自動でデータを転送して異常があると医師と連絡が取れるサービスも始める。

 繊維メーカー「ミツフジ」(京都府精華町)は、着るだけで心電図や心拍数が分かるシャツを開発した。電気を通す特殊な糸を使用、シャツに縦3センチ、横6センチのセンサーを取り付け、リアルタイムで体の様子を測定する。データは専用アプリやメールで本人や離れて暮らす家族に送信できる。異常があれば警報を出し、転倒を判別する機能で倒れたことを家族らに知らせる。

 京都府はコロナ患者がホテルで療養する場合、患者の様子が分かるようにこのシャツを採用。容体が急変したときにすぐに対応できるようにした。

 パラマウントベッド(東京)は、ベッドの下にセンサーを付け、患者の呼吸数や心拍数、睡眠状態などをリアルタイムで測るスマートベッドシステムを販売している。

 センサーで呼吸時に体が動く微細な振動を計測し、呼吸の有無を判別する。データはベッド隣のモニターに表示され、本人も確認できるほか、病院のナースステーションに常時送信され、異常時に警報が鳴る。

 ▽アフリカ

 慶応大医学部の清水映輔医師はパソコン画面に映し出された目の拡大映像を指さした。「黄色く濁ってますね。白内障の恐れがあります」。映像は遠く離れたアフリカのコンゴ(旧ザイール)から送られてきた。

 眼科検診は通常、専門医が特殊な検査機器を使って行う。専門医がいなかったり、本格的な機器がなかったりする地域では難しかった。可能にしたのは、スマートフォンに簡単に装着できるレンズが付いた医療機器の存在だった。

 清水医師は眼科専門医であると同時に、慶応大発のベンチャー企業「ウイインク」(東京)代表の顔も持つ。同社が開発した機器は縦2・6センチ、横7・3センチで3Dプリンターを使って作成する。現地で映像を撮影し、離れた場所にいる医師らに専用アプリで送信し、診断してもらう仕組み。ベトナム、モンゴル、マラウイなどで実証実験をし、日本でも検査機器として登録された。

 清水医師は人工知能(AI)を活用し、白内障の重症度を判別できる機能も開発した。白内障は早期発見すれば失明しなくてすむ。世界を見渡せば眼科医がいない地域も多い。「2025年までに世界中で失明してしまう人を半分に減らしたい」と夢を語った。