ロシアのウクライナ侵攻により、来日したウクライナ避難民は1500人を超えた。日本政府は旅費や生活費を支給するなど、積極的に受け入れている。
 一方で、同じように母国にいられなくなったアフガニスタンやミャンマーの難民らには、政府はどう対応しているのか。ウクライナ避難民と比較してみた。
 その結果、浮き彫りになったのは支援の格差だ。扱いのあまりの違いに、疑問の声が上がっている。(共同通信編集委員=原真)

 ▽ウクライナへの手厚い支援

 日本政府は、来日を希望するウクライナ避難民に、前例のない便宜を図っている。4月、林芳正外相のポーランド訪問からの帰国時に、政府専用機に20人を同乗させた。その後も、民間旅客機の座席を確保してきた。
 日本に身元保証人がいなくても査証(ビザ)を発給し、就労や社会保険加入が可能な在留資格を与えている。入国時には一時滞在施設を用意。1日最大2400円の生活費を支給して、通訳機も配る。
 さらに、自治体や企業、NPOと連携して、住宅を提供し、日本語教育や就職先紹介にも取り組んでいる。
 岸田文雄首相は、ウクライナ避難民の特別扱いについて、国会でこう答弁して正当化した。「国際秩序の根幹を揺るがすロシアの侵略を踏まえた緊急措置で、それ以外の方々への対応と一概に比較できるものではない」

 ▽アフガンは民間による受け入れが多い

 2001年の米中枢同時テロの後、アフガニスタンでは米国の介入により、親米政権が樹立されていた。だが、駐留米軍が撤退しつつあった昨年8月、イスラム主義組織タリバンが首都カブールを制圧し、実権を握った。

 タリバンは旧政府軍兵士や公務員、外国とつながりのある市民らをしばしば迫害する。このため、日本に留学していた人や日本企業に勤めていた人らを招こうと、日本の大学や企業の関係者が奔走してきた。昨夏以降に来日したアフガン人約700人の半数程度が、こうした民間の受け入れだ。

 一方、日本政府は、在カブール日本大使館や国際協力機構(JICA)の現地職員と家族を日本に招き、給与を支払う異例の対応を取っている。ただし、それ以外の人に政府の支援はなく、来日することさえ難しい。
 30代のアフマドさん(仮名)も民間の支援で来日した一人。アフガンの中央省庁の幹部だった。
 「最初は海外に避難するつもりはなかった。でも、日に日に安全の状況やタリバンの態度が変わり、勤務し続けることはできないと判断した」
 家族6人で隣国のイランに脱出。修士号を取得した宮崎大に連絡を取った。指導教員に航空券代を立て替えてもらい、宮崎にたどり着いた。6月からは宮崎大の研究員として働いている。「先生方と大学が私たちの命を救ってくれた。本当に感謝している」
 宮崎大は、同大に留学経験のある6人と家族を1年間、受け入れることを決めた。研究員の月給20万円の半分は大学の予算、半分は指導教員が研究費などから捻出する。他にも来日を希望する元留学生がおり、インターネット募金に乗り出した。
 宮崎大の大沢健司教授は「生命の危険、生活がままならないという点では、アフガニスタンもウクライナも同じ。政府も動いてほしい」と訴えている。

 ▽在日ミャンマー人への緊急避難措置は進まず

 ミャンマーでは昨年2月、国軍がクーデターを起こした。反軍デモを暴力的に鎮圧し、民主派や少数民族への攻撃を続けている。人権団体によれば、死者は約2000人、逮捕者は1万5000人に達した。

 この非常事態に、日本政府は昨年5月、「緊急避難措置」を発表した。日本にとどまることを希望する在日ミャンマー人に在留を認め、就労も許可する。出入国在留管理庁によると、年末までに難民申請中のミャンマー人約2900人の6割に、この措置を適用した。
 しかし、緊急避難措置の手続きは遅れており、いまだに非正規滞在のままの人もいる。その一人、ミョーチョーチョーさん(36)は少数民族のロヒンギャだ。
 高校生の時から、アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の活動に参加していた。最大都市ヤンゴンの喫茶店で会議中、国軍の特殊部隊に連行される。仲間22人が一網打尽に。「誰の指示でやっているんだ」。取り調べでは全裸にされ、暴行を受けた。
 

 両親が賄賂を払い、釈放されたが、「自分がこの国にいては、家族が危ない目に遭う」と2006年に来日。難民申請したものの、不認定とされ、計2年以上、入管庁の収容施設に身柄を拘束された。この間、母国では、国軍とロヒンギャ武装勢力が衝突し、家族は隣国バングラデシュに逃れた。
 それでも、日本政府の緊急避難措置は適用されていない。「助けを求めているのに、入管からは『帰国しろ』と言われる。どこに帰ればいいんですか」。3回目の難民申請中のミョーチョーチョーさんは、独学で身に付けた日本語で話す。
 「日本は人手不足だから、日本にいたいと言う外国人に、働いて税金を納めてもらえばいいのに。何でウクライナは受け入れて、ミャンマーは差別するんですか」
 ミャンマー難民を支援する渡辺彰悟弁護士も「1年以上たっているのに、この状態では『緊急避難』とは言えない。難民申請者は直ちに認定するべきだ」と強調している。

 **▽「難民」と「避難民」の違い
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 ところで、ウクライナから逃れた人は「避難民」、アフガンやミャンマーから逃げてきた人は「難民」などと呼ばれる。この違いは何か。
 一般に、戦争や災害などにより、故郷を離れた人は難民といわれる。
 これに対し、日本も加入している難民条約の定義は狭い。難民条約によると、難民とは(1)人種(2)宗教(3)国籍(4)特定の社会的集団の構成員であること(5)政治的意見―を理由に、迫害を受ける恐れから、国外に出た人を指す。
 ロシアの侵攻でウクライナから逃れた人は、この条約上の難民に該当しない可能性がある。そのため日本政府は「避難民」と呼んでいる。
 難民条約は、日本を含む加入国に、難民の保護を義務付けている。日本政府の従来の難民支援策は、主に二つだ。まず、難民申請中の人には、1日1600円の生活費や月4万円(単身者)の住居費を支給する。次に、難民認定後は、安定した在留資格を与え、半年間の日本語教育などを行う。
 だが、申請中の1600円は生活保護費を下回る水準だ。認定後の日本語教育も、わずか半年では言葉を習得するのは難しい。いずれも十分とは言えない。
 そもそも、日本は「難民鎖国」と批判されてきた。日本の難民認定数や認定率は、欧米諸国に比べ桁違いに低い。各国が毎年、万人単位で難民と認定し、認定率も数十%に上るのに対し、日本の昨年の難民認定数は74人、認定率は0・7%にとどまる。
 条約で保護を義務付けられた難民の支援さえ、不十分な日本政府。欧米諸国との協調や、ロシアへのけん制といった政治的・外交的理由で、ウクライナ避難民だけを優遇するのは、条約の趣旨に反していると言わざるを得ない。

 **▽入管難民法改正案の再提出は「火事場泥棒」
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 政府はウクライナ避難民のような人を、条約上の難民に準じて保護する「補完的保護」制度の導入を検討している。昨年、国会に提出した入管難民法改正案にも、この補完的保護を盛り込んでいた。
 しかし、改正法案の条文によれば、ウクライナ避難民が補完的保護の対象になるとは限らない。補完的保護の要件として、条約上の難民と同じく、「迫害を受ける恐れ」が規定されていたからだ。
 これまで入管庁は「迫害を受ける恐れ」を極めて限定的に解釈し、母国政府が個人を特定して迫害しようとしているような場合でなければ、該当しないと判断してきた。その結果として、難民申請者の99%以上が不認定となっており、補完的保護も機能するとは考えにくい。
 昨年の入管難民法改正案には、他にも強い批判を招いた条文がある。難民申請を3回以上繰り返した場合、強制送還できるようにする規定だ。
 入管庁は「難民申請を重ねるのは、日本に滞在し続けるための制度の乱用」とみている。とはいえ、帰国すれば命に関わる難民は、不認定とされても、申請を繰り返さざるを得ない。そのことを理由に、入管から在留資格を剥奪され、収容される例も少なくない。
 改正法案は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から厳しく指弾された。ソーシャルメディアを通じて市民の反発も強まり、結局、廃案に追い込まれた。
 政府はウクライナ避難民に同情的な世論を踏まえ、入管難民法改正案の再提出をうかがっている。難民を支援する専門家は「ウクライナ侵攻に乗じて法案を通そうとするのは、火事場泥棒だ」と反発する。
 

 ウクライナやアフガニスタン、シリアの難民らを支援している一般財団法人パスウェイズ・ジャパンの折居徳正代表理事は「難民は『かわいそうな人』『やっかいな人』というイメージがあるかもしれないが、例えばアフガンから来日している多くは、英語ができるエリートで、日本企業の戦力になる人々だ」と指摘する。「『ウクライナの人と同様に対応する』と首相が言ってくれれば、状況はがらりと変わるはずだ。その決断をお願いしたい」