7月の参院選東京選挙区では、小池百合子都知事(70)が支援した元都議で側近の荒木千陽氏(40)が落選した。小池氏の知名度を頼りに当選を目指した陣営の目算は大きく外れ、当選圏の6位から約28万票離される大敗。他党はこれまで、「小池マジック」と称される選挙戦術に苦汁をなめてきただけに、この結果に安堵。小池氏の今後の求心力低下を指摘する声も上がっている。“風”はなぜ吹かなかったのか。舞台裏を振り返った。(共同通信=小島孝之)

 ▽「小池と荒木」の特別な関係

 投票日から一夜明けた7月11日昼。都庁で報道陣の取材に応じた小池氏は、敗因をこう分析した。「私を認識してくれる方はたくさんおり、最終日は非常に盛り上がりがあった。一方で『小池と荒木』という関係があまり認識されていなかった」
 荒木氏は、小池氏が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」代表として小池都政を支えてきた。本人によると、熊本から上京後、履歴書1枚を持って国会の事務所を突撃訪問し、衆院議員だった小池氏の秘書に採用されたという。同居していた時期もあり、小池氏が「家族」や「長年の相棒」と表現するように、周囲は「特別な関係で結ばれている」と語る。
 国政に後ろ盾がない荒木氏にとって、当選の鍵は小池氏の集票力だった。陣営はさらに、推薦を受ける国民民主党と連合東京の組織票や、都民ファースト所属議員が持つ個人票を加えることで、当選ラインを超えるとの青写真を描いていた。

 ▽「このままでは党の存続が危ぶまれる」

 ところで荒木氏はなぜ今回、出馬したのか。小池氏は2017年の衆院選で希望の党を結成し、政権奪取に挑んだ。国政復帰のうわさは絶えず付きまとってきたものの、小池氏自身は都民ファーストの国政進出を主導したわけではない。
 一方、都民ファースト内では、昨年の都議選で第2会派に転落した後、国政進出を目指す動きが高まった。国政にパイプを作り、新型コロナウイルス対策や子育て政策など、都政を前進させることを表向きの理由とした一方で、こんな危機感があったためだ。「このまま都政にとどまれば、党の存続が危ぶまれる」
 都民ファーストは昨年10月に「ファーストの会」を立ち上げ、国政進出に向けて本格稼働。しかし、同年10月の衆院選への候補擁立は準備が間に合わず、断念した。その後、年明けから始まった国民民主との協議では、参院選に向け合流を視野に入れていたが、党名で折り合わなかったり、一部から慎重論が出たりしため頓挫した。
 関係者によると、この頃、参院選への候補擁立に向けた都民ファーストの会議では、所属議員から「知事の動向が見えない」という不安視する声が上がっていた。これに対し、荒木氏は「知事がどう出てくるか分からないが、都民ファーストを思う心は母親以上だ。選挙では魔法をかけてくれる」となだめる場面もあったという。
 結局、小池氏の応援を一番得やすい候補ということもあり、党トップである荒木氏の出馬が決定。国民民主の推薦を受ける一方で、ファーストの会が国民民主の比例代表候補を推薦する形で落ち着いた。

 ▽自民会派の政治パーティーに招待された小池氏

 小池氏は2016年に自民党と決別して知事に就任後、時に政権と対峙する姿勢を示し、有権者の関心を引きつけてきた。
 だが最近は都政、国政ともに自民と歩調を合わせる場面が目立つ。18日間の選挙期間中、荒木氏の応援には平日の公務後や週末を使って13日間駆け付けたものの、街頭演説で訴えたのは都政の実績や荒木氏の人柄のアピールが中心。政権批判は影を潜めた。
 周囲は、政権与党であり、都議会第1会派でもある自民への配慮があったとみる。あからさまに対立すれば都政運営が停滞する。荒木陣営の関係者は「1400万都民のために都政を進めたい思いが強かったのだろう」と語った。
 一方、都政運営の主導権を握りたい自民は、小池氏や荒木氏への批判を抑えつつも、出方をけん制してきた。昨年の都議選では最終盤に小池氏が都民ファーストの応援に入ったことで、予想外の苦戦を強いられている。今回も警戒感は強かった。

 自民は5月には、都議会会派の政治資金パーティーに小池氏を招待した。知事就任後初めてのことだ。
 小池氏があいさつする際、壇上に待機させた自民の参院選候補2人とグータッチする機会も演出。一方、小池氏はあいさつの中で「6議席あるので、私の家族の荒木も出ますので、どうぞ覚えて思い出していただきたい」とやり返し、両者の微妙な距離感が顕著に現れる一幕もあった。
 自民都連関係者は、その場面を「『荒木を応援したい』という本音が見えた」と振り返りつつ、選挙戦を通しての小池氏の言動については笑みを浮かべてこう解説した。「『自民への配慮』というよりは、自民を批判したくてもできなかったんだよ」

 ▽苦戦、いらだつ小池氏

 公示前、ある都民ファーストの都議は「知事が街頭に出れば、聴衆があふれる」との見立てを語っていた。しかし実際は思うように人が集まらず、演説を聴く人びとの熱気もいまひとつだった。「通行人が立ち止まってくれない。これまでと違う」。陣営関係者は首をひねった。

 投票日を5日後に控えた夜、新宿区内で選対会議が開かれた。苦戦が伝わる中、小池氏はいらだちを口にしている。「(選挙戦略が)徹底できていないんじゃないですか」

 小池氏は環境相時代の「クールビズ」など、政策や事象になじみやすい標語や愛称を付けて世間の注目を集めてきた。今回の選挙戦でも、荒木氏を物まねタレントの「りんごちゃん」に似ていると語ったり、ギリシャ神話の勇猛な女性部族「アマゾネス」に例えたりしたが、陣営が積極的に周知に動かないことに不満を募らせていたという。 しかし、この時点では既に、劣勢を挽回する時間は陣営には残されていなかった。
 荒木氏の得票は28万4629票で10位に終わった。同じ「第三極」的な立場を取り、ライバル視していた日本維新の会の候補に24万票以上離された上、無所属で出馬し、組織がほとんどなかった作家乙武洋匡氏にも敗れた。荒木氏を推薦した国民民主が東京で獲得した比例票、約41万票にも遠く及ばなかった。
 落選が決まった荒木氏は11日未明、選挙事務所で「議席に遠く及ばず、おわび申し上げます」と憔悴した様子で語った。
 想定以上の伸び悩みに、ある都民ファースト都議は「都議選は知事についていけば票が出たが、国政の座標軸は自民。立ち位置がどう違うのかを有権者に説明できなかった」と語る。別の都議は「軸は知事にしか作れないが、都民ファーストは知事の党だから、どう動くかは彼女に委ねるしかない」と吐露。連合関係者は「陣営には『作戦小池』しかなかった」と嘆息した。

 ▽「本気で戦って傷ついたわけではない」

 荒木氏は7月下旬、都民ファースト代表を辞任する意向を所属議員に表明した。党内では選挙後、敗北したのは荒木氏であり、小池氏自身の求心力に影響はないとの声が広まる。

 都民ファーストのある都議は「当然小池氏にダメージはある。ただ、本気で戦って傷ついたわけではない」と語り、「また世論を盛り上げ、政局を作る場面は必ず来る」と期待する。
 ただ、他党の見方は異なる。ある政党の都連幹部は、来春の統一地方選への影響を見越して「『小池氏で選挙を戦えない』となれば、都民ファーストは候補者が集まらない。議員を増やせなければ、求心力はさらに先細りしていく」とみている。
 知事2期目の任期は2024年夏まで。今回の敗北が、今後の都政運営や小池氏の去就にどう影響するのか、先行きは見通せない。