2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博を巡り、経済界から会場整備費を再び上げる「再上振れ」を示唆する声が上がり始めた。ウクライナ危機による資材の供給不安などで建設コストが高騰し、入札不調が相次いでいるためだ。
 整備費は国と大阪府・大阪市、経済界の3者が3分の1ずつ負担する仕組みで、当初は総額1250億円と見込まれていたが、2020年12月に1・5倍の約1850億円へと引き上げられた経緯がある。一部は税金で賄われるため、2度目の引き上げとなれば世論の反発は避けられない。
 これ以上の費用増大を防ぎたい国や大阪府・市は今のところ静観しているが、為替相場の急激な変動が不安をあおる。現状維持か、再度の上振れか。開幕まで900日を切り、準備作業が本格化する中、波紋が広がっている。(共同通信取材班)

 ▽「こんな金額でやれるか」
 口火を切ったのは、関西経済連合会の松本正義会長だった。11月7日の定例記者会見でこうぶち上げた。「原料が上がる、賃金は上がる、日はどんどん迫る。1850億円はウクライナの戦争の前に決まった数字。こんな金額でやれるか、と建設会社の人は思っている」
 松本会長の発言は、共同通信が5日に報じた万博会場施設4件の入札不調を受けてのものだった。折しも、万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)が建設資材のさらなる高騰を懸念し、関係機関に早期の建設準備を求めていた時期。機運の高まりに水を差す「悲報」に対し、関西経済界のトップとして建設業界の不満を代弁した形だ。

 

 ▽上振れは過去にも…批判招いた「大屋根」
 会場整備費の引き上げが取り沙汰されるのは、今回が2度目になる。1度目は万博協会が基本計画を発表した2020年12月だった。誘致段階では1250億円としていたが、会場デザインを具体化する中で費用が膨らみ、建築単価の上昇も反映した結果、約600億円上振れすることが判明。基本計画公表の2週間前に井上信治万博相(当時)から試算を伝達された吉村洋文府知事は「何度も増加するのは府民、市民からはどうなの、となる。最後にしてほしい」と不満をあらわにした。
 特に物議を醸したのが、目玉とされる「大屋根」だ。会場となる大阪湾の人工島・夢洲から海上にせり出す形で建設され、完成すれば「世界最大級の木造建造物」になると万博協会側は胸を張る。だが工法が難しい上、増加分600億円のうち3割近い170億円がこの大屋根に充当されることが明らかになると、府議会などで「本当に必要なのか」と疑問視する声が続出。批判の高まりを受けて、大阪府と大阪市は後日、万博協会に対し「これ以上増額しないように」と文書でくぎを刺した。

 ▽関係者が読み解く「二つの狙い」
 会場整備費の上振れは、全体の3分の1を負担する経済界にとっても大きな重荷だ。経済界の負担分は各企業や個人からの「寄付金」という名目で募っているが、今年3月末時点で集まったのは376億円。現時点で目標とする約600億円には達しておらず、「再上振れ」への言及はさらなる負担増を招くリスクをはらんでいる。
 松本会長はなぜ、そのリスクをとってまで口を出したのか。関係者らの見立てによると「二つの狙い」がありそうだ。
 一つは、関経連と比べ、寄付金集めへの協力姿勢が弱い経団連への「あてつけ」だ。松本会長はこれまでも「万博は国家イベント」だと強調し「東京には寄付金を出してないところがたくさんある。東京の経済界がもっと出すべきだ」とはっきり主張してきた。大阪府・市の幹部は、今回の発言も資金集めに本腰を入れて取り組むよう、経団連に催促するのが狙いだとみる。
 もう一つは、万博協会に対する「情報開示請求」だ。松本会長は7月の定例会見でも、整備費を見積もる万博協会に対し、再度の上振れがある場合は「早めに情報をオープンにしてもらわないといけない」と注文を付けていた。財界関係者は「どこにいくらかかるのか、いまだによく分からない。あの発言は内容を詳しく明らかにしてほしいという趣旨だったのでは」と推測する。

 ▽高騰する資材、建設費は「必ず上がる」
 松本会長の「意図」がどこにあるにせよ、建設コストが高騰しているのは紛れもない事実だ。一般財団法人「経済調査会」(東京都)によると、大阪市内の工事で使われた建設資材の価格は2年前と比べ3割増しになった。さらに一般財団法人「建設物価調査会」(Web建設物価)によると、ビルの柱やはりに使われる代表的な資材「H形鋼」(1トン当たり)に限った場合、大阪地区での価格は6割上昇している。
 新型コロナウイルス禍が一服し、経済活動が再開したことによる需要急増。ロシアのウクライナ侵攻による木材供給などの不安定化。円安による輸入コストの増大。いくつもの要素が絡み合い、建設資材の値上がりは終わりが見えない。
 今年9月には、大阪府・市や関西の経済団体が共同出展する「大阪パビリオン」を巡っても、整備費の膨張が話題になった。当初の想定額は約73億円だったが、受注に名乗りを上げたゼネコン大手の竹中工務店は2・6倍に当たる約195億円を提示。その金額が大きく影響して審査段階では300満点中、マイナス153・57点と厳しい評価だったにもかかわらず、別の1社が辞退したため施工予定者として残った。大阪府・市は竹中工務店と交渉し、115億円まで減額したものの、当初予算ではコスト上昇分を賄えず、いずれも補正予算の編成を余儀なくされた。その後さらに素材変更や面積縮小でぎりぎり2桁の約99億円まで減らしたが、吉村洋文知事は今後の上振れについても「物価高が進んでおり可能性としてはあり得る」と否定しなかった。
 会場整備費の上振れを懸念する声は、他の企業からも上がる。11月10日には、万博の協賛企業である大和ハウス工業の芳井敬一社長が会見で「(事業計画の)中身を見てみないと1850億円が正しいか判断できない」としつつ、「僕たちも購入している(原材料)価格が上がっているので、作られたときの設計、積算によっては(建設費は)必ず上がる。下がることはないと思う」と述べた。 

▽行政は「全力で1850億に収める」
 懸念を募らせる建設業界とは対照的に、国や自治体は従来の予算内で収める姿勢を崩していない。松本会長の発言翌日、岡田直樹万博相は記者会見で「1850億円に収まるよう全力を尽くす」「工法や資材調達を幅広く検討し、費用低減に努めたい」と改めて強調した。松井市長も「経済界がある程度リスクを頭の中に入れているのはありがたいけど、青天井で上がるというのはあってはならんこと。徹底的に1850億のラインを守りながらやっていきたい」と強気を押し通した。
 開幕まで残り2年となる来春には、参加する世界各国の一部に会場の割り当て区画が引き渡され、パビリオンの建設工事がスタートする。万博の整備工事に携わっている建設企業の関係者は、地元企業として赤字となってもわずかなら容認できるという姿勢を示しつつも「資材価格の高騰に加え、業界の人手不足から人件費の増加も負担増につながっている。工法や設計の変更だけではとても1850億円の予算内には抑えられない」と厳しい現場の状況を訴えた。