菅義偉首相の苦境が続いている。この1カ月余りの間にも、政権を揺るがす問題が続発。新型コロナウイルス緊急事態宣言の全面解除が近づいてきたものの、コロナの完全収束とワクチンの円滑供給は見通せず、東京五輪の開催もどうなるのか予断を許さない。今後も多くのハードルが待ち受ける中、首相に政権を安定軌道に乗せるすべはあるのだろうか。

 ▽「コロナ・五輪・4月選挙」

 短期間にこれほど頻繁に不祥事に見舞われる政権は珍しい。自民、公明両党幹部らによる銀座クラブ会食問題、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言と後任を巡るドタバタ、菅首相長男らによる総務省幹部の接待問題がそれだ。

 3月1日には、重用した山田真貴子内閣広報官が辞職に追い込まれた。

 菅政権は発足以来、日本学術会議会員の任命拒否問題や、「桜を見る会」問題を巡る刑事処分、後手に回ったコロナ対応などで批判を集め、内閣支持率が急落。吉川貴盛前農相の収賄事件や、河井克行前法相夫妻による買収事件もあり、さらなるダメージを受けた。

 緊急事態宣言の段階的解除に加え、3月2日の衆院通過で2021年度予算の年度内成立が確実になるなど、成果も出てきたとはいえ、菅首相が綱渡りの政権運営を強いられている状況は変わらない。この先、コロナ収束と五輪開催決定、議員辞職などに伴う4月の国会議員補欠選挙・再選挙に、政権の命運が懸かっているのは間違いないだろう。

  ▽ワクチン供給力アップに活路

 まずはコロナだ。首都圏の1日当たり感染者数は微増の傾向がでてきた。緊急事態宣言を期限の3月7日に全面解除できるのか不透明だが、焦点は解除後、感染拡大の「第4波」をいかに防ぐのかに尽きる。政府は改正特別措置法に基づく飲食店への「時短命令」なども検討しているが、最大の切り札がコロナワクチンの円滑供給にあるのは論をまたない。

 しかし、2月17日に医療従事者への先行接種が始まった米ファイザー製ワクチンは、世界で争奪戦となっている。政府は、65歳以上の高齢者3600万人への接種を4月から3カ月で終える計画だが、早くもスケジュールの繰り下げを余儀なくされた。

 計算上、1人2回接種で80万回分を90日間続けて確保する必要があるのに、当面は週に1便程度しかワクチンが空輸されず、必要量が全く足りないからだ。

 河野太郎担当相は2月26日、6月末までに各自治体に全高齢者分の配送ができるよう、ファイザーと大筋合意したと発表した。だが、具体的な日程や数量は未公表のため、「本当に供給されるのか」(立憲民主党幹部)との疑念が残る。

 2月5日に承認申請された英アストラゼネカ製ワクチンは、4月にも特例承認されれば、兵庫県の製薬会社で原液が委託製造され、「国産ワクチン」として供給される見通しだ。ただ臨床試験でのデータ不足から、65歳以上への接種を見送る国が相次ぐ。

 政府が契約を結ぶもう一つの米モデルナ製ワクチンは、1月に国内治験を始めたばかりで、承認は早くて5月だ。

 結局、ファイザー製が頼りなのだが、なかなか代替が利かないだけに、供給が滞れば接種は一層遅れ、国民の政権批判が強まることになりかねない。

 一方で、アストラ製が承認されれば、65歳未満への一般接種が開始できる。モデルナ製も加われば、五輪を前に接種スケジュールの加速が可能だ。菅首相が活路を見いだそうと、ワクチンの供給能力アップに全力を注ぐのは間違いない。

 ▽このまま五輪に突き進む?

 東京五輪・パラリンピック開催はどうなるか。世界の1日当たり感染者数は1月のピーク時に比べて大幅に減少し、ワクチン接種も進んでいるとはいえ、五輪実施への反対論や懐疑論は国内外でなお強い。組織委員会を巡る混乱で国民の信頼も低下した。

 だが、国際オリンピック委員会(IOC)は開催方針を堅持している。

 3月10日からの総会では準備状況が報告される予定で、中止や延期が議題になる雰囲気はない。今後は海外観客の受け入れの是非などが議論される見通しで、あくまでも開催が前提だ。

 五輪に強い影響力を持つ米国や、次期開催国のフランスを含む先進7カ国(G7)の首脳は2月19日の電話会議で、開催を目指す日本の決意への支持を打ち出した。

 こうした状況から菅政権は、五輪開催は既に支持されているとして、可否の「最終判断」を仰ぐこともなく、このまま開催に向けて突き進もうとしているのではないか。3月25日には聖火リレーを予定通りスタートさせる構えだ。

 だが、コロナを抑えたという明確なファクトがなければ、国内外の理解は得られず、土壇場で中止となる最悪の展開にならないとも限らない。五輪開催も、コロナの感染抑止とワクチンの円滑供給、さらには国民からの十分な支持と協力が得られるかどうかに懸かっている。

  ▽4月の国政補選、7月には東京都議選

 政権の命運を占う三つ目の要素は4月選挙だ。吉川前農相の議員辞職に伴う衆院北海道2区、立憲民主党の羽田雄一郎氏死去を受けた参院長野選挙区の2補欠選挙と、河井案里元参院議員の失職による参院広島選挙区の再選挙で、25日に投開票される。

 自民党は、候補を立てない北海道は不戦敗で、長野は苦戦が必至だが、広島は「野党が強くなく、総力戦なら勝てる」(選対関係者)ともくろむ。候補一本化を模索する野党をよそに、自民党は元経済産業省課長補佐を公認し、2月末には選対本部も立ち上げた。ただ買収事件への有権者の批判は根強く、前回参院選と次期衆院選での候補擁立を巡る党本部と県連とのあつれきは残ったままだ。

 野党は統一候補の擁立を模索しており、そうなれば、自民党は広島も取りこぼす可能性がある。3戦全敗となれば政権運営において、首相が被るダメージは計り知れない。

 日経平均株価は30年半ぶりに3万円を超えるなど、菅首相に追い風も吹く。不安視された国会答弁も、コツをつかみつつある。政策面では「脱炭素」と「デジタル化」の旗を振り、反転攻勢の青写真も描く。とはいえ「今が最大の正念場」との覚悟と決意を持って、全力かつ謙虚な気持ちで政権運営に当たらなければ、ここを乗り越えることはできないだろう。 

 ただ乗り越えたとしても、7月には東京都議選という大きな政局のヤマ場が待ち受ける。立ちはだかるのは、官房長官時代も含め、何かと首相とぶつかり、衆院選へ野心も秘めるとされる小池百合子都知事だ。苦難の道は続く。