菅義偉首相が訪米し、16日に初の日米首脳会談に臨む。注目されるのはウイグル・台湾問題への対応だ。中国への強硬姿勢を強める米国は、日本に連携強化を求めている。日本はどこまで米国と足並みをそろえることができるのか。首相の覚悟とバランス感覚が問われる訪米となる。(共同通信記者=内田恭司)

 ▽「最初に日本を選んでくれた」

 バイデン米政権は発足して100日もたたないうちに、対中圧力を一気に強めた。トランプ前政権からの経済安全保障分野は言うに及ばず、香港問題やウイグル問題では、民主主義や人権の弾圧だと非難。台湾防衛の姿勢も鮮明にするなど、中国が「絶対不可侵」の領域と位置付ける「核心的利益」の部分に次々と踏み込んだ。

 さらに英国、オーストラリア、カナダなどを巻き込んで対中包囲網を着実に形成。その中核をなす一国として、インド太平洋構想や、オーストラリア、インドとの4カ国連携(QUAD)をともに主導する日本を選んだ。バイデン大統領が最初に会う海外の首脳として菅首相をホワイトハウスに招くのは、日本を重視する姿勢の現れと言っていい。

 首相自身も、4月6日のBS番組で「世界の首脳の中で、バイデン大統領が対面で最初に日本の首相を選んでくれたのは、やはり、この日本という国を非常に重視している、その表れだと思っています」と、珍しくにこやかな表情で自賛した。

 そうした米国が日本に求めるものは何なのか。取り上げたいのは、先に挙げた①経済安保②人権・民主主義③台湾問題―の3分野だ。

 ▽電子立国再興のチャンス? 

 経済安保分野でバイデン政権が進めるのは、最先端テクノロジー領域からの中国の排除だ。「最も重要な戦略物資」(日米関係筋)である最先端半導体の対中禁輸強化と、半導体供給網の再構築がその核心となるが、ここに日本も組み込もうとしている。

 日本政府が、線幅2ナノメートルという超微細半導体を開発する官民プロジェクトを立ち上げるとともに、世界最強の半導体メーカーと目される、台湾積体電路製造(TSMC)のR&D拠点を茨城県つくば市に誘致したのはその一環だ。

 キオクシアや東芝の買収事案も、日米英の国境を超えた先端企業の結集と捉えられるかもしれない。

 いずれにしても、米国との連携強化は、「電子立国」の地位を失って久しい日本にとって再興のチャンスでもあり、メリットはそれなりに大きいだろう。

 ▽人権・民主主義で日本は弱腰

 これに対して、難しい対応を迫られるのは人権・民主主義の分野だ。米国は中国によるウイグル族弾圧について、民族大量虐殺を意味する「ジェノサイド」と断じて、国際世論を強く喚起。日本を除くG7諸国とともに経済制裁に踏み切った。

 日本はこれまで中国に懸念を伝えてきたが、制裁にまで踏み込んでいない。米国は来年の北京冬季五輪ボイコットも視野に、国連人権高等弁務官の調査団受け入れを迫るなど、国際圧力を強めていく構えで、日本に連携を求めるのは確実だ。国会での対中非難決議や、在日ウイグル人への支援にも期待するだろう。

 だが、中国の強い反発は必至だ。東京五輪を成功させたい日本は、中国の協力を得る必要があり、北京五輪ボイコットの選択肢はない。日米首脳会談では、共同文書でウイグル弾圧への「深刻な懸念」を表明するものの、当面は調査団の受け入れを含め、中国に具体的行動と透明性の確保を求める立場に徹するのではないか。

 ▽「台湾有事の次は尖閣」

 さらに難しいのが台湾問題への対応だ。米国は、中国による台湾への軍事侵攻が「予想より近い」として、「台湾有事」に備える必要性を強く訴えている。

 米国が同盟国の日本に求めるのは、有事の際の後方支援にとどまらないとみるべきだ。米艦船の防護も求めてくるだろう。有事法制の枠組みの中で、日本の存立が脅かされる「存立危機事態」に基づく対応となるが、これは、限定的な集団的自衛権の行使であり、中国との交戦を意味する。

 菅首相は存立危機事態について「仮定のことへの回答は控えたい」と明言を避けているが、有事を前提とした、東シナ海域での日米合同訓練が繰り返されているというのは、外交や安全保障の専門家たちの常識だ。

 米国が検討しているとされる、日本への中距離ミサイル配備も焦点の一つだ。在日米軍基地の防衛と、日本の抑止力強化が目的だが、国内で反対論が強まった場合にどう対応すべきか。

 ここで米国が日本に突き付けているのは、台湾有事が現実味を帯びれば、次は「尖閣有事」だということだ。

 政府としては、いったん下火になった敵基地攻撃能力の保有の議論を本格化させ、独自の長射程ミサイルを整備していく中で、補完的に米国の中距離ミサイルを配備する方向で議論を進めていくのではないか。

 ▽「民主主義と専制主義の闘い」

 米国の中国への強硬姿勢の根底にあるのは、中国は「国家資本主義の専制国家」(日米関係筋)との認識だ。バイデン大統領は3月26日の記者会見で、中国を「専制主義」と言い切り、「民主主義陣営と中国との闘い」という構図を明確にした。

 ただ、米国は中国との対話は維持しており、着地点を推し量れないところもある。東西冷戦時代のように、「習近平体制の打倒」や「中国の体制転換」までを目指してはいないだろうし、現実的でもない。だが、米国が世界最強の国家であることを守るために闘う覚悟なのは間違いない。

 一方、日本にとって中国は「一衣帯水」の隣国で、経済的な結びつきも強い。過去の歴史や対立を乗り越え、関係改善を進めている途中でもある。4月5日の外相電話会談では、来年の日中国交正常化50年に向け、対話や交流を進めていく方針を確認した。棚上げになってはいるが、習近平国家主席の来日は白紙化していない。

 それでもバイデン大統領は、日本を中国包囲網の要と見込み、菅首相との直接の首脳会談に臨む。首相も相応の覚悟を持って米国の地を踏まなければならない。大事なのは、同盟国として連携強化を図りつつ、対中国での独自外交の選択肢を残すバランス感覚だ。

 とはいえ、日本が望む、新型コロナワクチンの優先供給や、東京五輪開会式への大統領出席、米国選手団派遣の約束を取り付けられれば、見返りとしては十分に大きい。首相は米国の顔を立てることは可能と割り切り、初の日米首脳会談に向け、心勇んでいるのかもしれない。

(終わり)

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