通常国会は16日に閉会し、今後の政治日程が固まった。菅義偉首相は、後手に回った新型コロナウイルス対応への批判をかわしながら、このまま東京五輪開催と秋の衆院解散・総選挙に突き進む構えだ。だが、五輪を「安心・安全」に行えるかは見通せず、かじ取り次第で政権基盤は揺らぐ。目指す第2次政権へ、これから3カ月が本当の正念場となる。(共同通信=内田恭司)

 ▽2500万回超で世界15位

 「突然の不信任案だったが、みなさんの協力で否決することができた」。15日の衆院本会議で、立憲民主党など野党4党が提出した内閣不信任決議案は、与党などの反対多数で否決された。自民党の二階俊博幹事長は「不信任案が出たら解散を進言する」と野党をけん制していたが、最後は否決への謝意を述べ、国会は会期末の16日で閉じた。

 菅首相は通常国会を通じ、コロナ対応やワクチン接種の遅れで厳しい批判を浴び続けた。しかし、政権は大きく揺らぐことはなく、150日間の会期を乗り切った。当初は政権を維持できるのか不安視された首相が、曲がりなりにも会期末までたどり着いたのは、ワクチン接種開始と、首相を取り巻く政治情勢の潮目の変化が要因だろう。

 まずはコロナ対応だ。1日当たりの感染者数は十分に下がりきらず、6月20日に期限を迎える東京、大阪など10都道府県での緊急事態宣言の解除には、慎重論がなお強いが、ワクチン接種のペースがここにきて上がってきたのは間違いない。

 累計の接種回数は、5月初めには全国で400万回に満たなかったが、米ファイザー製ワクチンの輸入が本格化すると一気にペースアップ。6月15日現在で2500万回超と、英大学のデータ集計サイトでは、世界15位にまで順位が上昇した。

 少なくとも1回接種した人の割合は14%とまだ低いものの、優先接種対象である3600万人もの65歳以上の高齢者に限れば、37%近くにまでなった。職場や大学での接種が軌道に乗れば、首相の言う「月末までに累計4000万回」に達する勢いだ。

 政府関係者は「重症化リスクが高い高齢者の接種がさらに進めば、医療の逼迫(ひっぱく)も抑えられる。10月には集団免疫状態に持っていきたい」と意気込む。

 ▽米国と安倍氏になお信頼関係

 政治情勢で言えば、「3A」の後ろ盾を得たことが政権の安定感につながったようだ。3Aとは、安倍晋三前首相と麻生太郎副総理兼財務相、甘利明自民党税調会長の姓の頭文字を取ったものだ。3人は第2次安倍政権を発足させた盟友同士で、ここにきてそろって菅首相の続投支持を打ち出した。

 5月以降、自民党有志が立ち上げた「半導体戦略推進議員連盟」は甘利氏が会長、安倍・麻生氏は最高顧問に就任。超党派の「日豪友好議連」でも3人はそろって最高顧問や顧問に就いた。昨年9月の菅政権誕生の道筋を付けた功績で幹事長のイスに座り続ける二階氏を交代させることが、3Aの狙いと見る向きは多い。

 安倍氏の出身で党内最大派閥の細田派と、甘利氏も加わる麻生派で「二階降ろし」を仕掛け、今後の政局の主導権を握ろうというわけだ。

 菅首相も時流を読み、軸足を二階氏から3Aに移したようだ。6月3日には、安倍氏の事務所に自ら足を運び、30分にわたり会談。細田派議員によると、首相は「通常国会は延長せず、東京五輪開催に全力を挙げる」と伝えたのだという。  二階氏は「不信任案が出たら衆院解散」と息巻いていたが、この時点で「秋解散」を軸とする今後の政治日程が固まっていたことになる。

 それにしても、安倍氏の力の源泉は何なのか。先の細田派議員は最大派閥出身だけが理由ではないとして、第一に「長期政権で培った米国との厚い信頼関係」を挙げる。

 首相の政権運営を考えた場合、ワクチン供給にしても五輪の成功にしても、米国の協力は欠かせない。「アフターコロナ」を見据えた「半導体供給網の強化」や「脱炭素」も日米連携が不可欠で、対中国包囲網の構築では日米同盟がまさに主軸だ。

 「菅・バイデン関係が深まらない中、米国は安倍さんを重視している。安倍さんに近い議員がウイグルや台湾を巡って国会活動をしているのは、米大使館サイドの働き掛けもあるようだ。親中派として警戒される二階氏とは違う」(細田派議員)

 菅首相が長期政権を見据えたとき、外交はさることながら内政においても、「永田町の力学」を超えて日米関係が重要になるのは論をまたない。本格政権を志向すれば、安倍氏を「要」とする3Aに乗るのは当然の帰結なのかもしれない。

 ▽「安倍再々登板」シナリオも

 だが、今後の展開は菅首相の描く青写真の通りに進む保証はない。現段階では、9月中旬の衆院解散、下旬の衆院選公示、10月上旬の投開票が有力視されているが、これはあくまでもコロナ感染を抑制し、東京五輪を成功裏に終えた場合の想定だ。

 コロナの緊急事態宣言はほとんどの地域で、6月20日の期限をもって解除される見通しだが、東京などの1日当たりの感染者数は1週間平均で300人を大きく超えており、まだ多い。インド株などの変異株が広がれば、またしても感染のリバウンドを招くことになりかねず、夏の「第5波」も懸念される。

 ワクチンの接種ペースも上がったとはいえ、必要な2回の接種を終えた人の割合は15日現在でまだ5%台。40%台の米国や英国、20%台のドイツ、スペイン、イタリア、フランスなどに比べると、やはり遅れが際立つ。東京五輪の開幕を7月23日に控え、首相が「薄氷を踏む思い」(細田派議員)でいるのは間違いない。

 政治情勢も連動する。自民党の岸田文雄前政調会長は11日、3Aそろい踏みで「新たな資本主義を創る議連」を発足させ、「ポスト菅」として存在感をアピール。二階氏も15日、150人の議員を集めて「自由で開かれたインド太平洋推進議連」を立ち上げた。

 二階氏が安倍氏を最高顧問に招いたのは、党内融和の姿勢を示して引き続き主流派にとどまるためと見られているが、「いざというときに備え、安倍さんの再々登板の流れをつくるため」(同)と勘ぐる向きもある。二階氏を支える野田聖子幹事長代行も、日本初の「女性宰相」を目指し、9月末が任期の自民党総裁選出馬への意欲を隠さない。

 ▽立民「情勢調査は好調」、引責辞任も

 菅首相はこうした動きをどう見ているだろうか。五輪が失敗に終われば、衆院解散前に総裁選実施を求める声は出てくるだろう。先に解散に踏み切ることができても、議席を大きく減らせば総裁選での無投票再選はかなわないどころか、引責辞任を余儀なくされる可能性すらある。ここを乗り越えても来年7月には参院選が待っている。

 立憲民主党が最近行った衆院選の情勢調査は好調で、定数465のうち「立民で150議席、野党4党で200議席は見えた」(立民関係者)という。枝野幸男代表は「今回の衆院選で足場を築き、その次で単独政権を本気で目指す」(同)構えだという。

 首相としては、五輪を成功させ、選挙に勝つしか道はない。政権基盤を固め、人事の主導権を自らが握ることができれば、念願の本格政権を立ち上げることができる。しかし、五輪が不本意な結果に終わり、コロナの第5波が猛威を振るえば、政権の先行きはそう長くはないだろう。