2020年が幕を開けた。元徴用工による訴訟やいわゆる「ホワイト国(優遇対象国)」の除外などが影響して、史上最悪と表現されるほど関係が冷え切ってしまった日韓両国の関係はどうなっていくのだろうか。(釜山在住ジャーナリスト 原美和子=共同通信特約)

 ▽セールは大混雑

 日韓両国に起きたさまざまな軋轢の中で最も印象に残っているのが、19年夏に韓国国内で起こった「NO ジャパン」運動だ。日本政府に対するデモを繰り返したほか、日本製商品の不買運動をするなど韓国全土を巻き込んだこの運動から約半年が過ぎようしている。現在はどうなっているのだろうか?

 「NO ジャパン」運動が真っ先に標的としたのが、カジュアル衣料品のユニクロといった日系企業だった。実際のところ、当時は「ユニクロは好きだ。でも、今は洋服を着たり、買い物袋を持つことはためらってしまう」という声が、筆者の周辺からも聞こえていた。韓国への輸出が一時期ほぼゼロになった日本製ビールもそうだが、分かりやすい商品はターゲットにされやすい。

 この苦境を打開すべく、ユニクロが19年11月に実施したのが、韓国進出15周年を記念した「感謝祭」。多くの商品をセール対象品としただけでなく、セール期間中に店舗で商品を購入すれば、人気商品「ヒートテック」を1枚プレゼントするというサービスを韓国内の全186店で行ったのだ。

 同時期に行われた世論調査では7割を超える人が不買運動に「参加している」と答えたように、運動は盛り上がっていた。こんな状況では失敗するのではないか…。そんな心配をしていたが、見事に外れた。セール期間中、筆者が住む釜山市内を含め、どこの店も大混雑し、レジは会計を待つ人で長い列ができていた。結果、韓国全土でヒートテック10万着を用意したにもかかわらず、サービスはあっという間に終了となった。

 ユニクロに対して、マスコミは「セールを行っても全体の売り上げは昨年比約4割と激減している」ことを強調。セールでユニクロの商品を購入する人々のことも批判的に報じていた。とはいえ、注目を集めたという点ではユニクロの作戦勝ちとも言えるのではないだろうか。

 ▽日本製ゲーム機も大人気

 クリスマスが間近に迫った19年12月23日。釜山市内の大型スーパーにある玩具量販店「トイザらス」に足を運んだ。

 プレゼントを買い求める客でにぎわっている店内で、日本製品は目立たないように売られているに違いない。そんなことを思いながら、店に入ったら意外な光景が広がっていた。ニンテンドースイッチやプレイステーション(PS)といったゲーム機をはじめとする日本製おもちゃが最も目立つところに並んでいたのだ。

 中でも多くのスペースを占めていたのが、ニンテンドースイッチ。同年11月までに韓国国内で累計60万台以上を売り上げるなど、PSを上回る人気を上回っている。また、この年末年始のテレビCMで一番目にしたのもニンテンドースイッチだった。

 不買運動のターゲットとされた企業について、マスコミはユニクロと同じように否定的な論調を繰り返している。ところが、ニンテンドースイッチを製造する任天堂についてネガティブに伝える記事は目にしたことがない。そう、報道が一貫していないのだ。

 そうなると、次のような疑問が湧いてくる。「NO ジャパン」運動とは一体何だったのだろうか―。

 同時に、韓国人は熱しやすく冷めやすいことも痛感した。どこの民族も同じことは少なからず言えるのだろうが、韓国人はその振り幅があまりに大きすぎる。マスコミやネット上では、今も反日を声高に訴える文章が目立つ。一方、町を歩くと昨年の盛り上がりは感じられなくなっている。

 ▽日本旅行は未だ低調

 落ち着いたように見える「NO ジャパン」運動だが、完全に終息したわけではない。

 その代表が、日本への旅行だ。日本政府観光局(JNTO)がまとめた19年の訪日外国人客数(推定値)では、韓国からの訪日客は558万4600人。18年比で25・9%減と大きく落ち込んだ。依然として低調で回復の兆しは見えていない。裏付けるように、観光庁によると昨年12月に訪日した韓国人旅行者は18年12月に比べ63・6%減の24万8千人にとどまっている。

 このあおりを受けているのが、日本への路線を持つ格安航空会社(LCC)。搭乗客の少なさから採算が取れず、地方便を中心に減便や運休を余儀なくされている。昨年11月に日本に一時帰国した際に訪れた東京・銀座の飲食店でも店員がため息交じりに「以前は外国人観光客と言えば、中国と韓国で二分されていた。しかし、今では韓国人旅行者は目に見えて激減している」と話していた。東京ですらこの状態だった。ならば、地方の状況は推して知るべしだろう。

 だが、多くの韓国人は違う思いを抱いている。そう筆者は考える。本当は日本に旅行したいのだ。今は、マスコミやネットで繰り広げられる反日的な論調が収まるのを静かに待っているのだろう。東京や大阪といった主要都市への便数が回復しつつあるのは、そういう心情を見越しているのだろう。

 ▽4月の総選挙に注目

 韓国の文在寅大統領は1月7日、「新年の辞」を発表した。そこでは、日本に対して輸出規制の撤回を求めるなど従来通りの主張がなされていた。内容だけを見れば相変わらずの強気の姿勢を維持している。しかし、言葉の勇ましさとは裏腹に、表情や口調を昨年と比較するとトーンダウンしているように感じられた。復調の兆しが一向に見えてこない韓国経済の現状を受けて、日本への姿勢を見直そうとしているのかも知れない。

 とはいえ、楽観はできない。今年4月には国会議員を選ぶ総選挙が行われるからだ。文氏の任期は22年5月までで、来年には大統領選挙も控えている。文氏にとっては残りの政権運営や後継者を選ぶ上でも非常に重要な選挙となる。それゆえ、支持率低迷に苦しむ文氏が日本に強硬な態度を取ることで人気回復を計ったとしても何ら不思議ではない。

 韓国で暮らす日本人である筆者としては、わずかでも良いので関係が良くなってほしいと願う。しかし、両国が抱える懸案は何一つ解決していないのも事実。きっかけさえあれば「NO ジャパン」運動が再燃する可能性は十分にある。日韓関係は今年も予断を許さない。