世界中に衝撃を与えた災害の「記念日」が近づくと、各国のメディアが追悼特集を組む。東日本大震災から10年目の3月11日にも、私たちとともに悲しんでくれるような報道を漠然と期待していた。しかし、当日最初に目に飛び込んできたのはチューリヒ最大手の新聞ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)の「福島原発大事故から10年たっても原子力発電を放棄したくない日本」という記事だった。東京発のこの記事は、脱炭素政策、原子力エネルギー政策、経済界の葛藤、代替エネルギーの現状、一般市民の声、そしてそれぞれのジレンマを公平に伝えようとしている。だが、それでも10周年の悲しい気持ちを逆なでされるような切ない思いが込み上げた。そんな中、欧州では既存のメディアを尻目に真実をさらけ出すような取材をしている日本の市民ジャーナリストへの注目が集まっている。(チューリヒ在住ジャーナリスト、共同通信特約=中東生)

 ▽おしどりマコ&ケンのウェビナー

 まず、医学部を中退してアコーディオン流しになったマコとパントマイムダンサーのケン夫妻だ。

 夫妻は芸能活動をしていたが、原発事故直後からフリージャーナリストとして取材を開始。長期にわたる報道は、平和や反核などの分野で優れた報道をした個人や団体に贈られる「第22回平和・協同ジャーナリスト基金 奨励賞」を2016年に受賞した。18年にはチューリヒ大学で講演して話題になった。

 今年1月には東京、ベルリン、マドリード、チューリヒ、パリ、ロンドン、モントリオール、ニューヨークからの視聴を前提にした「ウェビナー」(オンライン講演会)を開催した。開催数日前には500人の定員を軽く超え、アクセスできなかった人も多かったという。そこで脱原発グループ「sayonara nukes berlin」と「よそものネット」は6カ国語に翻訳した字幕を選択できる形に整え、3月10日からYouTubeでその模様を公開している。

 マコ&ケン夫妻はその中で「住民の健康調査検討委員が、被ばくの影響などないという前提で活動している」「原発事故直後の小児甲状腺被ばく調査がモニタリングとして有効に行われなかった」などの取材結果を列挙。そして「情報がどこから来たのかを丁寧にたどり、それにどう接するかを考える。それをする人が増えることで、世の中を少しずつ良い方向にもっていけるのではないか」と締めくくった。

 彼らは10年間の取材を通して、「事故直後から『汚染はなかった』という筋書きが決まっていて、それに沿って動いていたのではないかとさえ感じる」と述べている。彼らの主張を聞くと、そのような祖国を外国人の前にさらけ出すことに羞恥心を禁じ得ない。それでも一方で、世界規模で共有することによって何かが開けるかもしれないとも思う。

 ▽「福島は語る」

 スイスにも、在住する日本人が中心となって脱核・脱原発を目指す「アジサイの会」という団体がある。毎年3月11日にHALBWERTSZEIT(半減期)映画祭と称して原発事故関連の映画を上映したり、スイスの古い原発の廃炉を訴えたりする活動をしている。福島での原発事故直後から、稼働中の原発の安全を求め、毎週平日のうち4日間、午後5〜6時にスイス原子力規制機構前で行われている「無言の見張り」にも参加している。今年の3月11日には2千回目を迎え、地元紙が取り上げた。

 昨年の3月11日には、原発事故に翻弄(ほんろう)された人々の証言を集めた「福島は語る」(土井敏邦監督)を、ドイツ語字幕付きの2時間35分版に短縮して上映した。ただ新型コロナ感染症が広がる中、30人足らずの観客しか集まらなかった。このため、今年の3月11日から17日まで1週間、動画配信サイトを通して無料で視聴できるようにもした。

 その後21日には土井監督を交えZoomを使ったミーティングを開催。スイス人の参加者の一人は、被災者が土井監督に支えられながら苦しみを吐露していく過程に癒やしの効果を感じたという。「被災者に問題を語ってもらうのではなく、個々の感情を表現したい。それは万国共通だから」と言う監督の意図した通り、監督に心を開き始めていく被災者の感情が、参加した彼らに伝わったのだろう。

 Zoomミーティングの最後に「日本では3月11日にどのようなリアクションがあるのか」との質問が出た。土井監督は「セレモニーのように当日だけで、その後は話題にのぼらない」と答え、継続的に取り上げていく重要性を訴えた。

 福島での原発事故について、今、当事国である日本よりも欧州人の方が身近にある危機として実感しているように思えるのは気のせいだろうか。

 おしどりマコさんが「いちばん本気を出さなきゃいけないのは10年目以降。11年目からはもっと頑張らなければならない」と話したように、私自身も真剣に向き合っていきたい。