「アジア最後のフロンティア」と呼ばれ、各国企業が競って進出したミャンマー。国軍によるクーデターで状況は暗転、市民弾圧で800人超が死亡し、国軍関連の取引に関与した企業は激しい不買運動や株主の批判に見舞われている。共同通信の調査でも、少なくとも10社の日本企業が国軍系企業との直接取引や国軍の収入源となる可能性のある事業に参加していた。日本が政府開発援助(ODA)を供与する事業の下請けに国軍系企業が入っていた例もあった。バイデン米政権などは国軍系企業への制裁を発動し投資停止を呼び掛けており、ミャンマーの政府系企業や公社を協力先とした場合も欧米の制裁対象となる恐れがある。一方で日本政府は国軍との「独自のパイプ」を重視して制裁を控えている。高い成長性を見込み、巨額の資本を投じてきた多くの日本企業は、引くに引けない状態に陥っているのが実情だ。

 民主化の軌道回復が絶望視される中、官民挙げてミャンマーを支援してきた日本の資金が、人権侵害を繰り返す国軍の活動資源になる懸念が大きい。(共同通信=角田隆一、豊田祐基子)

 ▽困難な加担回避

 共同通信は、国連や国際人権団体が国軍との関係を指摘した日本企業を対象に調査を実施した。多くの企業が既に配当金などの支払いを停止したと回答したが、事業の見通しや間接的な人権侵害加担を防ぐための措置については大半が具体的な回答を回避した。

 キリンホールディングスは、代表的な国軍系企業のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)を合弁相手に、ビール事業を展開してきた。国連や国際人権団体は配当金が軍の資金源になると指摘し、不買運動の対象ともなった。2月のクーデター後には合弁解消を表明。配当金の支払いは既に停止したものの、合弁先との交渉は難航しており、提携解消のめどは立っていない。

 官民ファンド「海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)」、フジタ、東京建物の日本企業連合が実施する最大都市ヤンゴンの再開発事業では、ミャンマー国防省が所有する軍事博物館跡地を合弁先が転貸し、年間2億円超の地代が国防省に支払われていたことが分かった。関係者によれば、2020年の地代は支払い済みだが、21年は「検討中」という。

 国防省と国軍は実質的に一体だ。国防相は国軍総司令官が指名する現役軍人で文民統制は及ばないが、日本企業連合を代表して回答したフジタは「最終的な受益者はミャンマー政府と認識している」と説明した。

 総事業費370億円のこの事業では、国際協力銀行(JBIC)、みずほ銀行、三井住友銀行が18年に協調融資を決定した。国軍による少数民族ロヒンギャ迫害が既に国際問題化していた時期で、判断を疑問視する声が出ていた。それぞれ人権尊重の方針を掲げるみずほ銀行と三井住友銀行は日本の資金が国軍に流れる可能性について「個別の案件について回答できない」としている。

 日本の官民が開発するヤンゴン近郊のティラワ経済特区につながる円借款事業の「バゴー橋建設事業」は、横河ブリッジが三井住友建設との共同企業体で受注した。その下請けに国軍系企業が入っていた。

 下請けに国軍系企業が入っていたことを認めた横河ブリッジホールディングスは、今後について「人権を尊重する」とするにとどめた。円借款を実施する国際協力機構(JICA)は、ミャンマーでの資金協力事業で、国軍と密接な関係にある企業が参画した例はバゴー橋事業以外にはないとしている。

 日本ミャンマー協会会長の渡辺秀央元郵政相が登記上、取締役の企業も国軍系企業と合弁会社を設立していた。事業内容は説明できないとした上で「数年前から実体はない」と回答した。

 食品産業機械のサタケ(広島県)は国軍系企業と提携していた。今後の方針については「状況を注視する」という。

 宝飾大手のTASAKI(神戸市)は、国軍の資金源だとして米制裁対象となったミャンマー真珠公社に真珠養殖の許認可を受け、法令で生産高の2割を物納していた。同社は制裁の影響を精査し「最善の対応をする」としている。

 ▽最後の新天地

 ミャンマーには2011年の民政移管後、外資が競って進出した。中でも約400社が展開する日本の存在感は大きい。背景には、地域で影響力を争う中国を念頭に、新興国への進出支援を成長戦略に位置付けた日本政府の後押しがあった。

 日本政府は民主化支援の目的でODA再開や延滞債務の解消に乗り出し、円借款による大型開発を当て込んだゼネコンや商社、資金需要を見込んだ銀行が新天地を目指した。残る外資規制のため外国企業は現地企業をパートナーとする必要があるが、進出が熱を帯びる中で、リスクが高いとされてきた国軍系企業との直接提携に踏み込むケースも目に付くようになった。

 ミャンマーでの国軍の影響力は大きい。国軍総司令官や国防省の支配下にあるMEHL、ミャンマー経済公社(MEC)は傘下に100社以上を擁し、通信、電力、製造業など広範に展開する。両社は欧米の制裁対象となった。

 国軍に近い財閥も含めれば、ミャンマーで「国軍と全く関係がない取引先を探すのは困難」(東南アジア金融筋)との声もあるほどだ。欧米が制裁対象を財閥にも拡大すれば、多くの日本企業が影響を受けるとみられている。

 ▽納税にも批判

 企業に人権への配慮を求める傾向が強まる中、ミャンマー国軍が絡む事業は視界不良だ。公社や政府系と組んだ場合も協力先が国軍支配下に入るため困難な判断を迫られるのは避けられない。

 KDDIと住友商事は14年、ミャンマー郵電公社と提携した。共同で通信事業を運営しインターネット普及に貢献してきた。しかし、クーデター後は国軍の命令で携帯のデータ通信を遮断。会員制交流サイト(SNS)が国軍の弾圧を伝える市民の命綱になる中で、意図せず国軍側に協力する形となっている。

 日本の官民によるティラワ経済特区開発事業には、ミャンマー政府(ティラワ経済特区管理委員会)も出資した。クーデターで管理委委員長が拘束、解任され、配当金を停止している。当面は新規入居も見込めない状態だ。

 その他の企業も無傷ではいられない可能性がある。ミャンマーでは企業が源泉徴収して所得税を納めるのが通常だが、「不服従運動」に加わる市民からは税金を納めるだけで国軍支援とみなされかねず、線引きは困難になる一方だ。

 現地では治安が悪化した状態が続いており、開店休業状態の日本企業も目立つ。アジア経済研究所の水谷俊博氏は「操業を続ければ、国軍の人権侵害を容認したと受け取られるリスクがある」と指摘する。

 「日本のミャンマー支援の前提となった民主化プロセスは崩壊した」とする日本政府関係者は「進出企業の“店じまい”をどう支えるかが課題になってくる」と話した。