「特別扱いせんでええよ うちはみんなと同じ人間やさかい」。こう歌うのは、生まれつき目が見えない全盲のシンガーソングライター・荒川明浩さん。障害を持つ当事者だからこその言葉が胸を打ち、ファンの輪が広がりつつある。

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 しかし日常は、街中を歩くことも簡単ではない。「自転車が両脇から来て、杖を折られた事もある。相手は全然謝らない、それが世の常」。自宅での暮らしもパートナーが常に見守るなど、誰かの助けがないとままならない現実がある。

 「歌を通じて(障害がある人への)偏見と先入観が、無くなればいい。目の見えない人でもこうやって歌っている。同じ人間として評価して欲しい」と語る荒川さん。障害のある人と社会との向き合い方について、『ABEMA Prime』では本人と考えた。

■高校1年生から本格的に始めたギター

 荒川さんは「家族がカラオケで歌っているのを聞いて、最初は演歌から入った」と振り返る。「小学生の時、母親のギターを初めて触った。歌は好きで歌っていたが、中学3年生の時、『ギターっていいな』と感じ、高校1年生から本格的に始めた」。コードの指使いは、最終的には自分で探りながら修得。「絶対音感を持っていた。チューニングは"音さ"でする」という。

 好きなアーティストは長渕剛とビートルズだ。「歌詞もそうだが、リズムやノリ、コード、メロディが好き。最初に練習したのは『とんぼ』。夏休みは2時間以上練習して、Fコードをおさえられるようになった。初めてカポタスト(ネックに付けて移調する器具)を買った喜びは忘れられない」。

 これまで『ひとりよがり』『見えない星』『僕は教えられました』など30曲ほどを作ってきたが、多くの曲は「歌詞が先」だった。「コードは頭でイメージしたら、だいたいわかる。ギターを弾いて、実際の音と比べて、合っているものが曲になる。歌詞はスマホや点字でメモする」。

■『特別扱いせんでええよ』に込められた思い

 荒川さんは、2023年に奈良新聞社主催の「夢フェス」に出場し、『特別扱いせんでええよ』で最優秀賞を受賞。この歌には、どんな思いが込められているのか。「かわいそうに、頼りなさそうに見られているが、不器用でも僕のやり方がある。できることはやる、できないことは頼むから、黙って見守ってほしい。できない時は、そっと手を差し伸べてほしい」。

 この曲は「うちがとぼとぼ歩いているだけで、どうか泣かんといてほしい」の歌い出しから始まる。「歩く姿を見た人に『お兄ちゃん、かわいそうになぁ』と泣かれるが、それは違うやろって。回り道や戻り道はあるけれど、人の道は外れていない」。

 歌詞には「静かに見守っておくれ」というフレーズもある。「尋ねた時には、手を差し伸べてほしい。普通に当たり障りなく接してほしい」。接し方には世代間にも差があるといい、「親世代は当時のことを考えるが、自分たち世代とはギャップがある」と明かした。

 夢フェスでは、ロックバンド「ゴダイゴ」のタケカワユキヒデさんが審査員を務め、「もっと社会に広まるべき歌。活躍を期待している」とコメントした。荒川さんは「初めてプロのアーティストに聞いてもらえたのが、受賞よりもありがたかった」と振り返る。

■合理的配慮の義務化も…「双方が意見を出し合うことが一番大事」

 この春から「合理的配慮」が義務化された。2016年に「差別を解消し個性を尊重する社会の実現」を目指す障害者差別解消法が施行されたが、2024年4月に改正法が施行され、これまで行政機関等では“義務”、事業者は“努力義務”とされていた「合理的配慮の提供」が、いずれの場合も“義務”となった。

 荒川さんはこれを機に「店舗が優しくなってくれたら」と願う一方で、課題も指摘する。「始めて1カ月、まだ周知されていない。知らない人の方が多く、法律の有無を抜きに、偏見や先入観を捨ててほしい。『理解して』では難しく、気づいて知ってもらうことから、友情や愛情を深めたい」。

 店舗などで不便と感じる場面はどこか。「狭くて動きづらい店だったり、店主が1人で切り盛りする店はそういった人への対応が大変だ。店の状況も入ってみないとわからない。ただ、視覚障害者には自立支援の制度があり、ヘルパーがついてくれたり、地図アプリで音声を聞けばなんとか店を探せる。もっと大きな障害を抱える方に焦点を当ててほしい」と話す。

 荒川さんは、あくまで「特別扱い」ではなく、「当事者みずから『こういう事をしてほしい』と訴えたらいい」との持論を示す。「店側が『これはできない』ということもある。現状は線引きがハッキリしていない。一方的な意見では理解してもらえず、双方で意見を出し合うことが一番大事だ」。(『ABEMA Prime』より)